崩御の影響
大魔王様が死んだ。
この世界の住人の何%がいずれこの時が来ると思って準備していたのかは分からない。
もしかしたら俺と魔族大っ嫌いな教会連中だけだったかもしれない。
いや、教会連中ですら自分たちの生きてるうちにこの日が来るとは思っていなかったかも。
マリアに調べさせたら内ゲバで忙しかったようだし…。
だがついに戦いの季節が訪れてしまったのだ。
開戦すればリヒタールは恐らくというかほぼ間違いなく最前線になる。
人間界から魔界に侵攻しようと思った時にまず一番めに候補に挙がるのはリヒタールだ。
道も広く、平野も多い。大軍が展開しやすい土地だ。
後は中立だけど怒らせたらうるさいエルフのユグドラシル王国を通るルートと、滅茶苦茶険しい山道が続くらしいガクルックス魔王領を通るルート、それとヴェルケーロ領の裏山を超えてくるルートだ。
4種類ある道のうち後ろの二つは常人なら通ろうとは思わない。
特にガクルックス魔王領に通じるルートは通るだけで危ないような道らしい。
ヴェルケーロの裏山はトンネルが有ったので危ないが、あそこはまあまあ厳重に封鎖してるし、道もかなり狭いので大軍が侵攻するのは向いてないと思うが…まあでもとりあえず見回りは強化しよう。
まあとりあえず普通に考えてリヒタール方面に、大軍が来る。
人族と魔族は1:3くらいの戦力評価になる。という訳で小勢で来たら街の住民が追い返すだろう。
それでも攻めて来るとしたらちょっとやそっとじゃ手に負えないくらいの数の大軍だ。
師匠や伯母上には以前から何回もこういう事になったら防衛が~って話してるので大丈夫だとは思うが…うーん、分からん。平和を謳歌しまくって平和ボケボケのどこかの国みたいになってたら攻められたら降伏しようとか言い出すアホもいそうだ。
後はユグドラシル王国方面だ。
エルフは人間とも仲がいいから突然攻められたり…すんのか?わかんないなあ。
まあ魔界全体はどうなるか知らんが、俺と爺さんとで個人的には同盟関係にはなるだろうから、それからの事はまた後で考えよう。
「うーむ…マリア、すまんが手の者をあちこちに送ってほしい。」
「はい。」
「これから恐らく人魔間で戦争が起こる事、避難するならいくらでもヴェルケーロで受け入れると。それから前線になりそうな所は武装とか支援とか、あるいは逃げ出す準備しとけって。」
「カイト様、リヒタール方面はどうしましょう」
「最前線もいいところだからな…信じられないかもしれんが、今年のうちには攻められるぞ。」
「そのような事が有ると思っているのか!?大魔王様が崩御されたばかりなのだぞ!」
「無いと思って油断してれば来るでしょうね…」
師匠が驚いているが、そんな事があるんだなこれが。
大魔王様が死んで喪に服している間にうんちゃらかんちゃらってのはどこかで見た。
喪に服すのは日本人感覚だと1年程度だ。
と言っても1年の間ひたすら喪に服すかと言えば普通は葬式が終わったら出社する。
1年もひたすら家で喪に服すなんてやってたら飯が食えなくなるからな…
三国志とかで見る限り、昔の中国なんかはもっと何年も喪に服していたらしいが、さすがにそこら辺は現代日本人基準で問題ないだろ。つまり侵攻は今年中だ。
「…ところで、若はリヒタール領を取り戻そうとは思われないのですか」
マークスが発した一言で場が凍る。
まあ俺もちょっと考えたけど、ここから攻め込んでいくにはちょっと遠すぎる。間に何人もの領主がいるし、そいつらの領地を『一寸ゴメンよ』って横切らせてもらえるかと言えば…うーん。
とまあ、そう言う事を言うと。
「若が帰って来たとなれば領内は一丸となって代官を追い出すと思いますが」
と来たもんだ。
うーむ。
「悪くはないと思うがやっぱり却下だ。たしかに俺が行けばリヒタール領から代官を追い出すくらいはできそうだが、そうすると代官と争って傷ついたリヒタール領と、カイト・リヒタールは大魔王様が亡くなってすぐに戦争を起こした酷い奴だって評判しか残らん。大魔王領だって援軍を出しづらいだろうし伯母上だって…」
「まあそうだな。私が援軍を出したいと言っても官僚共がどう言うか」
師匠もそれは厳しいって顔だ。
まあそうだろな。
「虎視眈々と隙を狙っている人族の前に味方のはずの魔族に嫌われて、おまけに内乱で弱り切った領地がある。碌な事にならんだろうな…」
「そうですか…」
「代官だって大魔王領から来て…そんなに悪い訳じゃないんだろ?そのバイバインは」
「いたって普通、という評価のようです」
マリアの所に来る情報では可もなく不可もなく、という所らしい。
じゃあしょうがないじゃんね。
「普通なら追い出す時揉めちゃうでしょ…まあ無しだな」
マークスは残念そう。師匠は少しほっとしてる。
マリアは…ああ、こっちも残念そうだ。
一応フォローしとくか。
「と言っても、もちろんリヒタール領が攻められて住民が傷つくのを望んではいない。だから行商に見せかけてでも何でもいいから脱出してこっちに来いと言ってほしい。道中の旅費や食料はこちらでいくらでも持つぞ。半信半疑の者もいるだろうがウチは何時でも受け入れると言っておいてほしい。」
「はい」
「マークスも。今年の領内の作付は増やそう。まず食料の、兵糧の増産をしよう。攻めたりするのはそれからにしたい。戦にならなきゃ酒に変えて飲んじまえばいい」
「ハッ」
「師匠は…師匠は大魔王城内部を見てきてほしい…んだけど、もしかすると師匠が後釜に祭り上げられたりとかってあります?」
そう言えば師匠は大魔王様の直系だった。
いわゆる姫君で、俺なんて一応直臣とはいっても大した立場じゃないんだから本当はタメ口聞いただけで死刑…には流石になんないけど、めっちゃ怒られるくらいは当然なのだ。
その師匠が大魔王様の崩御した時に帰る。
うん、帰らないのも不味い。と言うか俺も葬式に行かないのは不味いか。
「…それは無いと思うが…わからん」
「と言うか俺も葬式行かないとダメか…しょうがない。マークス、マリアも一緒に行こうか。お葬式ってどんな感じでするんだっけ?」
「大魔王様のお葬式ですからなあ…ちと調べます」
大魔王様は初代にして唯一の大魔王だ。だから大魔王の葬式に前例なんてないと思うけど、何を調べるんだろう。まあ任せとけばいいか。
と言う訳で俺は村の代表たちを集めて暫く留守になる事、留守の間の注意事項や開発の進めて欲しい所なんかを話した。
大体の開発計画は大きく書いて張り出してあるが、今回は避難民が来るかもしれないから住宅地を開拓しておくことと集合住宅を作っておいてほしい。
無駄になるかもしれんが無いよりましだ。そのうち何かに使えるだろう。
不戦の約定、解かれ申したッ!って状況です。
ところで『不戦の約定』って日本語の響きめっちゃカッコいいですよね。
そのせいでこれ書いてるまである。
地図?地図は今頑張って作ってます。
おかげで続きはあんまり書けてない…。