防衛戦④
爺ちゃんのおかげで何とかお昼前の襲撃は防いだが、夕方には飛行型モンスターもドンドンと増えてきた。
飛んでる奴には矢も投石も火球も相性がいまいちだ。飛行高度が高くて届かないわけではない。
純粋に当たらないのだ。
エルフの魔法部隊の人たちが何とか凌いでくれているが、どう見ても厳しい。
上に注意をすると今度は下からの攻撃に対する対応が遅れてしまう。
そんな時の事だった。
「カチ…キチキチ・・・カチカチ」
新たに増えたスズメバチ型のモンスターが城壁の上の兵士を襲う。
「うわあああ!スラッシュ!」
襲われた兵士は何とか手持ち武器で追い払うが、
がぶり。
背後から登ってきたクモに頭から丸かじりにされてしまった。
「くそ!ツリーアロー!ダブルスタブ!」
木矢で牽制して槍で仕留める。
兵と一緒に落ちていくクモを目で追いながら下を見ると、続々と城壁に張り付く昆虫たち。
「おわあああ!アカ!火!!ロッソ!石!!!空は俺がやる!ツリーアロー・ストーム!」
空のスズメバチとトンボに矢の嵐を降らせ、アカとロッソには城壁に群がる虫たちを倒してもらう。
「もえろ!えい!とりゃー!」
「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン!!!」
毎日のレベルアップで昨日よりさらに大きな火を噴くアカと、こちらもレベルアップのおかげかさらに球速を上げ、時折不思議な曲がる球や分裂する球を投げるロッソ。なにあれ?どうなってんだ?
まあロッソは何か投擲系のスキルでも取れたんだろ。そういう事にしとこ。
今それどころじゃねえしな。
「アローストーム・トリプル!アローレイン・クワトロブル!アロートルネード!…はぁはぁ」
あっ、アカン。
フラフラしてきた。魔力切れだこれ。
不味い魔力ポーションを飲む。飲むと余計に喉が渇く不思議な飲み物だ。
味は…青臭い泥?
ドンドン増えるトンボに蜂。
死者は辛うじてさっきの一人だけだが、どんどん増える怪我人、見るからに押されている防衛隊。
やばい。このままじゃ崩れる。
「ええい!もう少しだ!踏ん張れ!」
「「「おう!」」」
周囲を鼓舞する。
俺と同じような表情でクソ不味い魔力ポーションを飲んでいる魔法使いばかり目に入る。
後は城壁の上から槍を突きだす兵たち。
地上に向けて弓や投石を行う者はほとんどいなくなった。
もう槍が届くところまで登られているという事だ。
「ぬおおお!」
ロッソが愛用の槍に持ち替えた。俺が送った朱槍だ。
やっぱ武人と言えば朱槍とか赤揃えだよね~と言いながら試しに作った品。
ゴンゾが親父サイズで作ったので俺にはどうしようもない程大きかったが、思ったより出来が良かったらしいからロッソにあげたのだ。
ロッソは槍を振り回す。
スキルを使うMPはどうも切れているみたいだが、鋼の肉体にはスキルなど必要ない。
カマキリの鎌と首をまとめて切断し、ムカデの足をまとめて叩き切り、ゴキブリは穂先で刺して放り投げる。ゴキブリが落ちた先にいた虫がつぶれた。素晴らしいな。
「おっと、危ない」
首を落としたカマキリがまだ動いていたので拘束してそのまま突き落とした。
虫系モンスターは倒したと思った後が厄介だ。
ウゴウゴしているだけでも、元のサイズが大きいのでうっかり傷を負いかねない。
「若、申し訳ない」
「気にすんな。次が来てるぞ」
次、というかその次もそのまた次も来ている。
いくらでもかかってこいこいだ。だが、俺たち3人のいるところはそれほど問題ないが、すぐ近くの区画でもかなりピンチになってきている。そう思っていると、
「キシャアアア!」
「うわあああ!」
「壁を越えてきたぞ!ふせげええ!」
「やべ。あっちフォローしてくる!」
50mくらい離れたところで虫が1匹壁を越え、3人兵隊さんと押し合いになっている。
今のところ押し負けてはいないがすぐ下に別の個体が。
そう思いながら走っているが、到底間に合いそうにない。
次の個体が上がって来た。
カマキリのモンスターが3人のうちの一人を頭から齧りつこうとしている。あぶない!
(矢じゃダメか!)
今のあの位置から木矢で拘束してもそのまま体を伸ばしてガブリだ。
レベルも散々上がった。
火魔法の訓練も積んでいる。
それに、アシュレイを見送ってから火魔法の適正は上がっている…今こそ火の魔法を使う時だ
「アシュレイ、俺に力を…フレア・ミサイル!」
火魔法、バレット系の上位であるミサイルを使う。着弾で吹っ飛ばすためだ。
狙うのは当然頭部。
的は小さいが、ミサイルなので追尾性能がある。ちゃんと発動すれば問題ない。
アシュレイに力を借りる気持ちで放った『火属性追尾魔法』は狙い違わず兵を狙っていたカマキリモンスターの頭部を吹っ飛ばした。
「よしっ!後は…ツリーアローストーム・ダブル!」
後は登ってくる虫たちとそのさらに下にいる虫に対して木矢で拘束する。
そして、
「アカ!火!」
「まかせろ!がおー!」
いつもの火球ではなく、火炎放射器のように『ボオオオオオオ』と長い火を噴く。
拘束していた木に良く燃え移り、拘束された沢山の虫たちを火あぶりにした。
「ナイス!」
「でへへ…」
ぐっじょぶなアカをなでくり回す。
いやあ、俺らもしかして相性抜群じゃね!?
木+火がこんなに相性いいとは。
…ああ、俺はアシュレイとも相性抜群だったんだな。
上がったテンションが一気に下がってしまった。
はあ…。
「まだきてるぞ!ぼーっとするな!」
「あー…分かってるよ」
城壁の上をあっちに行ったりこっちに行ったり。
俺が拘束してアカが火を噴いて、流れが分かってしまえばあとは何とかなる。
そうこうしているうちにまた夕方になり、波は去っていった。
書いてて思ったんですけどカイトは躁鬱が激しいですね。
まあ目の前で大切な人が死ねば大抵そうなるでしょうけども…ちょっとかわいそうになって来てしまう。
しかしまあ、異世界で他人を蹴落としてでも成功しよう、常人には出来ない事をやろうってのはよっぽどのサイコパスじゃなきゃできないと思うんですよね。それかゲームの中だから死んでも殺しても何でもいいやとか。
普通に日本で道徳教育を受けたような一般人は何かよほどの事が起きなければ一念発起して頑張ろうとは思えないんじゃないかなと。
産まれが良ければダラダラ暮らしていくなら大して頑張らなくても問題ないはずで…とまあどうでも良い、まさに蛇文でした。