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閑話 世紀末領主様伝説

アーク歴1499年 肆の月


ヴェルケーロ領


マリラエール・ラ・ルアリ



「行って来たぞ!どうだ…あら?」


バダンとドアを開けて執務室に入るも、そこにはマークス殿しかいなかった。

カイトの喜ぶ顔が見たかったというのに…


「おお、マリラエール殿。お疲れ様でございます。茶の用意をさせましょう」

「マークス殿、カイトはどうしたのだ?」

「坊ちゃんはお仕事ですな。最近はお忙しく働いておられます。」

「本当か?」

「それはもう。もう少しで帰って来られるでしょう」

「ならば良いのだが…ふう。」


今回戦果で得た金貨はおよそ5000万z。それが入った袋を机の上に置く。

マリア殿が淹れてくれた茶を飲みながら奴を待とう。


我が弟子ながら、カイト・リヒタールは可笑しな奴だ。


大魔王様に対して不遜な口を利くかと思えば、案外気に入られるし。

剣も魔法も大した事はないが、目的だけはやたらと高い。

それに、武門に名高いリヒタール家の跡取りなのに武の方は大したことないが、政の方は明らかに優れている。それも常軌を逸した優秀さだ。


奴が来るまではヴェルケーロ領と言えばド田舎のどうしようもない僻地であり、鉱山があっても使いこなせないような土地だと認識されていた。

ところが奴の手にかかればどうか。



1年半ほどでヴェルケーロの住民は倍どころか6倍以上に増えた。

貧困に喘ぎ、今日の食べ物に困っていた者たちは血色も良くなり、病気にも殆どかからなくなった。

まあ人口増加は概ね人族の移民によるものだが…

その急激に増えた人族移民と大きな揉め事を起こしていないというのは大変な成果である。


私は知っている。

ヴェルケーロに元々住んでいた民はカイトの事を神のように考えていると。


曰く、新しい領主様は呪われた地に腕一振りで作物を溢れさせた。

曰く、新しい領主様は水の流れを自在に操り、大河すら屈服させる。

曰く、新しい領主様がその卓抜した知力によって産み出す道具は大岩をも砕き、魔物を軽々とも屠る。

曰く、新しい領主様は慈悲深く、老人にも赤子にも手を差し伸べてくれる。

曰く、新しい領主様は恐ろしいドラゴンを配下にし、家事手伝いをさせている。


上二つは正直盛りすぎだと思うが、途中からは大体合っている。

奴の作ったシャベルとやらは土木工事に非常に向いているが、あの先の尖った形状は戦闘にも非常に向いている。重く、それでいて十分な切れ味も有る。

大型魔獣の喉や頭にぶっ刺した時の快感はなかなか…おっと。


「ただいまーっと。あ、師匠お帰りなさい」

「帰ったぞ我が弟子よ。さあ、これを見ろ」

「おお!素晴らしいです!」


目を金貨マークに変えてカイトが喜ぶ。

素直なところもあって可愛いではないか。


「お前のドラゴンもだいぶレベルが上がったみたいだぞ。追い抜かれる日も近いな」

「抜かれると言われましても。初めからあちらが上なんじゃないかと思いますが」

「…なんとだらしない。お前にはもう少し張り合おうという気はないのか」

「あんまり…」


これだ。

魔族とは力を求める種族。

他人に負けるのが恥ずかしいと思い、自然と競い合うものなのだ。

それをコイツは何とも思ってない。

この達観したところが神のようだと言われる所以なのだろうか。

良く知っている者からすると、こ奴の態度は面倒くさがりでしかもビビりなだけとしか思えないのだが。


「ふむ、では領地を検分させてもらおうか」

「ええ、師匠が気になった所を後で教えてくださいね。」

「ああ。まかせておけ。」


さて、では帰還の挨拶も終わったことだし。

領地で甘いものでも食べに行こう。

新しくできた店があるとマリアに聞いた。楽しみだな

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― 新着の感想 ―
[良い点] 奴の作ったシャベルとやらは土木工事に非常に向いているが、あの先の尖った形状は戦闘にも非常に向いている。重く、それでいて十分な切れ味も有る。 大型魔獣の喉や頭にぶっ刺した時の快感はなかなか……
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