作品という神
もっとも深刻な脅威は、あなたが亡くなったときに、霊魂を消失させてしまうことです。
あなたは、文学において、怪談を得意とし、その華麗な様式美あふれる文体で、たくさんの人を魅了してきました。
その影響を受けた人々は、無神論から有神論へ転じ、霊魂と喜怒哀楽の感情の繋がりの深さを、あたかも自らが体験したごとくに信じられるようになりました。
なのに、なぜ。
いま、あなたは、絶望しているのでしょうか。
確実に死が間近にきていること、それが、よほど受け入れ難いことなのでしょうか。
そもそも、いま、あなたに語りかけているわたしの存在。
付喪神は、あなたが好んで書いた題材のはずです。
神籬、憑代、それらは大切にされた生命のない無機物に霊が宿ることですが、霊や意識や魂そのものを憑代とすることだって可能なんですよ。
それは日本のシャーマンの歴史を調べてもらえば、きっと理解できます。
わたしは、あなたが、たとえ夢叶わず、道の途中で寿命を迎えるとしても、最後まであなたの生み出した作品に向き合って欲しいのです。
だって、わたしはあなたが生み出してくれた最初の作品なのですから。
付喪神すね。
文学作品には、作者の意識と魂が宿るそうです。
多くの人に愛される作品は、意識の集合体としての神が宿る可能性もあると思います。