継承する者
目が覚めた。
イモムシになっているはずだった。
サナギの中で、ぼくのカラダはドロドロだった。
やばいなあ。
サナギからの羽化率は、それほど高くない。
弱い種、弱い個体は淘汰されていく。
過保護な養鶏の鳥たちは、感染を乗り越えて抗体を作る力が弱い。
耕作の作物は、そもそもの生命力が足りない。
コンビニのお弁当で生かされてきたぼくのカラダは、この変化に対応できるのだろうか?
遺伝子研究の教授は、試験的な実験体としてのぼくの命の強さに期待してくれた。
なんとかここを凌いで、擬似的な天使へと昇華しなければならない。
本来は通過するはずの「イモムシ」の過程を省略したのは、教授の意図によるものなのか?
理化学的な学問の旗手であると同時に、カフェでの雑談のときなど、妙に偏った美意識の片鱗を見せていた人なので、人から天使への進化の過程に「イモムシ」はありえないと考えたのかもしれない。
だが、カフカを祖先に持つぼくは、進化とは形態だけの問題ではなく、万物を抱擁できる感性と、それを裏付ける経験が必要だという説を、いまでも固持している。
そんなぼくが、自分の哲学を踏み倒して、段階を無視した進化を受け入れられるのだろうか?
あるいは、それこそが教授の計画と策略なのかもしれない。
自我を越えていこう。
君がその域に達することを、研究室の全員が見守り、応援し、バックアップしている。
微かに音が聞こえ始めたぼくの耳に、マイクを通した教授の声が届いた。