三章 『ビートたけしの挑戦状』
「そうそう、それからは雑誌のレビューを見て、ソフトを買うようになりました。私も成長したんですね」
本人も本当はそれを認めているようだ。
男は自嘲気味に苦笑した。
俺がそう思っていると、男はぬっと俺の眼前に顔を出した。
「わっ!」
たまらず、驚く俺。
「それまでのファミコンライフも充実していたんですけどね。さらなる進化ってもんですよ」
(こいつ、俺の考えていることが分かるのか?)
「ふふ」
「・・・・・・」
「でもですよ。あのソフトが・・・レビューは上々だったのに」
男は俺の顔に人差し指を突きつける。
俺には心当たりがある。
といえばのソフトだ。
(まさか・・・)
「そうです。「たけしの挑戦状」です」
「やっぱり」
俺は呟いた。
そして、重苦しい間。
男は口を開く。
「アナタ」
「はい?」
「クソゲーと言いましたね!」
俺は全身が総毛だった。
「クソゲーといった!クソゲーといった!クソ、クソ、クソ、クソゲーと」
男は狂乱し繰り返し叫ぶ。
「クソ、クソ、クソ、クソ、糞、糞、糞、糞、Ksogee!!!!」
その瞬間、俺の意識は錯綜した。
俺は昨日までは、超一流のサラリーマンだった。
たった一つの過ちを犯したばかりに、俺は会社をクビになった。
社長のケツを冗談で触ったばかりに・・・。
しかし、社長は、
「チミは実にけしからん。セクハラをするようなヤツはクビだ」
ああ、せいせいした。
これからの俺は、晴れて自由の身だ。
何人たりとも俺を縛り付けることは出来ない。
俺の才能をろくに扱えない会社なんて、こちらから願い下げだ。
俺は辞令を受け社長室で一礼をすると、踵を返し部屋を出ていく。
扉のノブに手をかける寸前で、俺は振り返るとヤツにマグナムをぶっ放した。
弾丸は社長の顔をかすめ、社訓が書かれた額縁を撃ち抜き弾痕となる。
「き、きさまっ!」
社長の絶叫が続く中、俺は会社を後にした。
時間はいくらでもある。
俺は街中をブラブラした。
パチンコ屋に入る。
何の飾り気もなすクソつまらない台に思わず、金をつぎ込んでしまった。
俺はパチンコ台に懺悔を乞わせる。
だが、許さない。
俺のマグナムが火を吹いた。
ゼロ距離から放った一撃は中央のチューリップに弾痕を残した。
それから俺はカラオケスナックに行く。
ツーコンマイクを片手に、俺は演歌調の曲に合わせ、ひたすら熱唱する。
ただひたすら歌う、歌う。
さすがに、スナックのママは呆れたようだ。
酒に焼けたダミ声で、
「おっちゃん、もう、かんにんしてぇな。つぎ、うち歌うさかいに」
次の瞬間。
俺のマグナムがカラオケ機をぶち抜いた。
喚き散らすママ。
命があるだけ感謝してもらいたい。
俺はその場を後にした。
街を歩き回るが、一向に進展がない。
進展・・・そっか、別に進まなくてもいいじゃないか。
別に何者かの意志に従わなくてもいいじゃないか。
宝の地図がなんだ。
そうだ。
海外旅行でもしてやるか。
俺は勇んで歩きだす。
前方からやって来るチンピラ風の男。
俺の明るい前途に暗雲が立ち込める。
俺はマグナムを抜いた。
ヤツも銃を抜き応戦した。
すると、あっという間にごつい奴らに取り囲まれた。
激しい銃撃戦となった。
万事休す。
ゲームオーバーだ。
「うおいっ!」
俺は我に返ると、男の胸倉を掴んだ。
「なんですか、藪から棒に」
「こっちの台詞だ!なんなんだよ、これは!」
「知りたいのですか」
「何を」
「それを」
男は意味深な笑みを浮かべる。
俺は握りしめたヤツの胸倉を外し、睨みつけた。
俺はついに男と対峙する。