二章 『バンゲリングベイ』と『エグゼドエグゼス』
「私はようやくファミコンを手に入れて、人並みの幸せを手にしました」
どうやら男の話は続いているようだ。
俺は夢かうつつか分からないまま、男の喋りに耳を傾けていた。
「翌年、超話題のソフト『バンゲリングベイ』がでました」
(おっ、あの・・・ゲーって、思ったらマズイよな)
「それがとてもおもしろくて」
(えっ?)
おもしろいという事には、俺は賛同しかねる。
だが、さっきの事もある。
NGワードは口にしないようにした。
「でも、でも、ですよ」
男は憤りを露わにした。
「しばらく経つと、あの名作『バンゲリングベイ』が、わずか千円で売られているじゃありませんか!」
(そうそう、めっちゃ安くなっていたもんな。だって・・・おっと危ない)
「まぁ、それはいいとして」
男は深く息を吸い込むと、平静を装い、話の続きを語りはじめた。
「それからしばらくして、私はあるソフトを買いました」
(なんだ!)
「そう『エグゼドエグゼス』です」
(出たっ!)
「私はゲームセンターで、かのゲームをやり込んだクチなので、楽しみにカセットをオンしました」
「ところが・・・」
「そう、クソゲーだったと・・・・・・って、しまった!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
重苦しい間。
そして、男は口を開く。
「アナタ」
「はい?」
「クソゲーと言いましたね!」
俺は全身が総毛立った。
「クソゲーと言った!クソゲーと言った!クソ、クソ、クソゲーと!」
男は狂乱し、狭いエレベータ内を動き回り叫び続ける。
ぬっと、俺の眼前に男の顔が迫る。
「クソ、クソ、クソ、クソ、糞、糞、糞、糞、糞、Ksogee!!!!」
男が叫んだ瞬間、俺の意識は消えて行った。
俺は天才的なヘリの操縦士。
単身、敵の真っただ中へ突入し、事を成さなければならない。
・・・その事って、任務?
よく分からん。
俺は敵地に到着する。
攻撃は来ない。
俺は攻撃を仕掛けるが・・・。
反撃はない。
俺は爆撃を試みる。
・・・反撃はまだない。
広大な世界を、俺はヘリとともに飛び回る。
俺はいったいここで、何をすべきかが分からない。
目的はあるのだろうが、その術が分からない。
小一時間が過ぎた。
機体は無傷で、ずっと飛び回っている。
・・・二時間・・・四時間・・・八時間・・・。
永遠とも思える無為な時間がそこにはある。
俺は憤りの溜息をつき、リセットボタンを押した。
俺は宇宙で戦うパイロット。
地球外生命体から人類を守る為、宇宙へと旅立った。
これからにっくき敵と対決するのだ。
追撃王の異名を持つ俺にとっては、造作もない事だ。
勇ましく宇宙戦闘機を駆ける俺、何人たりとて地球を脅かす者は許さないのだ。
溢れる使命感と愛する地球を守る為、俺はやってやる。
だが、敵の攻撃は苛烈を極まった。
敵が大挙すると宇宙世界(画面)が異変をきたす。
敵や攻撃が点滅し、チカチカと消えてしまうのだ。
俺は闇雲にミサイルを打つ。
奴らの術中にハマってしまった。
幾度も、幾度も墜落し、辛酸たる思いをする。
だが、何度トライしても、敵の思うつぼなのだ。
意図してか、していないのか、この世界は俺たちにとって過酷な世界。
そう思った俺は、一面のクリアを待たずに、自らの敗北を認めリセットボタンを押した。
カセットを引きちぎる様に抜くと、思いっきり投げつけた。
それ(カセット)は断末魔の悲鳴(叩きつけられた音)をあげた。
俺は、やるせなさ、無力さ、絶望感、罪悪感、それから解放感と爽快感、相反する感情が混じり合い、心の憤りを覚える。
「・・・また」
男が呟く。
「んっ」
俺の意識はエレベータ内へと戻る。
「また、リセットボタンを押しましたね」
男は、ぼそりと呟いた。
夢うつつの世界に、俺はまた取り込まれた・・・。
俺は男に対し、言い知れぬ恐怖を感じた。