序
序
エレベーターの中、俺は見知らぬ男と二人で階上を目指していた。
突如、室内の電灯の明かりが消え、浮上が止まった。
「なっ!」
突然の事に驚く俺。
「知っていますか」
なんの脈絡もなく、急に喋り出す男。
「なんですか」
「知っていますか」
俺の憤りの声には、一切耳を傾けず、同じ言葉を繰り返す男。
「だから、何が?」
思わず声を荒げてしまう。
「ファミコンですよ」
薄暗くて男の表情は良く見えない。
どういうつもりで、そんな事を言うのか・・・。
「これっ、今の状況」
俺も男の意味の分からない言葉を無視し、この状況を考えろよと痛切に思い言った。
「・・・停電はじきに直ります」
「ほう」
不覚にも根拠のない男の言葉に安心してしまう俺。
「話を続けましょう」
男のマイペースぶりは、エスカレートするばかりだ。
「・・・で、知っていますか」
思わずまた「何が?」と聞き返したい衝動にもかられたが、
「ああ」
面倒くさいので、男の問いかけに答えてみる。
「ああ、良かった」
男は心底満足したように頷いた。
「私は、子どもの頃、夢中でしてね」
男は語りはじめた。
「はじめてファミコンを買ったのは小学校4年の時です。お年玉を握りしめて、近所のおもちゃ屋さんに駆け込みました」
そこで、男は溜息をついた。
「そしたら、高額な商品なので、親をつれて来いと言われましてね」
「・・・・・・」
よくある話に、暗がりの中、思わず頷いてしまう俺。
「私は、慌てて家に帰り、親を連れて戻りました。そしたら・・・売り切れていました。私は悔しくて店の中で号泣しました・・・でも」
「でも?」
俺は思わず聞き直してしまった。
「その後すぐ、デパートで購入しました」
(なんじゃそら!)
心の中で男にツッコミを入れてしまった。
「だが、そこでとんでもない事が起こったのです」
(・・・はいはい)
俺は心の中で聞き流す。
「ファミコンを買うには、ソフトも一緒に買わなきゃ売らないと言うのです」
(出た!抱き合わせ販売!)
「しかも、そのソフトは、私、すでに購入していたものでした」
(ソフトだけ持って、友人宅でゲームをいそしむヤツ発見!)
「そのソフトは『アーバンチャンピオン』というタイトルでした」
(うおっ、伝説の初代格闘ゲームにして、クソゲー)
「・・・・・・」
「・・・・・・」
男の話が急に止まった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
重苦しい沈黙。
そして男は口を開いた。
「アナタ」
「はい?」
「クソゲーと言いましたね!」
俺は心の中で言っただけだ。
全身が総毛だった。
「クソゲーといった!クソゲーといった!クソ、クソ、クソ、クソゲーと」
男は狂乱し、繰り返し叫ぶ。
「クソ、クソ、クソ、クソ、糞、糞、糞、糞、Ksogee!!!!」
男が叫んだ瞬間、俺の意識は彼方へ飛んだ。




