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第39話 危なかった

 金属同士がぶつかる、甲高い音が響く。


 クリスティーナ嬢を襲おうとしていた凶刃を、俺は隠し持っていた短剣で受け止めた。

 魔法ってのはこれだから嫌なんだ。予測も出来ない攻撃をされるから。


 障壁に全魔力を使っていた男が、そこから更に魔法を使ってくるとは思えなかった。

 そんなことをすれば、次に障壁を張る魔力すらなくなる、捨て身の攻撃となるからだ。

 しかし、男はそれをしたんだ。


「チッ」


 最後の一撃にするつもりだった攻撃を防がれ、男は舌打ちをする。

 咄嗟の事で短剣を使ったが、間に合ってよかった。俺だって人並み以上に剣術は出来る。実戦経験はほとんどないけど。


 しかし男はそれで諦めず、俺たちはそのまま打ち合いになった。護身術として短剣の扱いも学んでいるとはいえ、長剣を使うよりは慣れていない。

 この距離では障壁を張ることも出来ない。ギリギリのところで防いではいるが、攻勢に転じることなど出来るはずもなく、それどころかいつこの均衡が崩れてもおかしくなかった。


 男の剣が俺の頬を掠め、紙袋に切れ込みが入る。焼けるような痛みが頬に走った。

 漫画の主人公とかってさ、ちょっと切られたぐらいじゃ全然平気な顔してるけどさ、実際これだけでもすごく痛いんだよね。

 だって考えても見てくれ。包丁で指をちょこっと切ったくらいで痛いんだから、頬をざっくり切られて痛くない訳が無い。俺がヘタレなだけかもしれないけど。


 しかし痛みに転げまわっている場合でもないので、俺はなんとか我慢して剣を受け続ける。でもこんな打ち合いすぐに限界が来るぞ。


 さっきクリスティーナ嬢を突き飛ばしてしまったので、転んでないだろうかと場違いな考えが浮かぶ。

 だが幸いにも、その答えはすぐにわかった。


 俺の不利を悟ったクリスティーナ嬢が、魔法を放ったのだ。


 魔力のほとんど残っていない男は、それを防ぐ術を持たない。

 クリスティーナ嬢の魔法は男を直撃し、男は意識を失い崩れ落ちた。


「はぁ……っ」


 俺は一安心して息を吐く。あんなの久々で死ぬかと思った。


「ありがとう、クリスティーナ嬢」

「いえ、殿下ばかりにご負担をおかけして申し訳ありません」

「何言ってんだ。魔法は君任せだし、今も助けてくれただろ?」


 そう言えばクリスティーナ嬢は曖昧に笑った。む、俺なんかズレたこと言ったかな。

 首を傾げれば、クリスティーナ嬢は「なんでもありません」と苦笑した。


 俺は少し離れたところで戦っているツェルの方を見る。ツェルはそれなりに傷を負っているにもかかわらず、まるで遊んでいるようだった。まだまだ、余裕があるとでも言うように。

 狂気的とも思えるその表情に、敵の二人の顔は引き攣っていた。アレは流石に同情する。


 手を出すなと言われたからしばらくは静観するつもりだが、本当に危なくなったら問答無用で男たちを打ち抜くつもりだ。

 ツェルがあんな風に笑っている間は、大丈夫だろうけど。


 ツェルは魔法や暗器を駆使して変則的な攻撃で相手を翻弄していた。

 型にはまった剣術しか知らない俺からしてみれば、あいつみたいなのとは絶対に戦いたくないな。

 そんなツェルの攻撃をなんとか避け続けている敵さんも流石だ。でも、ツェルがその気になったら決着がつくだろうな。


 そう思っていたその時、ツェルと一瞬目があったと思ったら、ツェルの動きが変化した。

 今までの遊びではなく、殺すための動きに変わったのだ。


 殺気、とでもいうのだろうか。俺たちに向けられたものではないとわかっていても、ぞわりと鳥肌が立った。

 あぁ、やはり、あいつを敵に回したくない。


 あっという間だった。何が起きたのか、目で追うことすら出来なかった。

 気付いたらツェルは笑顔でこちらに手を振っていて、敵の二人は倒れていた。


 俺とクリスティーナ嬢が呆然としていると、ツェルはゆったりと俺たちの方へ歩いてきた。


「お待たせしてすみません。ちょーっと遊んでました」

「遊んでましたって……。あいつらそこそこ強かったんだろう?」

「そうですねぇ。中堅騎士くらいの実力はありましたかね」

「よく遊べたな」

「特殊部隊トップクラスの実力舐めないでください」


 俺はその特殊部隊に誰が所属してるのかも実力がどれくらいなのかも知らないんだけども。強いんだろうってことは分かるけどね。

 でもそれは暗殺とか陰からのことで、正面衝突してもあれほど強いとは思っていなかった。


 ツェルは表の騎士になっていてもいい所まで行けたんじゃないだろうか。

 あ、ダメだ。性格に難があり過ぎる。騎士道精神とか一瞬で捨ててそう。


「そろそろ衛兵が来るんじゃないですか?」

「あぁ、これだけの騒ぎになったからな。むしろ遅いくらいだ」


 もう既に野次馬はかなり増えてしまっている。だが激しい戦いが行われていたため、野次馬たちは巻き込まれないようにかなり離れたところから覗き見ていた。


 しかしそろそろ最寄りの詰め所から衛兵がやってくる頃だろう。この辺りは廃屋が多くて詰め所は遠い。時間がかかるのも無理ないか。


 衛兵がやってきたら誘拐犯たちの捕縛と子供たちの保護を頼んで、ニコルを迎えに行かなければならない。

 そこら中に散らばった。気絶した奴らを探し出して捕まえるのは大変だろうが、まぁ、頑張ってほしい。


「クリス様! お怪我は!?」


 フィオーラと子供たちが、俺たちの方へ(正確にはクリスティーナ嬢へ)向かって走って来た。

 クリスティーナ嬢は彼女たちに笑顔を返した。


「大丈夫よ。でも、彼らの方が怪我をしているから、治してあげられないかしら?」

「もちろんです!」


 フィオーラは頷き、傷の多いツェルから治癒魔法をかけ始めた。

 しばらく見ていない間に随分と上手くなっている。ミランダが絶賛するわけだ。


「他にお怪我は?」

「大丈夫ですよ。治癒魔法ってのはすごいですねぇ。初めてかけてもらいましたよ」

「私はまだまだなんです」

「んじゃあもっと上手くなれるってことですね。頑張ってください」

「はい!」


 フィオーラは花が咲くような笑顔で返事をし、俺の治癒に取り掛かった。

 頬の傷の様子を見るため紙袋を取られそうになったけど、全力で死守した。今この状況で紙袋取られるのはマジでやばい。


 傷の様子が見られないと治癒の難易度が上がるそうだけど、フィオーラはそれでも俺の頬を治癒してくれた。

 紙袋に血はしみついているものの傷は跡形もなく綺麗に治っていた。


 俺はフィオーラに礼を言い、ジーンの頭を撫でる。ジーンは変な紙袋に撫でられて不審な顔をしているが、まずは無事でよかった。後はメイと会わせられれば俺の役目は終わりだ。


 その後到着した衛兵にこの場の後始末を押し付け、俺はニコルとメイのいるところへ向かったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 紙袋さん、 敵も紙袋なんだが
[一言] ツェルさん恐いねぇ(笑) 流石の紙袋マンも一目置いちゃうねぇー(笑)
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