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第29話 癒されに来た……はずだった

 王子のいそうなエリアは避けようと思ったのだが、どうやら王子の所の子供たちの中にフィオーラの知り合いの子がいるらしい。学園に通い始めてから滅多にその子に会いに行けなくなったようで、一目で良いからと様子を見に行くことになった。


 万が一タイミングが合って王子と会ったらまずいので、王子を探して隠れてもらうように伝えてほしいとニコルに頼んでおいた。


「おかえりニコル。殿下はいらっしゃった?」

「はい。でも丁度お帰りになるところだったそうで」

「そう……申し訳ないことをしてしまったわね」

「殿下は気にしなくていいとおっしゃっていました」


 建国祭中にあまりたくさん時間が作れるとは思わないから、多分無理矢理捻り出した時間だったのだろう。

 気にしなくていいと言われても、申し訳なさを拭うことは出来ない。


「今度菓子折りでも持っていきましょう」

「そうですね」


 とりあえず王子にはまた改めて謝罪するとして、私たちは子供たちの所に到着した。

 お菓子の包みを持っている子もいて、王子が来ていたんだなということはすぐにわかった。


「あれ、お姉ちゃんって前にライ兄と来てた……」

「クリスおねえちゃん!」

「久しぶりね。名前まで覚えてくれていたのね」

「だってお姉ちゃんかわいいもん!」


 前に王子と遭遇した時に会った子はみんな私のことを覚えてくれていたようでとても嬉しい。一人一人と言葉を交わしていると、フィオーラが驚いたように目を丸くしていた。


「クリスティー……、」

「フィオーラ、ここではクリスと呼んでちょうだい」

「はい! クリス、様はここに来たことがあるんですか?」

「クリスで構わないのに」

「それは絶対できません!」


 物凄い剣幕でそう言われ私は思わずにコクコクと頷いた。まぁでも、王子ほどお忍びがバレたら困る立場でもないからいっか。


「以前お忍びで街の視察に来た時に知り合ったの」

「そうだったんですね。やっぱりクリス様は誰にでも好かれますね」

「そうだといいわねぇ……」


 みんなに嫌われて追放される悪役令嬢なんだけどねぇ。今のところそのルートは回避出来ていると思いたい。


「そういえば、フィオーラの探していた子は?」

「うーん……いないみたいなんですよね」


 フィオーラは子供たちを見渡してそう言った。そして一人の子に目線を合わせ声をかける。


「ねえねえ、ジーンとメイがどこにいるか知らないかな?」

「ジーン……? 知らないよ」

「そっかぁ……」


 そうしてフィオーラが背筋を伸ばしかけたところで、別の子がそれを引き留めた。


「俺知ってる! メイが風邪ひいたからって家で休んでるって」

「えっ、メイは大丈夫?」

「わかんない」


 風邪を引いたってどの程度なんだろう。医療の発達してないこの世界で、簡単に治癒魔法を受けることのできない平民の子は、たかが風邪でも拗らせれば死んでしまう。

 ただの風邪だと思ってたら違う病気だったなんてこともざらだし。


 フィオーラも同じようなことを考えているのか、不安そうな顔をしていた。


「フィオーラ、メイの所に行って来たらどうかしら? 私はこの子たちとまだお話したいから」

「いいのですか!?」

「えぇ、あなたならしてあげられることもあるでしょう?」


 フィオーラは病気の治癒はまだミランダ様に合格点をもらっていないと言っていた。症状を軽くするとか、回復に向かわせるくらいのことしか出来ないと。

 しかし完治させることは出来ないにしても、治りは早くなるだろう。何もしないよりは余程いい。


「ニコルもついて行ってあげてちょうだい。私はここから動かないから、何かあったら呼んでね」

「わかりました!」


 どうせ陰で護衛が付いているだろうから、ニコルがいなくても問題はない。それより万が一フィオーラが事故に巻き込まれたり、はぐれてしまったりする方が大変だ。


「ありがとうございます!」


 フィオーラは深く頭を下げるとジーンとメイの家の方へ向かって行った。




 治癒魔法には「感情」という要素が大きく絡んでいるのだという。

 治癒師は皆、感受性が高い。相手のことを思って、治したいという強い気持ちを持つことが出来なければ、治癒が成功しないからだそうだ。


 まぁつまり何が言いたいのかと言うと、フィオーラならきっと、メイの治癒に失敗することはないってことだ。




 *




 それからしばらく、私は子供たちとお話していた。

 話題のほとんどはライ兄、つまり王子についてのことが占めていた。

 学園や社交界で話している令嬢やご婦人と王子についての認識が違い過ぎて逆に面白い。


 大人げないとか、猫を被るのが上手いとか、でもちょっぴり優しいとか。私としては子供たちの方の話の方が共感できる。

 でも、なんだかんだ言って子供たちは王子のことが大好きみたいだ。


 しかし、そんなほのぼのとした時間は突然終わりを告げた。


「お嬢さまぁっ!!」


 ニコルが焦っているところなんてしょっちゅう見るし、大声で叫ぶこともよくある。

 だがこんな風に切羽詰まった声は、初めてだった。


「ニコル! どうしたの!? フィオーラは!?」


 全力で走って来たのか肩で息をしているニコルは、今にも泣きだしそうな表情をしていた。


「フィオーラさんが……っ、メイちゃんとジーンくんが、攫われましたっ!」


 頭をガツンと殴られたような衝撃だった。

 祭りは犯罪が起きやすい。そのことは知っていた。

 でも、少し離れていたこの一瞬で、友人が。


「ニコル、状況を説明して」

「……っ、はい。僕は井戸に水を汲みに行っていたんです。そしたらジーンくんたちの家から物音がして、僕は隠れてたんですけど、静かになってから家に戻ったら誰もいなくて……僕、僕は……、」


 何も出来なかった。


 苦しそうな表情がそう語っていた。


「ニコル、貴方は正しいことをしたわ。貴方がこうして戻って来なければ、私はそのことを知ることすら出来なかったもの」


 知ることが出来たなら、助け出すために動くことが出来る。

 私でも、助ける為に動くことは出来るはずだ。


 この広い王都の中を、私とニコルだけで捜索できるとは思っていない。衛兵に動いてもらうのが一番効率がいい。

 ジーンとメイだけでは難しかったかもしれないが、今回はフィオーラが一緒だ。


 人は皆平等で、命の価値は重い。

 それはとても美しいことだと思う。

 でもそれを理想ではなく現実にすることは、あれほど文明が進んだ現代日本でもできなかった。


 ここではもっと明確に命の優先順位が決められている。

 貴重な光属性で、しかも治癒魔法の使えるフィオーラの優先順位は高い。方法次第では衛兵が全面的に動いてくれるだろう。


 命の価値、か。……それは今考えるべきことじゃないな。


「王子を探しましょう」

「殿下をですか?」

「私に衛兵を動かす権限はないけど、殿下の命令ならば間違いなく動いてくれるわ。街でのことは衛兵に動いてもらうのが一番だもの」

「でしたら護衛の方に伝えてきます。3、4人いるはずですし、殿下の護衛の方と繋がりもあるそうなので」

「私たちはジーンの家に向かいましょう」

「わかりました」


 私は闇属性の魔法で魔力の痕跡を見つけることが出来るから、何か見つけることが出来るかもしれない。


 フィオーラも心配だが、体調を崩していたというメイのことも心配だ。

 私は子供たちを大人のいるところへ帰してから、ジーンの家に向かって走り出した。



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