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第28話 癒されに来た

 建国祭三日目太陽が真上を通り過ぎてしばらく経った頃。俺はようやく急ぎの書類を全て片付け終わった。


 建国祭の一日目と二日目はなんとか乗り切った。家族が喧嘩したとか、トラブルはいくつか発生したが、想定の範囲内だ。

 そして今日は昼食も取らずにトラブルの処理や書類の片付けを行い、ようやく今その全てを終えたのである。


 これで街に下りることが出来る。とは言っても三時間が限界だろうし、帰ってくる頃には書類がまた山積みになっているだろうが。


「シオドア、少し出かけてくるよ」

「お帰りはいつ頃に?」

「うーん、遅くとも三時間後には」

「わかりました。いってらっしゃいませ」


 シオドアは行き先を聞かずに送り出してくれた。俺がどこかに消えるのはいつものことなので、シオドアも気を使ってくれているのだろう。


 だが王子を一人で街に送り出すというのは不用心すぎるため、ひっそり護衛が着けられていることを俺は知っている。

 その護衛はいつも同じ奴で、最初の頃に俺の素は絶対に報告するなと伝えてある。ていうか買収してある。金でじゃないけど。

 今まで誰かにバレてる様子はないから、多分誰にも報告していないんだと思う。


 ただソイツがまたひねくれた奴で、いつシオドアや父上に報告されるか分かったもんじゃないから少し不安ではある。




 *




 俺が向かったのはいつもの場所。子供たちには来られそうだったら来ると言ってあった。

 多分祭りだってことで騒いでると思う。


 いつものようにマーサさんの所に寄って、焼き菓子を買っていく。今日は祭りだからいつもより多めにしておいた。


「あー! ライにいだ!」

「やっぱりきた!」


 一人が気付くと皆こちらを向いてパタパタと駆け寄って来る。


「ほらね! ライ兄に彼女なんているわけないじゃん!」

「だってライ兄来られるか分かんないって言ってたから」

「建国祭までに彼女作る予定だったんじゃない?」

「結局できなかったのか」

「……お前らよっぽどお菓子抜きにされたいらいしな?」

「わーっ、うそうそ!」

「ライ兄はかっこいい! お菓子ほしい!」


 ガキどもがあまりにも必死に俺の機嫌を取ろうするので、思わず笑みが溢れる。

 本心が隠せてないどころかダダ漏れなのは減点だが、建国祭なのでまけてあげよう。


 袋がパンパンになるまで詰めてきた菓子を、順番に配っていく。大はしゃぎして早速包みを開けようとする姿を見ると、買ってきてよかったなっていつも思う。


「ライ兄知ってる? 建国祭ってみんな夫婦とか恋人とかで楽しむんだよ」

「知ってるぞ」


 そもそもその風習を広めたのは俺だ。何年前だったかな、建国祭の準備の一部を任され始めた頃だ。

 こういうイベントって恋人と過ごす人多いよな、だったらいっそのこと国からそういうものとして広めて経済が活性化できればなーとか思ったんだ。


 結果、建国祭は夫婦や恋人で過ごすものというのが定着し、独り身に厳しいイベントとなった。


「僕、ライ兄に恋人ができるように応援してるから」

「お、おう」


 真剣なところ悪いが俺は今後も恋人を作る予定はない。立場上作ったらヤバイ。

 それに、クリスティーナ嬢とはなんだかんだで過ごしやすいし。あの完璧令嬢以上の女性を探し出すのはかなり厳しいし。


「ライにぃ、彼女つくるのはいいけどちゃんと遊びに来てね?」

「そりゃもちろんだ」


 そう答えて頭を撫でればその子は笑顔になった。他の子も撫でて撫でてーと頭を差し出してきたのでみんなまとめてわしゃわしゃと撫でてやった。


 その後もお菓子を食べながらガキどもと騒ぎ続けた。思った以上に俺の心のHPは早く回復したため、そろそろ帰ろうかと思っている。

 まだ城を出てから一時間半ほどしかたっていないが、時間が進むごとに書類が高くなっていくことを思えば早く帰るに越したことはないだろう。


 クリスティーナ嬢とヒロインと遭遇しなくてよかった。


 ……多分、それがフラグだったんだと思う。


「ライモ……ライさーん!」


 この気が抜けそうになる声には聞き覚えがある。でもなんでここに。ここで遭遇とか笑えない。


「お嬢さまから言伝です」


 クリスティーナ嬢の所の天然従者ニコルだ。クリスティーナ嬢から言伝、というと近くにいるから隠れろとかそんな感じだろうか。


 俺は二コルに声をかけ子供たちに話を聞かれないよう少し離れた。


「近くに行きそうなのでフィオーラさんが離れるまで隠れていてください、だそうです」


 やっぱりか。しかし建国祭で盛り上がる商店の立ち並ぶ通りがこの近くだから仕方ないのかもしれない。


「あと気を逸らせなくて申し訳ないともおっしゃってました」

「気にしなくていいと伝えてくれ。俺もそろそろ帰るつもりだったんだ」

「わかりました」


 ニコルはそれだけ伝えるとクリスティーナ嬢の元へ帰って行った。

 俺も子供たちの方へ戻り、腰をかがめて声をかけた。


「俺用事があるから帰るな」

「えー、もう帰っちゃうの?」

「お祭りなんだからもっと遊ぼうよ」

「祭りだから帰んなきゃいけないんだよ」


 俺は運営側だからなぁ。転生してからまともに祭りを楽しんだことってないかもしれない。


「また来る?」

「明日! 明日!」

「明日は無理だけど、祭り終わったら来るよ」


 まだ引き留めたそうな顔をしてる子はいたけど、年上の子が慰めてくれた。

 帰ったら書類地獄かと思うと気が重いが、僅かな時間でもここに来られたお陰で随分と気分転換できた。


「じゃあな。ありがとう」

「ばいばい!」


 みんな腕がちぎれそうなほどぶんぶん振ってくるので、俺も振り返って手を振り返す。

 まだ少し時間はあるし、軽く出店を見て回ってから帰ろう。



 そう思ってたんだよな。


 だってさ、祭りの混乱に乗じて多発する犯罪、具体的に言うと人攫いなんだけど……そんなのに直接関わることになるなんて思わないじゃん?


 やたらトラブルに巻き込まれるのってやっぱゲームのせいなんだろうか。



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