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第21話 もしかしてこれは……

「あなた、最近調子に乗りすぎではなくて?」

「平民のくせに、生徒会の皆様に近づくなんて」


 複数の令嬢とフィオーラが向かい合っている。

 最初に言っておくが、その複数の令嬢の中に私は入っていない。たまたま、偶然、中庭を通りかかったら目にしただけだ。


 予想はしていたけど、私が悪役令嬢として機能していないせいで悪役令嬢代理が生まれているらしい。

 思わず溜息を吐いてしまったのは仕方のないことだろう。


 恐らく、私がここでぶった切っても不満は募る一方だ。口喧嘩程度で発散出来るなら放っておこう。

 そう思って立ち去ろうとしたその時、一人の令嬢がフィオーラの頬を叩いた。


 私は再び大きな溜息を吐いた。

 手が出てしまっては流石に見過ごすことは出来ない。これ以上増長されても困る。

 私は踵を返してそちらに向かった。


「みなさん」

「クリスティーナ様!?」

「えっと、これはっ……」


 ご令嬢方は私を目にして固まった。よくないことであると自覚しているなら最初からしなければいいのに。


「どのような事情があろうとも、暴力に訴えてはいけません」

「も、申し訳ありません!」

「ですが彼女が……」


 ご令嬢方はフィオーラの方をチラチラと見ている。これは一度言っておいた方がいいかもしれない。


「フィオーラさん、わたくしは貴女の能力の高さを認めています。それ故に、今後はその能力に見合った行動をとるよう心がけてください」


 突き放すような言い方になってしまったが、フィオーラが以後も私と共にいたいと思っているなら必要になることだ。もし出来ないと言うのならばその時は、諦めるしかない。

 公爵令嬢であり王子の婚約者である私は、自分の友人関係よりも学園全体のバランスを優先して動かなければならないのだ。


 それに恐らくではあるが、フィオーラがその自覚を身につける事が出来れば、争いは表面化しないだろう。悪役令嬢代理のご令嬢方は、原作の悪役令嬢よりも理性的だろうから。


「わかり、ました……」


 少し傷ついた表情のフィオーラに心が痛むが仕方ない。私はフィオーラからご令嬢のみなさんへ視線を移した。


「みなさんも、今後このようなことがあれば規則に則って処罰いたします」

「申し訳ありませんでした」


 全員が揃って頭を下げて謝罪する。そして先程フィオーラを叩いたご令嬢は、フィオーラの方へ一歩近づいた。


「フィオーラさん、ごめんなさい」

「い、いえっ、私もこれから気をつけますので!」


 元々悪い方々ではないのだ。これは私の願望だが、仲良くなってくれたら嬉しい。

 それだけ見届けると私はその場から立ち去った。




 *




「お嬢さま、まだ開けてなかったんですかそれ」


 王子に貰った包みを開けずに指で弄ぶ私に、ニコルが呆れたようにそう言った。


「毒や爆発物だったらどうするの」

「殿下に限ってそれはないと思いますが」


 私も頭では分かっているのだが、何故かこれを開けようと思えない。理由はもちろん、先日渡してしまったパウンドケーキである。


 やっぱりあんなの渡さなければよかった。フィオーラとニコルに唆されて気の迷いで渡してしまったが、絶賛後悔中だ。


 王子が手作りだと見抜いたとは思っていないが、手渡しという不自然な行動をとってしまった。せめてニコルとシオドア経由で渡せばよかった。


「ニコル、開けてみてくれない?」

「えぇ、殿下に頂いたものなのにですか?」

「いいのよ」


 私は半ば押し付けるようにニコルに包みを渡した。ニコルは困ったように包みと睨めっこしてから、恐る恐るといったように開き始めた。


 私がそちらから目線を逸らしていると、ニコルは広げた包みを両手に乗せて私に差し出した。


「お嬢さま見てください、綺麗なペンダントですよ」


 そこにあったのは、何の変哲もない綺麗な紫色の宝石の付いたペンダントだった。

 なんだか拍子抜けした気分だ。王子が直接渡してくるぐらいだから、もっと変わったものだと思っていた。


「……あら?」

「どうかなさいましたか?」

「…………いいえ、なんでもないわ」


 まさか、いやそんなことあるはずない。でも……。

 素材と技術が釣り合ってない……気がする。


 これを普通のご令嬢に渡すとすれば、無礼と思われてもおかしくない。

 私もこのタイミングでなければ大丈夫か王子と正気を疑っただろうが、タイミングがタイミングなせいでどうも邪推してしまう。


 ――手作り、じゃないよね?


 いや、もう考えるのはやめよう。そもそも王子がパウンドケーキが手作りであると気づいたかどうかすら定かではないのだ。

 しかもそれに対して王子が手作りで返してくるとか、そんなの、あり得るはずがない。


「お嬢さまの瞳の色とそっくりです。綺麗ですね~」

「……そうね」


 やはりと言うべきか、ニコルはこの違和感に気付いていないらしい。ルイだったら一瞬で見抜いていただろうな。今回は告げ口するつもりはないが。


 一度気づいてしまえば、もう疑いを捨てきることができない。ただの嫌がらせである可能性もあるというのに。




 それにしても王子はバカだ。これでは人目のあるところでは付けられない。



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