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第15話 どんぐりのおかげ

「クリスティーナ様、遅くありませんか?」


 フィオーラは隣に立つケヴィンに問いかけた。

 肝試しのコースはそれほど長くない。十五分もあれば回り切れる距離だ。クリスティーナたちが出発してからそろそろ十五分経つ。

 歩くのが速い部類に入る二人がまだ帰ってきていないということに、フィオーラは疑問を抱いた。


「少しゆっくり歩いているのかもな」

「ですが……心配です」


 ケヴィンの言う通りなのかもしれない。フィオーラも同じ道を通ったのだから安全なことはわかっているが、万が一ということもある。


「あっ、どんぐりが」


 昼間に拾ってどんぐりと名付けたリスが、ポケットから突然飛び出した。ちなみにクリスティーナは「せめてくるみの方がよかったのでは……?」と思っている。


 とりあえずそれは横に置いておく。リスのどんぐりは森の方に向かって少し走ってからフィオーラの方を振り向いた。


「どうしたんだろう?」

「さっきまでは大人しかったんですけど……」


 フィオーラが近寄って捕まえようとすると、また走って振り向いた。


「もう! 逃げないの!」


 捕まえる直前でまた逃げられてしまう。すると今度は前足を片方あげてクイッと森の方を指した。


「人間みたいな動きだな」

「森に行け、ということでしょうか」


 フィオーラがそう呟くとどんぐりはコクコクと頷いた。


「森に行ってほしいみたいです」

「でも勝手に行くのはダメじゃないか?」

「うーん……」


 でももし森で何かが起こっているのなら、どんぐりについて行ってでも知りたい。思い立ったら即行動に移るタイプのフィオーラは、ケヴィンの方を見て言った。


「先輩に許可をもらってきます!」

「えっ!?」


 生徒会の先輩方に許可をもらえば森に行ってもいいだろう。ケヴィンはなんて怖いもの知らずな、と思ったがフィオーラを一人で行かせるのも心配なのでついて行くことにした。


「ステイシー様!」

「なんですか?」


 いつも通りの無表情だが、どことなく不機嫌そうな雰囲気が漂っている。だがフィオーラはそんなこと全く気にせずに話しかけた。


「森の中に入ってもいいでしょうか!」

「いけません。ただでさえ殿下とクリスティーナ様が帰っていらっしゃらないのに、これ以上行方不明者を増やす訳にはいきません」

「でもどんぐりが行けって言っているんです」

「貴女は一体何を言っているのです?」


 フィオーラの話が全く理解できなかったステイシーは怪訝そうな顔をする。その時、アーネストが横から口を挟んだ。


「ねぇ、君の言ってるのってアレのこと?」

「そうです」

「アレ魔獣だよね? 登録してあっても校外学習に連れてくるのは禁止なんだけど」

「魔獣なんですか!?」

「はぁ?」

「あの子は今日の昼に拾ったんです」


 この施設は魔獣除けの魔道具で囲まれている。敷地内に魔獣が現れるということはまずありえないのだ。

 それをアーネストは一つの事に思い当たった。


「これは思った以上にマズいかもしれないね……」


 魔獣がいるということは結界のどこかに小さな穴があるということだ。そしてもしその穴が広がっていたら、リスよりももっと大きな魔獣が入り込む可能性がある。


「いいよ。そこにいるリスを連れて森へ行こう」

「本当ですか!?」

「ステイシー、ロベルトとクリスティーナ嬢の弟にも伝えておいてよ」


 アーネストが選んだのは交友関係の狭いアーネストと比較的親交があり、実力もある二人だ。生徒会がここから一人もいなくなるのは不味いので、ステイシーには残ってもらう。


「わかりました。二次被害は起こさないようにしてください」

「僕がそんなことする訳ないじゃないか。ほら行くよ」

「はいっ!」


 その声に反応したのかどんぐりが走り出す。フィオーラたち三人も続いて走り出した。


「どんぐり小さ過ぎて見失っちゃいそうです」

「僕が魔力でわかるから心配しなくていいよ。ていうか名前どんぐりなの?」

「そうですよ」

「ダサすぎでしょ」

「可愛いじゃないですか!」


 ケヴィンは内心アーネストに同意しつつも、それを口には出さなかった。


「そもそも魔獣だからどんぐり食べないよね」

「あっ」


 どんぐりと名付けた時は普通のリスだと思っていたが、魔獣の主食はどんぐりではなく魔力だ。

 でももうフィオーラの中ではどんぐりで定着しているので変えるつもりはない。


 その時、空に何かが光った。


「殿下の魔法だね」

「ならあそこに殿下がいるということですね!」


 するとどんぐりが突然走るスピードを上げた。


「急ぎましょう!」

「ちょ、僕走るの嫌いなんだけど」


 そう言いつつもアーネストはなんとかついて来る。どんぐりは肝試しのルートから外れ、さっき光が見えた方向に向かって走っていく。


 遠くに見える景色に、アーネストは予感が的中したことを悟った。


「やっぱり魔道具の明かりが切れてる。魔獣が入り込んでるみたいみたいだね」

「アーネスト様、もっと早く走ってください!」

「うるさい」


 だんだんとフィオーラとケヴィンと離れていくが、アーネストはこれが限界だ。そして少し経った頃、フィオーラの声が森に響いた。


「見つけましたぁっ!!!」


 殿下たちを、ということだろう。アーネストの位置からその様子は見えなかったが、即座に魔法を使って氷を作り出し、魔力の気配を頼りに魔狼へと突き刺した。


 外したとは微塵も思っていないが、確認はしなければならない。フィオーラたちに追いつき、王子のいる方を見ると、背中に怪我を負っていた。


「あ~あ、殿下怪我してるじゃん」


 しかも結構深く。王子の怪我というのは各方面に責任が降りかかり、下手したら誰かの首が飛ぶという事態を引き起こす。

 あの王子のことだから、そうはならないように動くのだろうが。


「ありがとう、アーネスト。幸いそれほど深い傷ではないからすぐに治るさ」


 相当痛いはずなのにそれを全く顔に出さずに対応する王子に、アーネストは内心舌を巻く。

 王子はアーネストから離れると、クリスティーナに手を差し伸べた。


「突き飛ばしてすまなかった。怪我はない?」


 しかしクリスティーナはその手を取らず、低い声でフィオーラを呼んだ。


「……フィオーラ」

「はいっ!」

「貴女治癒魔法が使えましたよね? 応急処置で構いませんので治して差し上げてください」

「わかりましたっ!」


 いつも以上に凄みのあるその声に気圧されながらも、フィオーラはさっと王子の元へ走っていく。


「殿下、失礼致します!」

「えっ、」


 戸惑う王子をよそにフィオーラは治癒魔法をかける。


「クリスティーナ様は心配しておられるのですよ」

「そうなの、かな……?」

「わかりづらいですが絶対にそうです!」


 雰囲気はとても怖くていつものクリスティーナと違ったが、王子のことが心配なのだろうということはわかった。

 フィオーラは自分に出来ることをするだけだ。


「ですので、少しの間動かないでくださいね」

「わかったよ」


 苦笑する王子を、フィオーラは慎重に治癒していった。



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