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第12話 やめとけって言ったよね?

 手に入れた食材がまさかの肉ばかりというのには焦ったが、王子の思い付きのお陰で自炊は大成功に終わった。


 思っていたより美味しく出来たので、私と王子の班のみんなは全員お腹いっぱいだ。私はまだマシだったが、唐揚げを気に入り過ぎてお腹が痛くなってた人もいた。


 材料が大量だったのでそれだけ食べてもまだ余ってしまい、夕食が確保できなかった班にお裾分けしたら崇められた。

 若干引いたがもちろん表情には出していない。ちなみに王子も同じような顔をしていた。


 そんなこんなで夕食は無事終了し完全に空が暗くなった現在、私たちは屋外の広場に集まっていた。


「次は肝試しですかぁ……」


 さっきよりかなりテンションの下がったフィオーラがそう呟いた。


「肝試しは苦手なの?」

「お化けなんていないとわかってはいるのですが、暗いところを歩くというのはどうしても怖くって」


 フィオーラはそう言いながら眉を下げて笑った。

 多分これもゲームのイベントなのだろう。あらすじしか知らないから細かいイベントについては全くわからない。ただの吊り橋効果のためのイベントならいいんだけど。


 肝試しと言ってもお化け役がいる訳ではない。本当にただ暗い道を歩くだけだ。


「大丈夫よ、安全の確保された道だもの。去年も同じ肝試しはあったけど、本当にお化けを見た方なんていなかったわ」


 もし本当に危険があるのなら王子や私を参加させるわけがない。

 王子を危険にさらしたとなったらどこかで誰かの首が飛ぶ可能性もある。


「そうですよね! 早歩きで回ってきます!」

「早歩きなのね」


 まぁ、理屈じゃないということだろう。私? 私は幽霊なんて一ミリも信じてませんけど? 暗闇が怖いという感覚がわかりません。


 大体ここは魔法があって魔獣とかいう謎の生物がいるようなファンタジーな世界なのだ。今更お化けが出てきても驚かない。


「フィオーラのペアはケヴィンなのでしょう? きっと守ってくれるわ」

「クリスティーナ様も、殿下とご一緒なら安心ですね!」

「そ、うね……」


 そうなのだ。私の肝試しのペアは王子なのだ。唯一の救いは肝試し中は周りに誰もいないこと。ボロを出しても問題ない。


 そんなことを思っていると、フィオーラの名前が呼ばれた。


「それでは私、行ってきます!」

「いってらっしゃい」


 私と王子は一番最後だ。多分安全確認が十分に出来た状態で私たちを歩かせるためだろう。それだけ慎重になっているということだ。

 そんなに大変ならやめませんか、と一度言ってみたのだが却下された。


「……部屋に戻りたいわ」


 サボることが許されない立場というのがとても面倒だった。




「行こうか、クリスティーナ嬢」

「わかりましたわ」


 差し出された王子の手を大人しくとる。そうして私たちは暗闇に向かって歩き出した。


「怖くはない?」

「いいえ全く」


 恐らく王子も私が微塵も怖がっていないことぐらいわかっているだろう。つまり形だけだ。


 実際、真っ暗なわけではない。魔獣除けの魔道具がそこかしこで光っているので、街灯に照らされた住宅街程度の明るさだ。


 魔獣除けの魔道具は等間隔で配置されており、それを結ぶ形で結界のようなものを作っている。

 その内側にいる限り、魔獣が現れることは無い。


「自炊のこと、本当にありがとう」

「わたくしの班も助かりましたわ。それにしても殿下はとても料理がお上手ですね」

「そうかな。それはクリスティーナ嬢もだろう?」


 悔しいが王子がリンゴを綺麗な飾り切りにする姿はとても様になっていた。じゃがいもの皮を剥く姿は違和感しかなかったが。


「わたくしは今日のために練習致しましたの。弟も付き合わせてしまいましたわ」

「仲が良いのは素晴らしいことじゃないか」


 そりゃあ仲良くなるために必死に頑張りましたから。第二王子ともともと仲の良いあなたにはわからないでしょうけど。

 ちなみに第二王子殿下は現在十歳の素直で可愛い子だ。この王子と兄弟だとは思えないほどに。


「フィルはとてもいい子ですもの」

「君の弟とは思えな……君に似て、だね」


 誤魔化せてないからな。

 この王子本性バレてからそういうのを隠すのをやめたのか結構ポロポロこういうことを言う。人がいればほとんどないが、今は周りに誰もいないから気を抜いてるんだろう。


「そうですわね」


 だからにっこりと笑って返しておいた。そこでキレるほど私は子供じゃない。

 そうしたらにっこり笑顔を送り返された。やっぱキレそう。


 少しぐらい口に出してもいいだろうかと悩み始めた時、突然王子が声を上げた。


「あれ?」

「どうかなさいましたか?」


 いきなり足を止めた王子を見上げる。そこには先程までの薄っぺらい笑顔はなく、どちらかと言うと素に近い真剣な表情があった。


「あっち、暗すぎないか?」


 王子の指差した方を見ると、確かに全く明るさがない。

 おかしい。見える範囲は全て魔獣除けの魔道具が光っているはずなのに。

 もしかして……


 私と王子は同時に向こうに向かって走り出す。その近くまで来ると、暗すぎる原因がわかった。


「……殿下、魔道具の修理は得意ですか?」

「そこそこ。だがこの環境なら君よりは向いてる」

「わたくしも手伝いますので急ぎましょう!」


 この辺り一帯の魔道具が全て壊れていた。魔獣除けの機能が失われている。

 早く直さなければ、この隙間から魔獣が入ってきてしまう。


 応援を呼んできたいところだが、一刻を争うこの状況で魔道具を直さないという訳にはいかない。どちらか一人が呼びに行くというのも悪手だ。

 私たちに出来るのはとにかく早く、魔獣が入ってくる前に魔道具を直すこと。


 この暗闇の中では光属性を持つ王子の方が修理に向いている。

 そして、闇属性の私は攻撃力が増す。だから私が護衛、王子が修理と決まったのは自然なことだった。


「よし、一つ目は終わった。応急処置だから半日も持たねぇけど」

「とりあえずそれで充分です。次いきましょう」


 木に引っ掛かっている魔道具を取り外し王子の方へ持っていく。逆に修理の終わった魔道具を木に引っ掛ける。


 明かりの切れている魔道具はまだまだある。やはり、二人だけでは作業スピードに限界があった。



「グルル……」


 それは、制限時間の終了を告げる合図だった。


「……殿下あといくつですか?」

「三つだ」

「私が引き受けますので、殿下は先にそちらを直してください」

「わかった」


 ここで押し問答をして時間を潰すほど王子はバカではない。


 赤い目。低い唸り声。そこにいたのは、魔狼だった。



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