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第11話 結局味覚は似ているらしい

 オリエンテーリングではチェックポイントで直接食材を渡されるのではなく、引換券のようなものが魔道具から出てくる。

 そしてそれを自炊の時間に食材と引き替えてもらうのだ。


 現在、オリエンテーリングが終わった時点で俺たちの班が集めた引換券は十二枚。チェックポイントを見つけるのが難しい班も多いこと、クイズの難易度がおかしいことを考えればこれは結構優秀だ。


 あのクイズって誰がどうやって作ってるのか気になる。「クリスティーナ嬢を嫌いな動物」とかいう問題もあった。


 クリスティーナ嬢()ってなんだよ。()じゃないのかよ。

 その時木の根元にリスがいたのでリスと答えたら正解だった。意味がわからん。


 かと思えば一年生の女の子に対しては「現在の国王陛下のお名前」とかいう庶民でも知ってる常識の問題もあったし。ほんとに意味わからん。


 ともかく、十二枚というのは多い方なんだけど、一つだけ問題がある。


「野菜ばかりなんだよね……」


 引換券に書いてある食材が野菜と果物だけなのだ。俺はベジタリアンでもビーガンでもない。

 それとも……皮むきの呪い?


「どうしようかなぁ」


 これだけで美味しい料理を作れと言われても素人に毛が生えた程度の俺では実力不足だ。

 せめてベーコンや卵でもあれば別だったんだろうけど。


「困ったわね」


 そう思っていた時、少し離れたところからそんな声が聞こえた。


「だ、大丈夫ですよ!」

「食材が集まっただけよかったです。とりあえず夕食抜きは免れたんですから」

「そうかしら」


 ヒロインと悪役令嬢と攻略対象がそんな会話をしていた。


「でも野菜が一つもないなんて……」


 その言葉が聞こえた瞬間、俺はピンときた。


「クリスティーナ嬢」


 そう声をかければ、クリスティーナ嬢は驚いたようにこちらを振り向く。


「どうなさったのですか、ライモンド殿下」

「すまない、君たちの会話が聞こえて思わず声をかけてしまったんだ」


 クリスティーナ嬢は胡散臭そうに俺を見た。もうお前隠す気ないだろ。


「野菜が一つもないということは、肉ばかりってことなのかな?」

「えぇ、十枚集めたのですが全て動物性の食品なのです」


 よっしゃ勝ったというのは横に置いといて、それはとても都合がいい。


「私の班は野菜と果物ばかりなんだよ」


 そう言えば、クリスティーナ嬢は納得したような顔をした。俺が何を言おうとしているのか伝わったらしい。


「私の班と君の班、自炊を合同でやらないか?」


 前例はない。だがそれなら作ってしまえばいいのだ。王子と公爵令嬢ならそれが出来る。

 そうすれば来年から生徒たちが夕飯にありつける確率も上がる。


「いいですわね。みなさんはそれでいいかしら?」


 クリスティーナ嬢は班員にそう聞いた。


「もちろんですよ!」


 ヒロインが最初にそう言って、他の者も全員頷いた。


「殿下の班のみなさまはそれでよいのですか?」

「今から聞いて来るよ」


 にっこり笑ってそう言った俺に、クリスティーナ嬢はあからさまに顔を顰めた。すみませんね思い付きで行動してしまって。


 結局、俺の班員からは許可をもらい、教師からも(半ば無理矢理)許可をもらい、その思い付きは実行に移すことになった。




 自炊に使う調味料は用意されたものをどれだけ使ってもいい。そして今俺はその用意されたものを見て、驚きを通り越して呆れていた。


「これ、一体どうやって準備したんだろうね……」

「貿易品もありますわね。かなり貴重なはずですが」


 隣にいるクリスティーナ嬢も同じことを思ったようだ。これ絶対去年より進化してる。


 この世界では香辛料はかなり普及しているが、種類によっては高いものもある。

 しかし俺はこの行事が近づいて来ると思うことがある。香辛料の普及はカレーのためなんじゃないか、と。


 いやそんなことはどうでもいい。何を作るかだ。これだけ色々あれば作れる種類も多いはず。でも、


「……俺さ、庶民的な料理しか作れねぇんだけど」

「……そんなことだろうと思いましたわ。わたくしもです」


 周りに聞こえないようにコソコソと話す。ちなみに去年は無難にカレーライスを作った。

 しかし今年は去年以上に材料が多い。少なくとも、牛肉豚肉鶏肉ソーセージベーコンハムが揃ってる時点でカレーを作って消費するというのは得策ではない。

 精肉に関しては部位ごとにカードが分かれていた。


「……お貴族様の味覚ってどんなんよ?」

「……鏡に向かって問いかけてみてください」


 俺たちの普段の食事はかなりキラキラとしている。日本だったら一皿何千円とかしそうな料理だ。

 美味しいとは思う。だが作れるかどうかと聞かれれば否である。


「……唐揚げとかどう?」

「…………いいんじゃないでしょうか」


 とりあえずクリスティーナ嬢の口には合いそうである。




「殿下、皮を剥くのがとても速いのですね」


 隣で玉ねぎを剥いているケヴィンがそう言った。


「刃物の扱いには慣れているからね」


 半分嘘です。確かに刃物には慣れてるけどそれ以上に皮むきに慣れてるんです。

 俺とクリスティーナ嬢とヒロインと攻略対象という謎のメンツで野菜を切っている。


 他の方は皆生粋の貴族なので「え、玉ねぎって茶色いの?」という方が殆どだった。

 そんな方々に料理をやらせるのは怖いので、あちらで談笑していてもらっている。


 ちなみに、自炊をするのは普通に屋内の厨房のような場所なので火おこしとかそういうのはない。


「クリスティーナ嬢、こっちの調理を頼むよ」

「わかりましたわ」



 なるべく品数を減らそう楽に終わらせようと奮闘した結果、野菜はスープとサラダに全て入れた。肉は唐揚げとステーキ、ベーコンとハムはスープにぶち込んだ。

 卵はスクランブルエッグにし、果物は俺が全力を尽くして飾り切りにした。


「凄いですわね。校外学習史上最高の出来なのではないでしょうか」


 それが十二人分並んだ光景は、思っていた以上に豪華に見えた。誕生日会でも始められそうな雰囲気だ。


「今までの最高傑作がカレーと言われているくらいだから、中々頑張ったんじゃないかな」

「美味しそうですっ! クリスティーナ様も殿下も料理がお上手で驚きました!」


 ヒロインがキラキラとした笑顔でそう言ったが、俺は顔が引きつっていないか心配だった。


「さぁ、頂きましょうか」


 クリスティーナ嬢が笑顔でそう言ったので、俺たちは大人しく席に着いたのだった。



 なお、唐揚げはお貴族様にも大好評だったこともここに記しておく。やはり唐揚げは次元を超えても最強だ。



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