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第10話 気にしてなんか……ない

「説明は以上だ。一年生は分からないことがあれば二、三年生に聞きなさい」


 三年生のAクラスの担任をしている先生がオリエンテーリングの説明を終えそう言った。


 現在校外学習二日目の正午を過ぎたころ。昨日は何してたかって? お貴族様は基本のんびりなのだ。つまり、だらだらしていた。

 だから今日も活動開始がこんな時間なのである。


「クリスティーナ様! 私、足を引っ張らないように頑張ります!」


 隣にいたフィオーラが張り切ってそう言った。


「そう気を張らずに、楽しめばいいのよ」

「わかりました!」


 本当にわかっているかは怪しいが、歩いている間に気も緩んでくるだろう。きっと。


 校外学習の班は各学年男女一人ずつの六人班だ。その中で私は班長。二年だが、生徒会であることと爵位を考えれば当然とも言える。


 ちなみに今の生徒会は全員二年だ。三年が入ってはいけない訳ではないのだが、今年は王子とその側近(予定)で固められている。


 あと数ヶ月もすれば一年からも何人か候補生が入って来るだろう。そういえばヒロインが生徒会入りするルートもあったっけ?

 この世界でどうなるかはまだ判断がつかないが。


 そんなことを考えている間に、一年生の男子が先生から地図をもらってきた。


「クリスティーナ様、持ってきましたよ」

「ありがとう」


 彼、ケヴィン・ラーナーは男爵令息だ。何故男爵令息がこの班なのかといえば、ケヴィンがAクラスに所属しているから。

 下級貴族でAクラスなのはケヴィンとフィオーラだけだから、王子は同じ班にしたのだろう。


 それと、ケヴィンも攻略対象だ。下級貴族であるにも関わらず人気者で、クラスの中心にいるタイプ。

 嫌味のない爽やかな好青年って感じだ。


「では、行きましょうか」

「はい!」


 地図を軽く確認した私は、そう声をかける。そう難しくは書いていないのできっと大丈夫だ。


 ちなみに、私の班の二年生は無口でほとんどしゃべらない子。私もあまりしゃべったことが無い。

 三年生はゆるふわな雰囲気のカップルである。家同士が決めた婚約者だが、誰が見てもお似合いな上本人たちはとても仲が良い。


「ミュリエル、疲れたらいつでも言ってね」

「ありがとうございます、ウォルト」


 二人ともマイペースなせいか完全に二人の世界に入ってる。とりあえずついてきてくれれば私はなんでもいい。


「クリスティーナ様、まずどのチェックポイントから回るのですか?」

「ここにしましょうか」

「わかりました。そうするとあっちの道からですかね」

「そうね、その後右に曲がって……」

「あ、俺先行ってちょっと看板確認してきます」


 この少年、なんと地図が読める人間なのだ。貴族の皆さんは領内の地図と特産品の把握はしているがこういう森の中を歩くための地図の見方を知らない。

 知っているのは騎士を多く輩出する家系の子くらいだ。


 優秀である。ケヴィンを同じ班にしてくれた王子には一応感謝しておこう。攻略対象だから少し不安だったが、思った以上に良い子だった。


 私たちは道を歩いていく。舗装されている訳ではないが、歩きやすいように十分にならされた道だ。

 周りは木に囲まれており、たまに動物が出てくる。


「クリスティーナ様!」

「どうしたの?」


 後ろを歩いていたフィオーラが小走りで私に追いついた。一体何事かと思えばフィオーラが両手に持って何かを私の目の前に差し出した。


「拾いました!」


 リスだった。


「……え?」

「今そこで見つけたので手出したら乗って来たんです! 可愛くないですか?」


 満面の笑みのフィオーラが可愛い。周囲に桜の花びらの幻覚が見える。

 じゃなくて、野生動物ってそんなに簡単に懐くものなの? いや、動物に好かれるとかのヒロイン補正があってもおかしくはない。


「可愛いわね」

「触ってみませんか?」

「いいの?」

「もちろんです!」


 フィオーラに大きく頷かれ、私はそっと手を伸ばす。リスに触れようとしたその時、


「え」

「あれ?」


 リスがプイッとそっぽを向いた。


「フィオーラ、リス拾ったのか? 俺も触ってみていい?」

「う、うん」

「お、ふっさふさだなぁ」


 戻ってきたケヴィンがリスに気づくと、フィオーラに確認をとってからリスを撫でた。

 するとリスは気持ちよさそうにその手を受け入れているではないか。


「も、もう一度触ってみてもいいかしら」

「もちろんです……」


 プイッ。


「く、クリスティーナ様、たまたまこの子と相性が悪かったんだと思います」

「そうよね……」


 諦めよう。たまたま……()()()()相性が悪かっただけだ。


「さ、行きましょうか」

「そうですね!」


 せっかくケヴィンが確認してくれたことだし、先に進もう。きっとそのうち私に懐く動物も現れるさ。




「これがチェックポイントですか?」

「えぇ、そうよ」


 ここで一つクイズのようなものに答え、正解すると自炊で使う食料がもらえる。


「この魔道具がその機械、という訳ですか」


 この機械を初めて見る一年生のケヴィンがそう言った。

 チェックポイントには魔道具が置かれておりそこにクイズが映し出され、正解すると上に付いているランプが青く光る。


「誰か、クイズをやってみたいという方はいらっしゃいますか?」


 そう聞くと、全員が首を横に振った。


「一番はクリスティーナ様が良いと思います!」

「俺も、よくわからないので最初は見ていたいです」

「僕たちもいいよ」


 それならば、と私は魔道具の前に立つ。

 するとピコンと問いが映し出された。


『ライモンド殿下の好きな食べ物は?』


 知らねぇよ!!

 ていうかその情報どこから仕入れてくんの? こんなことに使われてるとか本人も知らないんじゃないだろうか。


 しかし婚約者とはいえあの王子の好きな食べ物なんぞ全く興味が無い。

 何かないか、と思い返しているうちに、一つだけ思いつくものがあった。


 あの王子が執着していた食べ物。子供たちの分まで自分で食べようとしたアレ。

 合ってるかなんてわからないが、私はこれしか思いつかなかった。



「マーサおばさんのクッキー」



 ランプは青く光った。



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