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拾ったドロイドが美少女だったので、一緒に旅することにしました  作者: ディミトリー・トレチャコフ大尉
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「…いくらなんでも、酷くありませんか?仮にも女の子を、片手で荷台に放り投げるなんて」



 基地に戻って、修復プラントで修理されたらしい「彼女」が、エドヴィンの前に座って可愛らしく頬を膨らませている。


 人間ではありえない、鮮やかなライトブルーの短髪に、可愛らしく揺れるアホ毛。彼と同じ蒼色の双眸。


 戦闘用にしては随分とその必要性を疑ってしまう、精緻に整った芸術品のような顔立ち。


 生きた人間だったら相当な数の野郎を手球に取っていたであろう、絶世の美少女(型ドロイド)が彼の前にいる。



「ああ…悪かったよ。ただひとつだけこちらからも言わせてくれるなら、せっかくの圧縮会話機能であの断末魔は、正直ドロイドとしてもどうかと思う。少なくとも俺はそう思った …BL本て」



 言われ、目の前の少女はかぁっと顔を赤らめる。どうやら彼女にとっても相当に恥ずかしいことだったらしく。


 周りで働いている…フリをしている同僚たちが、いいぞもっとやれとか、ニヤニヤしながらカメラを片手にハンドサインで言ってくるのを見、エドヴィンはもう少しからかうことにする。



「いやーおどろいたなー、ドロイドもBLとか好みにすることあるんだなー」


「ひゃうっ」


「ドロイドの断末魔であんなこと聞くとはなー。いやー世の中広いなー」


「うぅ…」


「てか、ガス栓締め忘れたて」


「それは慌てて逃げ出してきたんだから仕方ないでしょう⁉」


「そこは反論するんかい…」



 さり気なく辺りを見れば、美少女の恥ずかしがる顔を存分にカメラに収めた同僚たちは満足したらしい。


 もういいぞ、とまたもやハンドサインで言ってくる同僚にオーケーを返すと、エドヴィンは真面目な顔に戻る。



「さて、ふざけるのもココらへんにして、真面目に聞こうか。…所属は?」


「!…第7機甲グループ、第2歩兵中隊。登録番号2354187289」



 ドロイドにならどれにも与えられている、最低限の友軍識別情報を聞き、答えられたそれを端末に入力して、とりあえずその情報が正しいことを確認すると、エドヴィンは端末を閉じて席を立つ。



「自己紹介と行く前に、場所を変えよう。ここでは話しづらいだろう」



 ここ、とはこの基地で一番広い格納庫、戦闘機が何機も横列に並ぶ、同僚たちがそのためだけに用意したパイプ椅子2脚のことである。


 そんな、どんなガキでも気付くであろうあからさまな椅子の配置に、しかし今頃気付いたらしい眼の前の美少女は今度こそ本当に死ぬほど恥ずかしそうな顔をする。


 あ、端末のカメラ起動させておくんだった。とその時エドヴィンが後悔したのは、彼と彼の同僚の間だけの秘密だ。








「エドヴィン・シェーネマンという。基地の連中からはエディって呼ばれてるから、それで呼んでくれ」


「私は… えっと…」



 格納庫を出て、基地の誘導路の傍を歩きながら。


 ひとまず自己紹介でもしようと名乗ったエドヴィン…エディに、しかし彼女は自分の名前を言おうとして言葉に詰まる。



「製造番号しかないのか?」


「…すみません、腐ってもドロイドなもので」


「まぁ確かに腐っていはいたがな」


「うぐっ」


 例の断末魔をさりげなく話題に挟むと、やはり予想通りのオーバーな反応。これはいい、少なくとも一生からかうネタができた。



「なら俺がつけてやろう」


「ふぇ?」


「呼ぶ名前が無けりゃ、今後不便だろ。ここはドロイド部隊じゃないんだ、名前がなくちゃ」


「……あ」


「…あ?」



 なら名前を付けてやろうと言えば、急に口ごもる眼前の少女。なにかまずいことでも言っただろうか。


 エディが少し不安になっていると、不意に彼女は顔を上げ、満面の笑みになって言う。



「あ、ありがとうございます!」



 あぁ、かわいい。


 芸術品のように、教科書通りの笑顔に呑み込まれかけつつ、初対面同然のドロイド相手に何を興奮しているんだと自分を鎮めて平然を装い尋ねる。



「ほら、製造番号教えろ。語呂合わせで付けてやる」


「あっ、はい。えぇと… 048-S3、です」



 意外と短かった。


 もっとこう、部隊登録番号並みの、例えば32094752394-20875みたいなげんなりする数字が来るかも知れないと身構えていたエディにとっては、実に拍子抜けする短さだった。


 とは言え、教えてもらったのだから、真面目に考えるべきである。


 ちょっとぐらい、手を抜こうかという気持ちは、傍ですごくワクワクした顔で待っている彼女に轟沈させられた。


 しかし、適当に語呂合わせで付けるといっても、名付けなど絶望的に縁遠い世界に居た彼にとって、それは非常に難題である。


 048…048… なにかいい名はないかと悩む彼の頭の中に、ふと、昔の懐かしい記憶が蘇る。


 近所の公園で、いっしょに遊んだ。容姿こそだいぶ違うけれど、誰にでも好意を抱かせる、そんな笑い方をする…



「レーシャ…」


「え?」


「レーシャ・スミルノフ。これでどうだ?」



 少し間が空く。


 やはり駄目だったか、と。彼が不安になり始めると、彼女はあの満面の笑みでこちらを見る。



「レーシャ…レーシャ・スミルノフ!最高です!」



 あぁ、やっぱりかわいい。


 拾ってきて正解だったかと、その頭のてっぺんで揺れるアホ毛ごと頭を荒く撫で、けれど嫌がる様子もなくむしろ仔猫のように目を細める彼女…レーシャを見ながら、エディはゆっくりと息を吐いた。


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