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episode 8 「心の炎を」

深淵の洞窟を手探りで進むクレアとサラ。二人で並んで歩くのがやっとの狭い洞窟だ。生き物の気配は全く無く、二人の足音だけが不気味に洞窟内に響いている。しかし、何故か二人に恐怖の感情は全く無かった。まるで教会や神殿でも歩いているかのような不思議で神聖な感覚だ。


この先に何があるかはわからない。もしかしたらただ行き止まりなだけかもしれない。たが良からぬものが待っている、それだけはない。そう確信できるだけの何かがあると、洞窟が二人の本能に呼び掛けていた。


しばらく進むと洞窟は二股に分かれていた。が、二人は迷うこと無くその一方へと進む。二人ともそれが不思議でなら無かったが、どちらもその疑問を口にすることは無かった。そうして何度目かの分岐点を通りすぎた頃、二人の足が止まった。



「ここ、だな」

「ええ」



二人は更に地下へと下る階段の手前で声を交わす。この下には明らかに何かがある。サラの父親がサラに託した何かが。一歩、また一歩と階段を下る二人。さすがに緊張しているのか、クレアの足取りはおぼつかない。サラも体力を消耗しすぎてこれ以上の探索はできない。万が一ここに何もなかったら、ただただ隠れているしかない。そうやっていずれはこの洞窟の中で朽ちていくしかない。



(父さん……)



過去の中の父親に助けを求めるサラ。その想いに応えてか、二人は開いた空間へとたどり着く。暗闇の中には僅かに赤い光が浮かんでおり、二人はその光に吸いとられるように歩いていく。


「これは……」


クレアはその光に手を伸ばしていく。その光はクレアに触れたとたん、形となってその手の中に納まっていく。それは小さな小さな剣だった。


「な、なんだ?」

「おもちゃみたい」


二人は拍子抜けした顔でその小さな剣を見つめる。確かにとてつもない力を感じていたのだが、今はその気配もない。サラの言うとおり子供のおもちゃのようだ。


その時、後方から爆音と共に土煙が入り込んできた。



「うわぁ!!」

「きゃあ!!」


クレアとサラは土煙に吹き飛ばされ、その場に叩きつけられる。そしてその耳には決して聞きたくない声が注ぎ込まれる。



「どこに隠れるかと思えば洞窟ですかな? こんなところに入り込めば逃げ場など無いというのに」

「仕方がありません兄さん。所詮は子供、戦争の経験など無いのですから」



ベルクとシャム。二人はクレアたちをついに追い詰めた。



「くそっ! サラ、下がってろ!」



サラの前に飛び出すクレア。その手には先ほど手に入れた小さな剣が握られている。構えることすら困難なほど小さなその剣を見て、ベルクは吹き出さずにはいられない。



「ふっ! なんだその剣は? いや、剣と呼ぶのもおこがましい!」



その体躯を存分に使い、斬りかかってくるベルク。ベルクの剛剣を受ける勇気など微塵も湧かないクレアは当然後ろへと飛び退こうとする。が、今ここで後ろへ下がればクレアは無事でもサラが只では済まない。攻撃の余波でさえサラには致命傷だ。クレアに残された選択は、一か八かこのおもちゃでベルクの攻撃を受けきることだけだった。


(くそっ! くそっ! 何で俺がこんな目にあわなくちゃなんねぇんだよ!)


走馬灯。そんなものを信じたことなど無かったが、死に直面したとたん、クレアの脳裏では様々な思いが飛び交っていた。






クレアは第11の国、セルフィシー王国の王子である。そして当然彼の父はこの国の王だ。端から見ればクレアの王子としての立場は、誰もが羨望の眼差しを向けると思われがちだ。


だが、真実はそうではない。


現代世界の成り立ち、それは2000年前に遡る。侵略者である魔女との戦争、そしてそれに勝利した10人の神の物語だ。一度魔女によって滅ぼされたこの世界は、その後神々によって10の国に姿を代えて蘇った。それを証明する神話、逸話、遺物が各国には存在している。が、この国セルフィシーではそれが発見されていない。そして人智を越える力、加護もまたこの国の生まれは例外無く与えられていない。ゆえにセルフィシーは忌むべき国、偽りの国として各国から蔑まれている。とりわけ隣国のモルガントからの扱いは酷く、まるで植民地かのような振る舞いをされている。それを咎める国も当然存在しない。



だが、そんなことはクレアには関係ない。



何故この国が他国から嫌われ、追いやられているのか? 何故父はあそこまで追い詰められているのか? 何故母は日に日にやつれていくのか? 何故国民たちに嫌われているのか?


考える事は無駄に等しい。答えは見つからないし、見つかったとしてもクレアに解決などできないのだから。


逃げて、逃げて、逃げて、拒んで拒み、突き放す。当然彼に理解者などできはしない。自分でも理解はしている。仕方がない、どうせ嫌われる。世界が悪い、国が悪い、王が悪い。俺は悪くない。傷つきたくないから、どうせ傷つくなら傷は小さい方がいい。たとえ治らなくても……



来世に期待するのも悪くない。






今までのクレアならそう考えたかもしれない。だが、今のクレアの気持ちはひとつだった。




(死にたくねぇ。失いたくねぇ)




やっと手に入れたたったひとつの宝物。金銀財宝じゃ絶対手に入らない。来世になんか託せない。この俺の手で守り通す。




「渡すかよ!!」





クレアは叫び声をあげる。その怒号が彼の走馬灯をかき消した。



キィィィィン。洞窟内に金属音が鳴り響く。



「何!?」



クレアの体を粉砕する筈だったベルクが困惑の声を上げる。クレアの握っていたおもちゃはいつの間にか紅き刀身を持った剣へと変化していた。その燃え盛るような剣を握った少年は、彼の後ろで体を縮こませている少女の方に振り返り、高らかに宣言する。





「俺が守るって決めたから、黙って俺に守られろ!!」





クレアの心に共鳴し、剣もまたその炎を滾らせた。







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