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episode 4 「六将軍」

「はーい!」



クレアへの謝罪の予行練習を手短に済ませ、サラはドアを開ける。しかしそこにいたのはクレアではなく、一人の若い兵士だった。


「え、どちらさ……」

「私はモルガント帝国軍、イアン・レンバー伍長であります。セインガルド王国国王より王子探索の要請を受け、参上した次第です」


サラの質問を聞き終わるよりも早く、兵士は自分が何者であるかを丁寧に述べる。物腰こそ柔らかいが、気迫はしっかりとはなっている。そしてもちろん王の要請などは受けておらず、上司であるゼクス大佐の命により動いている。



「……で? その伍長様が私なんかに何のようかしら?」



予想外の来客とその兵士の迫力に多少なりとも圧されながらも、サラは臆すること無く言い放つ。



「王子がこの近辺で目撃されたとの情報があったのです。何か情報があれば提供していただきたい。無論虚偽の報告は双方にとって不利益しか産み出さないということは理解していただきたい」



もともと気弱な性格のイアンだが、ここで引く訳にはいかない。精一杯恐ろしい顔を心がけ、目の前の少女にプレッシャーをかける。


(あいつ、本当に王子だったのね)


サラは正直全く信じていなかったクレアの素性を受け入れる。


考えにふけるサラの様子を見ると、イアンはとうとう腰から訓練用の剣を抜く。



「知っているのか! 知らないのか! はっきり答えたらどうなんだ! 我々を甘く見ているというなばこちらにも考えが……」



声を荒げるイアン。しかし突如言葉を詰まらせ、後ろへと飛び退く。明らかに顔には驚きの表情を浮かべており、先ほどまでの気迫は完全に消えている。



「も、申し訳ありませんでした!!」

「え?」



ついには膝を折り、頭を地面へと擦り付けるイアン。全く持ってわけのわからないサラを置き去りにして、イアンは続ける。



「佐官どのとは露知らず、大変なご無礼を! お許しください!」



泣き出してしまいそうな声で謝罪するイアン。だがもちろんサラは佐官などではない。目の前の兵士が何故そこまでへりくだるのか理解できないが、思い当たる節が無いわけではなかった。




サラの父は帝国軍の兵士だった。そして父の残した軍服を仕立て直し、常に身に付けていたのだった。その元軍服には青い線が入っており、サラは知らないがそれは帝国軍佐官の目印だったのだ。



イアンにそれを悟られぬよう、サラは気を引き締める。このままイアンを騙せるならば、この窮地を脱することが出来るかもしれない。



「それにしても何故佐官どのがこちらに? もしやすると佐官どのも王子抹殺の命を受けているのでしょうか?」



兵士の言葉にサラは驚愕した。



(クレアを……殺す?)


「どうされたのですか?」


座り込んだ兵士はサラを心配そうに見上げる。



「いえ、何でも無いわ伍長さん」


声を震わせないように、サラは続ける。


「あなたもクレア抹殺の任務を?」

「はい! ゼクス・キラ大佐の指揮のもと、王子抹殺のために動いております」


先ほどまでの厳格な表情、そして泣き出しそうな情けない表情とは全く違う顔で答える兵士。その言葉にサラは拳を握りしめる。



(ゼクス……)



兵士にほとんど知識の無いサラにとっても、その名前は届いていた。




モルガント帝国には異例の速さで将校の座に就いた6人の兵士が存在している。


通称六将軍。


少尉ロイ・ザーク

中尉リザベルト・ヴァルキリア

大尉ライズ・デス・ヴェイグ

少佐シオン・ナルス

中佐マーク・レオグール


そして大佐ゼクス・キラ



(よりにもよって六将軍最強の男がクレアを狙うなんて)



ゼクスの良くない噂は後を絶えない。殺戮を一切躊躇わず、敵味方から死神と恐れられている。



(私が、守らなくっちゃ)



サラは覚悟を決めた。たった一人の友達を守るために。





「この周辺で王子は見かけなかったわ。別のところをお願い、そうゼクス大佐にも伝えてちょうだい」

「はい! かしこまりました!」



サラの言葉に元気よく敬礼し、道を引き返していくイアン。ひとまず危機を脱し、サラは胸を撫で下ろす。急いでクレアを探しだし、どこかに身を隠す手はずに移る……筈だった。




「何で……」




イアンが戻ってきた。しかも新たに2人の兵士を引き連れて。


嘘がバレたのか、それを確かめる術も時間も無い。


「ご機嫌よう佐官どの」


イアンの横に立っていた大柄な兵士がサラに声をかける。筋骨粒々で、一目見ただけで強者だと推測できる。


「私はベルク・セルク曹長であります」

「私はシャム・セルク軍曹であります」


大柄な兵士ベルクの言葉に続けて、更にその横に立っていた女兵士が続けて名乗る。



「道中でセルク兄妹にお会いしまして、どうしても佐官どにお目にかかりたいとおっしゃったので連れて参りました」


無邪気な笑顔を浮かべるイアン。どうやら嘘はバレてはいないようだな、それでも危機には違いない。



「「以後、お見知りおきを」」


ベルクとシャムは声を揃えてサラに告げる。イアンとは違い、明らかにサラを警戒している。


(疑われてる……)


思わず一歩引いたサラを、シャムは見逃さなかった。




「ところで佐官どののお名前は?」




シャムの鋭い眼光がサラを貫いた。



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