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silent night

作者: 白桜 ぴぴ

街はイルミネーションで飾られキラキラと輝いていた。

大きなクリスマストゥリーや、

光で創られたお城や馬車なんかの見える道を、

香奈はうつむき加減で歩いていた。

心の中は空っぽ。

頭の中では、さっきから何度も何度も同じ言葉がリピートしている。

「お前がそれでいいと思うなら、それでいいよ」

その言葉に対して、香奈はこう答える。

「それでいいよ」


気が付くと、香奈は広場のトゥリーの下にいた。

大きなモミの木。綿の雪。金色の包みのプレゼント。光のリボン。

その、モミの木の幹のまん中は半円形にくり抜かれていて

2人の天使と、キリストの像が飾られている。

そして、それを取り巻いている人は大抵がカップルだ。


香奈は人々の群れから離れるとため息をついて、ベンチに腰をおろした。

広場の向こうのおもちゃ屋では、サンタクロースが子供達に何か配っている。

そのサンタの赤い帽子からは、茶色い髪が覗いている。

学生のバイトだろうか?

背の高い浅黒い肌の青年。


どことなく、潔に似てるな。


思ってしまってから、香奈は首をふった。


もう、終わったんだよ。


と、言葉にしてみる。


その時、サンタの学生が、ふ…、と香奈を見た。

目が合いそうになり、香奈は慌てて視線をそらす。

それから、ボンヤリと目の前のカップル達を見ていた。


もしかしたら、向こう側に居たかもしれないのに…


とは、香奈は思うつもりはない。

自分が下した決断に後悔もしていない。


けれど、ぼんやりしていると、

ついつい一週間前の教室でのやりとりを思い出してしまう。

この一週間ずっと、その事ばかりを考えている。

あの日、別れようと言い出したのは香奈の方だった。

すると潔はびっくりして理由を聞いてきた。

香奈は答えた。

「だって潔は、卒業したら東京に行っちゃうんでしょ?

私、遠距離なんていやだもん」

「お前も東京にくればいいじゃん」

「私、まだ2回生だよ。後2年学校にいなくちゃいけないんだよ」

「だから、2年たって卒業してから…」

「私の性格からして、2年も離れてるなんて無理。続かない」

「そんなの分からないだろ?どうしてお前って、いつもそうやって

物事を悪く悪く考えるの?」

「…とにかく無理。別れよう」

そういうと、香奈は潔の手を振りほどいて教室を飛び出した。


潔と香奈は、友達の紹介で知り合った。

香奈は潔に対して、物凄い恋愛感情があった訳じゃないが、

なんとなく合いそうだと思ったので付き合う事にした。


だから、別にこれで終わったって構わない。


と、香奈は友達にも言った。

教室でのやりとりの後は、潔からの電話にも出なかったし

メールの返事も出さなかった。

冬休みに入って学校にも行かなくなったので顔をあわす事もなくなった。

潔からは何回もメールが届いた。

「なんでだよ」

「話くらいさせろよ」

「どうして勝手に一人で決めちゃうんだよ」

香奈はそれをすぐに削除した。

最後にはメルアドを変えた。

何も考えずにリセットしたい。

香奈は、そう思っていた。


そしたら、今朝家の前で潔が待っていた。

「何?」

香奈は冷たく言った。

「お前メルアドまで変える事ないだろ?」

潔が怒ったように言うと、

「だって話し合う事なんかないもん」

香奈は、冷たく言うとさっさと歩き出した。

潔は香奈を追い掛けた。

「なんで、そんなにあっさり別れようとか言えるの?」

「自分こそ、なんであっさり東京行くとか言えるの?」

香奈は歩きながら答えた。

「仕方ないだろ。オレのやりたい事は向こうでしかできないんだから」

「潔は私より夢が大事なんでしょ?じゃあ、しょうがないじゃん」

「そんなこと言ってないだろ?とにかく二人でどうすればいいか考えようよ」

「考える事なんてない。私の事が夢以下だって全然構わない。

私だって、別にむちゃくちゃ潔が好きなわけじゃないし…」

言ってしまってから、香奈はしまったと思った。

でも、もう遅かった。

潔はぴたっと立ち止まって、

「分かった、もう何も言わない」

と言った。それから、

「お前がそれでいいと思うなら、それでいいよ」

と言い捨てると、そのまま反対方向に走って行った。

香奈の心の中でカチリと音がした。


       …リセット…


どこからか、「きよしこのよる」のメロディーが流れて来て

香奈はふっと、我に返った。


きよし このよる

ほしは ひかり

すくいの みこは

みははの むねに

ねむりたもう…


…クリスマス。

キリストの生誕記念日。

でも、何がクリスマスだ、イエスキリストだ。

神様なんかいるもんか。


香奈は心の中で、誰にともなく毒づいた。


神様がいるなら、どうして幸せな人と、不幸な人がいるの?


気が付くと雪が舞っていた。

香奈は、舞う雪を数えるように唱えた。


神様なんて、いない いない いない いない いない

神様なんて、いない いない…


白い雪が降りしきる。

ホワイトクリスマスだ。

香奈はだんだんと自分がみじめに思えてきた。

そして、ツリーの中にいるキリストの像をにらみつけると、心の中で毒づいた。


なんなの?このもやもやした気分は。

どうして、私はこんな思いをしなくちゃいけないの?

なんとか言いなさいよ。

あんたの仕事は人を幸せにする事じゃないの?


その時、赤い手袋がすっと香奈の目の前に伸びてきた。

その手にはハートのペンダントが乗っている。

目をあげると、さっきのサンタの青年が香奈を見ていた。

そして、彼は潔によく似た目でにっこり笑うと

「余ったから」

と、香奈の手の上にペンダントを乗せた。

そして、雪の散らつく広場を抜けて走り去って行った。


香奈はぼうぜんと彼を見送っていたが、やがてペンダントに

目を移した。

ハートのペンダントには小さな羽が付いている。

そして、裏側を見るとそこにはこう書かれていた。


「求めよ。されば得られん」


香奈の目から涙が溢れてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  若さゆえに尊い異性の大切さに気づいていないのかもしれません。
2019/03/16 12:50 退会済み
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