表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ハレーの友人

飽き性

作者: 金城司

 

 男がいる。彼は先天的な飽き性なのである。しかし反面何かに夢中になる速さは、常人のそれをはるかに凌いでいた。


  熱し易く冷め易いという言葉は、まさにこの男の為にあるようで、スキーをしに白馬まで出かけたと思うと、雪合戦同好会の幹部になって帰り家族を驚かせたりするのは日常茶飯事だった。


 あるとき、退屈でたまらない男は壁のポスターにあるロッククライミングクラブへの勧誘に目をつけた。


「よしよし、今度はトムコルーズの真似事でもしようかね。」


 思い立った男の行動は早かった。家に帰るなりロッククライミングに関する用具や専門書ををずらりと買い揃え、意気揚々とポスターに書かれた住所に足を運んだ。


「やぁ どうも 今日からお世話になります。」


 簡単な自己紹介を終えた男は、早速トレーナーの指示に従って壁に張り付いた。


「足をここにですか?どうやったって届かないじゃありませんか、いや 馬鹿にされちゃ気分が悪いな、よし それ。」


 どうやら男のスイッチは入ってしまったようである、それから毎日通いつめ、男の技術はみるみる上達していった。


 男の手は汗で滲み、四肢の筋肉は伸びきっている。オーストラリアのある断崖に、男は張り付いていた。この手を離せば真っ逆さまである。しかしこのスリルが男にはたまらなかった。次の足場へ、次の高みへ。手を伸ばした瞬間、足元の岩場がグズっという音を立てて崩れ落ちた。


 家族が男の崖から落ちたのを聞いて、大急ぎでオーストラリアへ飛んできたのは男が目を覚ました後だった。男は奇跡的に命を取り留めていた。家族が病室に入るなり、彼は言った。


「聞いてくれ、俺は臨死体験をしたのだ。目の前に大きな川があって、そこにぞろぞろ人やらなんやらが列を作っていてだね、そこで俺はマ元帥を見たのさ、本当なんだって。」


「俺はどうやら臨死体験にはまってしまったようだ、なにかすぐに臨死できるようなものはないかな。ああそうだ、そこの電気ショックを貸してくれ、ああそれだ よしよし、ほれ行くぞ、ほっ!」


 男は何のためらいもなく自分の胸に電気ショックを押し当て、魚のように痙攣して動かなくなった。家族は悲鳴をあげて医者を呼び、医者は必死の処置を施し、なんとか男の生きているのを示す心電図のフラット音を病室に響かせた。


 しかし、彼が目覚めることは二度と無かった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 飽き性で、嵌まりやすい人間の性質……まさに、現代人を象徴する様な方を描いて居られる所が、面白く感じました!! [一言] 次回作も期待しています!!
2019/01/20 04:17 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ