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結んで
目を開けるとそこは見覚えのある車の中だった。花の下で歸るを忘るるは、美景に因り、樽前に酒を勸めるは是春風。運転手の好きな漢詩が刻まれている。涙が自然に零れ落ちた。
『澄香ちゃん。そんな欠伸で大口開けるなんて余程眠かったんだね。だったら仕込みの買い物付き合ってくれなくてもよかったのに。』
彼はそう言って笑う。
「一人じゃボケちゃった坤野さんには買い物が出来ないと思ったの!」
私は恐らくこの世界じゃいつも通りの意地悪い言の葉を頑張って並べた。
***
目を開けた先には、ネオンライト暴れる大都会。見慣れていた筈なのに、知らない世界に来た気分だ。こんな場所じゃ、北極星なんて見えない。適当な望遠鏡でも買っておこう。きっと来るいつかのために。
(終わり)
ソラのイロを最後までお付き合いしてくださった読者様に感謝を。本当にありがとうございます。続編、【月を象る】も是非よろしくお願いします。




