リアリスティックだがバイオレンスな世界
勉強明けの疲れた脳に更に書き直しの嵐を加えるとどうなるか実験してみたけど
これは酷い。頭の中にバナナを飼っている気がする。
雷はまだ知らせる事が残っているかのように鳴り響いている。
不思議で不躾な来客は耳を澄ませて何かを受け取ろうとしているように見える。口は全く開かず、そして身体はぴくりとも動かない。目を離したらいつの間にか土塊に変わっていそうな気がして私はずっと彼女を見つめていた。
『貴方は今逢いたい人が居ますね?』
視線が不躾だったのだろう。
彼女は今さっき話し方を思い出したかのようにゆっくりと話し掛けて来た。
「私には確かに逢いたい人が居ます。その事で何かを伝えに来たのでしょうか?」
少し好奇心のせいで捲し立てるような早口で話してしまった。この人が今にも消えてしまいそうな事も起因しているのかもしれない。
『やはり、そうですか。』
『それは貴方が貴方である目印になる。くれぐれも忘れないように。』
「どういう意味でしょうか?」
『貴方の周りにこれから訳の分からないことが沢山起きるでしょう。』
『何せ貴方は不思議な世界に迷い込んでしまったのですから。』
『だから目印が必要なのです。自分を見失わず、ずっと真っ直ぐ北を指せるような羅針盤が。』
何故かこの人の言っていることは一定の説得力を滲ませる。しかし、言ってることが依然としてぼんやりとしている。【不思議な世界】に迷い込んだってのはどういうことか…。
『疑問に思うのも確かに分かります。』
私の疑問が顔に出ていたのか、それとも読心術を使えるかは定かではないが
彼女はそういう風に語りだした。
『しかし、望む望まざるに関わらず貴方は現実的で平和な世界から出て、リアリスティックだがバイオレンスなこっち側の世界に来てしまったのです。』
『確かに見た目では今迄と何ら変わらないかもしれない。しかし、足を止めてじっくり見るとそれは確かに変わっている。確かに大同小異かもしれませんが、その小さい差は大きな乖離を産む。』
『その為の目印です。自分はこっち側の人間ではない。あっちの人間であるということをしっかり覚えておかないと飲み込まれてしまうから。』
説明を加えてもらってハッキリした。この人は嘘を付いてはいない。
不利益なことを嘯いて相手の事を不安にさせ、自分に依存させようとするような人間の喋り口ではない。
しかし…現実味がないのは確かだ。
「貴方の話を信じなければならないような気はするんですが、現実味が余りに無さすぎて信じ難いのですが。」
そう言うと彼女は芸術品のように白く美しい首を傾げて、
『現実なんて言葉はこの世界ではありません。誰がどう信じるかで紛い物すら真実になります。だからその疑問は私にはどうしようもありません。』
と言った。
「それは酷い。」
『そうです。酷いのです。』
『そちらの世界でだってきっちり起こっている事では有りますが。』
確かにそうだ。
人が他人に大して一度評価を出すとそれが誤解に溢れて居ようとも、それはその人の真実として頭に刻み込まれる。だから真実とは違ったように見える評価も世界には溢れているのだ。
それは、人と人の関係の話だがそれが世界観にすら及ぶとは話と違えないバイオレンスさだ。私は疑問を一旦置いておくことにした。この疑問だってきっと目印になる。
「貴方の話。疑問は置いておいて信じることにしました。貴方は私に何をしろと言うのですか?」
『申し訳ないけれどそれを言うことは叶わない。今は何かを伝えたがっている何かが私たちを見ている。』
それを表すのかは判然としないけれど確かに雷鳴はまだ続いていた。