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ソラのイロ  作者: 亜房
山と集落 【猩々】
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熾:猩々緋 RE:Day

──タルヒはソクラテスが背を向けたあと、私にその瞳を向けることなく、先程来た道の方に消えた。心にドライアイスを塗したみたいな冷気が充満している。数回咳き込む。全力疾走する酸素が心臓に当たって痛い。緩んだネジから空気が入らないように栓をするように、ココアシガレットを緩くくわえる。残念ながら、この煙草は火をつけることが出来ない。思わず開けたZIPPOを閉めて、コートのポケットにしまう。これで何回目か。指で数えられる回数では無いのは確実だろう。空気を炙った匂いが霧散する。雨でも降りそうな匂いだ。夜も体積を増して重くのしかかってくる。私の足には、もう夜を渡る靴は無いし、一つで二人用のグラスも無いし、混じり合う煙も無いし、連結する煙突も無い。太陽の光の貸与が必要な人間になったのに、結局夜を彷徨さまっている。その様はまるで──溺死体。踏んだり蹴ったりされる前に帰ろう。別に隠して欲しい涙もない。


***


 冷えきった窓ガラスから見える星。こい焦がれても、今住まねばならない朝は見せてくれないものだ。ひょっとしたら、夢かもしれない。見えるはずのない寂しげな後ろ姿がベランダに見える。思わず声を掛ける。


「お気に入りの星を置きに行って、それを思うままに線で繋ぐのさ。そうしたら、恣意的な星座が出来る。それは、私たちの繋がりと同じように、世界から除け者にされる。みんな空から流れてくる筈さ。そのときだよ。手を合わせて願ってしまいな。君の寂しさや悩みを溶かすモノを。神に祈るみたいに。」


背中は笑っている。そして言の葉を宙に浮かべた。


『いつもなら出来るはずがないじゃないか、と言うところだけれど。これは、夢、だからね。』


すこしずつ、すこしずつ、夜、をけずって、ほしがうかぶ。夜べ(寄辺)がなくて、どのほしともわかりあえない、たくさんの、ひとりぼっちのほしは、どこかにいってしまいそうになる。


***は、そのほしにせんをひく。そのせんをた夜(頼る)ひとりぼっちに、すこし、わらってみせた。


そのほしは、しばらくそらをたゆたっていたけれど、さらりとそらからおちてきた。それはおそろしく、きれいだった。***はなにをねがったんだろうか。


***


背中合わせになる。どうせ顔なんか見えやしないから。何故かあるグラス(Glass)グラス(Grass)。吸う方を選び、火をつける。赤黒な目。***もきっと同じ目をしている。毒を吸い、お互い毒を盛りあった。毒されてしまったのが、私だけではないと信じたい。選択は理性として正しかったが、本能としては正しくなかった。紫煙が立ち上る。誰からの支援もなく、私怨もなく。ただ立ちのぼる。その煙の行方を眺めていたら、***は煙交じりの咳と一緒に


『また***気がするんだ。』


と吐き出した。思わず振り向く。もう***は居なかった。飲む方のグラスに落ちた水滴を傾けて飲み干す。少し塩辛い。


***


流星群の下、私が何を思ったか──言うだけ野暮だ。でも、今は語ろう──ようやく火がついた私から(***)を奪わないでおくれ。それが無理なのは知っているけれど。そう──思うくらい自由じゃないか。また結局──夢の中でさえ、泡沫うたかたのように消え失せたけど。でも、良いんだ。いつか。またいつか。その思いを待ちかねたみたいに、頭と頬を撫ぜるみたいな雨が降り出した。


***


物は夜に隠せばいい。

涙は雨に隠せばいい。

雨夜あまよは隠せるものが多過ぎる。

心の外持ほまちすらも。

一夜の我儘わがまますらも。

明日の朝には流れてしまう。





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