垂氷:手記01 吸う周波数 still the earth is round
私の心は、いつも停泊地を求めている。見つかったら、それを使い潰すまで使い切らなければ、気が済まない。
今の停泊地は古く傷んだ厚手のカーテンで光を遮断した部屋。部屋の隅のハンモック。
ハンモックは良い。色々な意味で足がつかない場所だ。土足厳禁。後を追う影もない。この場所で、私は決して浮き足立たない。心音が聴こえぬ程の平静を何故か保てる。あの頃、エレベーターのように、一日休まず上下し続けていた私の情緒も、どうやら設置されていたビルが人から見放されたようで、何も動かない。人が来ても勝手に扉を閉じてしまっているからかもしれない。
憂鬱は思考を育てる劇物的農薬だ。ポジティブシンキングとかいう益虫を殺してまで、消えないネガティヴとかいうゴミを何故か育てる。普段殆ど何も考えないくせに、兎に角思考が止まらなくなるのだ。いい加減こんな強い農薬は、規制した方がいい。熱の時にうなされる夢のように不気味さがいつまでも付き纏う。
みんなも分かってくれると思うけれど、ネガティヴシンキングはクソだ。理由?そんなのは決まってる。いつも死と隣り合わせだからだ。バンジージャンプより余っ程危ない。何せ、命綱なんてもの存在しない。
だから、私は開き直った。ある銃を携えた大男の言葉を頼りにして。
『君は人から外れていると、悩んでいるらしいな。そんなの気にする必要はない。このクソッタレな世界を含めて地球って奴は基本的に普通なんだ。君が尖ろうが、地球は丸い。その証拠に鉛筆一箱買って、誰かをそれで刺すのか、と言わんばかりに先を削ろうが、それでも地球は丸いだろ?』
『普通と違う何かこそが君の価値なのさ。たとえ、それが睡眠薬焼けの青い舌だとしてもね』
私はその言葉に痛いくらいの衝撃を受けた。口が脊髄で動いた。
「それは、この数える羊が全て逃げた脳でもかい?」
『そういうことさ、紙月垂氷』
その言葉は、長袖一枚では心細い私の心の衣になっている。そうだな。寒中水泳でもしようか。今宵は、紙の月だし、紙の夜だ。神は残念ながら紙には斎かない




