表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソラのイロ  作者: 亜房
分岐器
4/61

雷鳴はきっといつも何かを伝える。

 いつも何かと、とやかく煩い両親が、こんな時間まで帰ってこないのも珍しい。こんなにゆっくりと本が読めるのは、随分と久しぶりだったから、長編で買ったっきり、読めずに放置されていた本を、ここぞとばかりに読み漁った。

だけども、心地よかった静寂は、本を読み終わると形をすっかり変えてしまい、

 何やら物寂しい。


そうだ、音楽を聴こう。

この静寂を吹き飛ばすなら……そうだな。オペラ音楽が良さそうだ。


「あれ?」


 イヤホンが見当たらない。ポケットもバックも、入れた記憶のないような場所も探したが、何度調べても、無機質なペンケースと参考書しか入っていなかった。多分後で落ち着いて探せば出てくるだろう。静寂をかき消すために、音楽を聴くのは諦めることにした。


 となると……テレビしかないか。正直気が進まない。

テレビから放出される情報はうるさすぎる。恣意的な情報が頭にチクチクして、肝心な内容が入ってこない。そんな事を喋って洗脳される国家なら、その程度の物だって分からないのだろうか。いつだかの総理が【1億総白痴】なんて言っていたが、色んな物の鍍金がネットによって直ぐに剥がれるようになった今、ちゃんと自分で考える事が出来る人間は絶対に騙されない。タダでさえ、騙されるはずが無いのに、人件費削減の為に、誰かの代わりで呼んだような、安っぽいコメンテーターなんて自分で考えることを余りしない人でも、『これは的外れだ。こんな適当な発言が当たるわけがない』と思うだろう。


 だって、そんなのが当たるのならば、そいつが為政者になって、とても良い何処からも文句の出ない政治を行ってる筈だ。今の政治が非難の的になっているって事は、まぁお察しと言った所だ。


 まぁいい。

 取り敢えず何でもいいからバラエティー的な有象無象のチャンネルを付けよう。多少は静寂に充ちた空間がマシになるはずだ。


『私、思うんですよー。最近の若い人が何処か冷めてるのって、大抵事物を対象化してなくて受け身になってるからやって』


 ふむふむ。まぁ、よく言う事だと思う。確かに対象化がされていないものは、『自分とは関係ないから』と、冷める要因になりやすい。


『それは、最近の人が自分に対する最低限の自信やプライドを失っているからだと思います。そうです。これを聴いている貴方です。貴方の人生は貴方が主人公なんです。決して誰かの脇役として生きてる訳では無い。だからしっかり生きないと。上を向いて1歩踏み出さないとどんな事も成功しない。それは自信に繋がりません。結局怠惰が冷めることを生み出しているんです。言い訳をしてぬるま湯に浸かっているんですよ。』


 何を言っているんだ?この人間は……。

 心が冷めてる奴は怠惰だと言いたいのか。自信を持てない奴は怠惰だと言いたいのか。そんなことはない。冷めてしまった人間だって必死に生きている。誰一人味方がいなくたって、自分が結局、他人の人生の添え物でしかないと気づいたって。それを頑張って見ないようにして、一歩一歩踏みしめて生きている。だからこそ更に苦しむのだ。

【自分の人生を生きろ?】

【君が主人公だ?】

 馬鹿らしい。主人公になれていない、出来損ないの肉塊になってしまったから、自信が持てないのだ。最初から頑張らない奴なんて居ない。頑張っても結果が出ずに、苦しみ続けて妥協し始めたからこそ、自分に自信が持てなくなり、自分の目線を信用せず、『みんなだって辛いんだから』って、言葉を聴いて我慢に我慢を重ねて擦り切れてしまうんだ。

 人は関係ない。自分が辛かったら辛いって訴えてもいいのだ。それなのに皆どんどん擦り切れていってしまう。

 あの人を思い出したからか、こんな普通のコメントでも、私は何故か激情を抑えることが叶わなかった。あのいなくなったアイツだって、擦り切れて私の元を去った。最後のアイツの顔は、もう何も望みなどないかのように、不格好で不器用な、薄い笑みを浮かべていた。もう『妥協』に『妥協』を重ねすぎたんだろう。いや、アイツの事はもう忘れたんだった。もう泣きたくはない。


 もうテレビは聴こえなくなっていた。

 ドアの方から雷鳴が聴こえる。怒りや慟哭のように繰り返し繰り返し執拗なまでに。誰かにメッセージを投げかけているのかもしれない。届けたい人に伝わるように。回数を分けてとにかく何回も。


気づけば部屋のインターホンが鳴っていた。

数分おきに履歴が付いてるところを見ると、これは親ではないかもしれない。


取り敢えず出よう。

すると目の前には、言い様のない現実感のなさを携える女が居た。


『貴方にメッセージを届けに来た』


『でも今知らせることは出来ない』


『しばらく一緒に住まわせてくれ』


それは何故か断ることが出来なかった。それは誰かの人生の筋書きで決まっているかのように。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ