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ソラのイロ  作者: 亜房
山と集落 【白線】
34/61

熾:夜を靴にすることは、私にはもう。



 夜。限りなく朝に近い夜だ。もう星も消えた。薄闇に群青の絵の具を原液のまま放り込んだ空に、気の早い鳥はきっともう朝を告げてもいいんじゃないか?と周りの木々に話しかけている頃だろう。私は、まだ残っている夜を味わうこともせず、寄りかかることもなく、ただ起きて耳を澄ませていた。手持ちのオイルライターで火をつける。殺風景な部屋。私の今の主食のカップ麺の亡骸でシンクは一杯になっている。気休め程度に開けてある水の流れる予定だったはずの場所がライターの不安定な燈に当たって鈍く光っているのが目に入って、火を消した。こんな事していたら、無駄に心にささくれを作る。


 私の心はダイヤの真逆なんだろう。直接トンカチで殴られるような事じゃ傷つかないけれど、引っ掻くような傷にとても弱い。純潔でもない。ダイヤは屈折が美しさの根源ならしいけれど、私の屈折は鈍くて不気味だ。でもまるで、四月ウソみたいなのは変わらないか。嘘みたいのベクトルは違うけれど。


 空に一筋の光が刺す。朝の到来ではなく、落雷。少なくとも、ヴァジュラヤクシャの杵が落としたものでは無いだろう。この雷はきっと、木を殺している。風は――吹いていない。金の杖の持ち合わせも生憎なかった。止まらない雷は――やはり何かを伝えている。彼は、夜を靴にして、部屋の中で考え事だけを独り歩きさせていることだろう。私はもう、夜を彼にあげてしまった。代わりに残していった借り物の靴じゃ上手く踊れない。諦めなんて靴、私には履きこなせない。ただ、通り過ぎるまで、目を瞑る。もはや生活習慣病と化している夜行性に、体内時計の長針と短針が奪われて、寝られぬ瞼の裏で何かが私を見ていた。


***

 ――クソッタレのBRAND NEW DAY。昨日が嘘みたいな晴れ渡る空。ノンアルコールのように酔えない夜が過ぎたと思ったら、アルコール殺菌が不健康なくらいにされた朝が来やがった。うだるような暑さだ。嵐は通り過ぎちゃいないというのに、最近の太陽は元気で困る。対抗策として、飲みさしのコーヒーに一掴み分の氷を入れて、適当にあおる。ジャンキーな味だ。思い出すものが何かは忘れることにする。飲み終わると、いつもの赤いコートを羽織り、履き潰し気味のティンバーブーツ足にを引っ掛けて、渋滞して今にも事故しそうな頭を気の所為だと吹き飛ばして、暗く汚い鼠のねぐらを飛び出した。


 もう、平和には終われない。拳をしっかりと握りしめなくてはいけないのだ。全てがパーになってしまう前に。手遅れになってしまう前に。

 


 



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