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ソラのイロ  作者: 亜房
山と集落 【白線】
31/61

熾:この白線止まった方が利口かい?


――山の集落は、曰く付きの集落である。

 首が座る頃には、もう薄気味悪さを感じるような場所であるこの集落を簡潔に言えばそのような文章になるであろう。外には、有刺鉄線が外の干渉を断るかのように張り巡らされ、中には嘘みたいな農業地域と、真面目そうな施設が平和に置かれている。作られた平和だ……正しく言えば、他の平和を見たまんまに移したタダのレプリカ。何かを覆い隠すようにやっている、時間交代の警邏も何処かその怪しさを象徴している。正直長居したい場所ではない。抽象の介在を断り、具体的な言葉を愚直に並べてあるのを、阿呆はただ丸呑みにして、怪しさから目を逸らし、この気味の悪い安寧を享受している。


 

さて、私は何で此処に来なければならなかったのか。簡単だ。仕事を終わらせる為、ただ、この具体性を欠くこの体を終わらせる為に。休憩に辺りを散策していたら、



『おお。来たか。しかし、これでお前さんの仕事も大詰めって訳か、熾。何か寂しくなるな。』



 わざとしているのかわからない無遠慮さでソクラテスは言う。蓮のように、根が暗く穴だらけの私が、ようやっとこの面倒で退屈な救いようも無くなってしまった具体性の欠く生を終わらせられるのだから、いっそ祝福して欲しいものだ。雨の日の植木鉢の下みたいな目をして見てやると、ややぁと誤魔化すようにソクラテスは複雑な顔で言う。



『まぁ、そうだよな。お疲れ様と言うべきかね。』


「この白線止まった方が利口かい?」


そう言うとソクラテスは今度は板についた苦笑いをする。この世界に老化というものがあるのだとしたら、真っ先にそこが濃い皺になりそうな笑みだ。


『ノーコメントで。どうせその方が利口だって言ったって、それだったら私はただの阿呆だって言うだけだろ、どうせ。』


「それは、そうかもしれないねぇ。きみと話すのも、もう残り少ないだろうからどうせ改める気なんてさらさらないけれど、聴いてみただけさ。」


『そう……か。まぁそうだな。じゃあ、餞別だ。』


 言の葉を空間になるべく波を立たせないように、ゆっくりと置く。ゆるやかな波紋が破線の円を空間に描いていく。その流れをじっと見ていたら、目の前に見覚えのある煙草のパッケージ。明らかに別のものが入っていることがわかる年季の入ったものだ。洗濯物を干す時にしっかり伸ばさなかったワイシャツみたいになっている。


「私はもう吸わないと言ったじゃないか。」


 中のものを覗いてそう言う。中には、ローペーパーに巻かれたメリージェーンのジョイントが入っていた。それもかなり太巻きの。私はどういうつもりだと言ったふうにソクラテスの目を見た。


『この大き過ぎる一服は絶対に必要になる。君がもう吸わない気でいるとしてもね。 』


呪いの言葉のようだ。私は煙を払うみたいに話題を切り替えることにする。


「ソクラテス、君はどうするんだ?」


『まぁ、色んなところにちょっかい出しながらぶらりぶらりさ。いつもと決して変わらない。』


「そう、か。」


 言の葉の枯葉がふわりと空間に浮く。この空間にくらべて余りにも密度が低かったみたいだ。その枯葉が何処かに行くまで私はぼうっと眺めていた。ただ、眺めていた。これから、独りの戦いが始まる。





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