『妥協』
私の名前は武梨澄香。
キッカケなんてとっくのとうに忘れたけど少し斜に構えてしまうようになっちゃった高校生だ。
それを頑張って隠しきる為に意識に仮面を被る。いつもしてきたことだ。最初のうちは心に少しばかりの棘を植え付けて行ったもんだが、もう何も感じなくなった。慣れたんだろう。慣れって言うものは恐ろしいものだ。
集団と違う考えを持つと迫害されることは明らか。それを避けるための防具みたいな物だ。形だけ皆と一緒なフリして外面を挿げ替えたドッペルゲンガーになりきっている。他の人の『心のドッペルゲンガー』を自分の中に作るのは自分の心をきっちり冷たくする。私はどんな事があっても冷静に判断することを信条としているのだからむしろ丁度いい。自分の心の穴から来る隙間風だけで私の心は十分冷えているんだけれども。
苦しみから一時期救ってくれたあの唯一の友達…忘れた。
苦しみから救ってくれたくせに新しい傷を付けて私の元を居なくなってしまったあの子の事はもう忘れてしまった方がいい。あの子を思い出すと涙腺が緩む。泣くことはもう辞めにしたいのだ。
だからもう考えない。
こんな私を見て、周りの人は『そんなに達観出来るなんて凄いね。』って言う。別に凄くなんかない。私は『妥協』を常に強いられるようになってから、それに慣れただけだ。ただ、自分の求めるラインを1回下に下げるだけで全て済ます。あくまで自分の希望を必ず諦めないようにする。それが私の生き方であり今迄の生活で培った唯一の技術だった。