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ソラのイロ  作者: 亜房
隧道
20/61

文哉:浮遊感にダンスを添えて味わう

 違法の塊が詰まったアルミフォイルを渡されるがままに燻らす。落ちても痛くない位の高さに糸で吊り下げられてるかのような浮遊感が身体を支配した。


『それでいいよ。文哉くん。君はそれでいいんだ。』


 どうして……。こんな考えることのままならないような環境に置かれてしまっては、僕は自分の存在が自分で理解出来なくなってしまう。浮遊感と自分の境い目が見えなくなってしまう。


『それでいいんだよ。文哉君。君はどうも下向きに考えすぎる。それは悪いことではない。ポジティブシンキングなどクソ喰らえだ。でも、こういうガス抜きはしとかなければいけない。』


 猩々色のコートの女性は顔に感傷を燻らせている。この人もそういう事情の持ち主なんだろう。だから浮遊感を吸い込む。 まるで現実から逃げるかのように。


『逃げることは悪いことではないよ。逃げる事を悪いことにしたのは人生成功している【みんなの】っていう集合体だ。』


 違う意味の集合体恐怖症である僕は逃げることを選び続けてきた。別に否定するつもりはない。そう言おうとしても何故か口が開かない。空間が口を開くのをきっと禁止している。


『そうか。』


 僕の手からアルミフォイルをとって猩々色のコートの女性は燻らす。彼女のアンニュイな雰囲気と合わさって何処か様になっていた。


『そう言えば名前を言っていなかったね。君は必要が無いと言っていたけれど。』


 そうだ。別に知りたくない訳では無いけれど、知りたいとも別に思わないから。


『君と同時期に入って来た君を探してる可愛い子ちゃんとは、違うねぇ、やっぱり。』


 ふーん。僕だけが入った訳では無いのか。


『あー。可愛い子なんて言うから興味が出てしまったかい?』


 いや、そんな事はない。あいにく、可愛い=好きとか言う単細胞生物に生まれてこなかった。僕は自分の身が可愛いけど、別に自分のことが好きでない。


『そう言えばそうだったねぇ。君はそういう考え方をする子だった。』


 言いながら、またアルミフォイルが手渡される。また意識が浮遊する。心が抱えた感情の残滓が目に下がっていく。泣いているかのように、二人とも見事に目が真っ赤になっていた。




『しかし、君はまだ頭に思考が残っているようだ。でも、此処では思考なんて要らないんだ。いつも考え過ぎるくらい考えてる分全ての思考を追い払うんだ。こんな真っ暗闇で考え事をしているんじゃ、夜任せな人間になってしまうよ。夜の包容力は危ういよ。こっちでは……ね。』


 何度も言われてるから試そうとするけれど、かえって思考が溢れ出してくる。仕方ないのかもしれない。


『仕方ないなぁ。では踊ろうか。考えずにただ踊ろう。この夜が開けるまでね。』


 手が引かれる。どこからともなくアップテンポな曲が流れ出す。ただ音に乗せて体を揺らす。ダンス。ダンス。ダンス。


『そうそう。空気を味わうかのようにね。』


 曲は終わりのワンコーラスに入った。低い音のクラリネットに合わせて一曲目ラストスパートにかかる。身体が近づいたり離れたり。音に合わせてステップを刻んだり。少しずつ音が小さくなっていき空白の時が流れ出した時、知らず知らずのうちに唇を合わせていた。お互いの存在を確かめるような接吻だった。


『こっちも味わってしまったねぇ。』


 猩々色のコートの女性は震えるほどに妖艶に笑っていた。音楽がまた流れ出した。夜はまだ明けていない。踊りは続く。










『味わう』ゴート語:kustus→kiss『接吻』

2章完結でございます。これからもよろしくお願いします。

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