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ソラのイロ  作者: 亜房
分岐器
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木を殺す風

 風が枯れ草を運ぶ乾燥した音が微かに聴こえる。月曜日という一週間を構成する七日の中で一番嫌われてるであろう曜日のカサついている心にはその少しの音も何故か寒々しく聴こえる。それにしても今日何故学校があるのか分からない。

 こんなに風が木を殺すかのように暴れているのに『安全に気をつけて登校して下さい。』は色々無理があるという物だ。

安全に配慮する心があるのであれば『不要不急な外出は控えて下さい』って指示の方が的確だと思う。これをうちの学校の運営委員会はいつ気づくのだろうか?

 いやむしろ気づかないのが自然であると考えた方がいいかも知れない。うちの学校は自称進学校だ。気取らなくてもみんなが『頭が良い学校だ』と思ってくれる学校ではないから、表層的に頭の良さそうなイメージを付ける為にただただ見栄を張ろうとする。雨が降ろうが槍が降ろうが学校があるほど教師にも生徒にもやる気があるっていうパッケージを付けることに夢中になっているが為に本当にしなければ行けないことを見失っているんだろう。そうであれば仕方がない。

  学校の正門に着いた。風のせいかはたまた気分の悪さのせいか、いつもと違っているように見える。本当は違っているのかもしれない。こんな朝から非日常的なことが起こりに起こっているのだからこの程度の違和感は些細な物だ。空は何の物か判然としない粉塵で埋め尽くされ、並木通りの折れ枝は木の上の方で引っかかり風で揺れる度に引っかかっている二つの木を傷つけてしまっていた。『この日からどうやら世界は180°変わってしまったのです。もう戻れないのです。』なんて報道がされたら信じる人もいるんじゃなかろうかと思える程に今日はどうも違和感が身体にまとわりつく。人自体もうこの世界には居ないのかも知れないけれど。

 そんな阿呆な事を考えていたら前から人が歩いて来た。やっぱ人は居るじゃないか。

 でも依然として違和感は存在する。何故この時間に学校を出ようとしているのか。休校措置が取られているのであれば喜び勇んで下校するヤツらがここを跋扈してなければおかしい。まぁそんな事はどうでもいい。それ以前に露骨な違和感がある。向かい側から来る人間の身体は病的なまでに白く、足も病的なまでに細く、(ふと思い返してみればこれが体重を支えるのに最低限必要な足だったのかもしれない。)どうしようもない非現実な雰囲気を漂わせていた。そんな事を頭で考えておいて他の人との関わりを嫌う僕は何も声を掛けずに通り過ぎるのだけれど。


「其処の少しの暇があれば本を読むかネット見てそうな根暗な少年。」

 イメージとは離れた穏やかな声が虚空に響いた。周りに人が居ないようだし、僕のようだ。

「そうだよ。君だ。君に話しかけている。」

 なんて答えたらいいか分からない。取り敢えず目を合わせて次の言葉を待ってみた。しかし、何も言うことはなくそいつは行ってしまった。無言の中に判然としないメッセージを添えて。

 あとから考えるとこれが始まりだったのだろう。不思議に溢れた世界に僕は足を踏み入れてしまっていた。

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