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ソラのイロ  作者: 亜房
隧道
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坤野:前足をとった蟹

澄香ちゃんでは無く坤野さんの話が出ると予想した人どれくらい居るんだろうか。


 少し気の早い鳥が鳴いている。この閑散としてしまった商店街の朝は大体この鳥が鳴く頃に始まる。

 私はいつも通りの仕込みを始めた。来週から働いてもらう事になった澄香ちゃんの為に作業要領のマニュアルを作っておくのも忘れてはいけない。一回一回作業をする度に書いておく事にする。幸い字は綺麗な方だから-比較する友達が余りいた訳ではなく比較する対象が古文の崩し字のような可読性に難がある文字だった事を考えるとそうでも無いのかも知れないが-あの少しばかりひねくれたあの女の子もしっかりと受け取ってくれるだろうと思う。


「うし。」


 割と多い作業量だったが、割と早く終わってくれた。これならこんなに慌ててやらんでも良かった気がするがこんなするべき事が終わったゆっくりした朝もなかなか趣があっていい。だが、しばらくするとやっぱりコンコンと扉を叩く音がする。平穏は長く続かないものだ。気づけば、もう太陽が一番高くなる頃か。それならしょうがないか。朝はめっきり人が来なくなったものだから気づかなかった。昼は相変わらず大盛況になるが、あの問題のおかげで割と生活と仕事のバランスを上手いこと取れるようになった気がした。確かこう言うのをWLBワークライフバランスと言うんだったか。最近何でもかんでも英語という使い勝手の良い模造品に捩じ込んで本質を取れない言葉が増えた気がする。


『すいませーん。よろしいでしょうか?』


おっとっと。忘れていた。考えると止まらない脳みそというのもボケに縁がなさそうで良いものだが、こう何というか没入し過ぎるのはかえって危ない。


「はーい。どうぞ。」


私はにこやかな笑顔-澄香ちゃんにタヌキみたいと言われ大層傷付いたのだが、生まれついての笑顔なので仕方がない-の準備をした。チリンチリンと昔、妻が作って置いていった来客を告げる鈴がなる。思えば妻はこの音が好きだったなと一思案。まぁその事は辞めておこう。


『どうも。ここに座って良いですか?』


「はい。メニューはこちらです。」


 入ってきたのは、昔の自分に良く似た少年だった。その仕草にすらも諦観が滲み過ぎている。こういう人にはこちら側から話すのは鬱陶しいと思われるから辞めた方が良いらしいから話すのは辞めておこうか。-香澄ちゃん曰く洋服屋軽く見ている時にいきなり話しかけてくる店員並に鬱陶しいとの事。確かに私もその手の店員は苦手だから何も言い返せなかった-


『注文前ですけど少し聴きたい事が有るんですが。』


「え?」


思わず声を上げてしまった。必要以上に話をしないタイプだと思ったからだ。


『やっぱ失礼ですよね。じゃあ、このマンデリンの浅煎りを下さい。』


『僕、ここら辺で起きてるコミューンの騒動に付いて知りたいことが有るんです。』


会釈してマンデリンの準備を開始する。二杯入れよう。その浅煎りは必要以上に苦々しい物に変わってしまうかも知れないが。

読んでくれてありがとうございます。受験が終わるまでは更新出来ないかも知れませんが(二月末まで)一緒にこの世界を追いかけてくれると助かります。絶対に帰ってきますので。

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