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06 鬼ごっこと種族説明

今回のお話は勇者木野友馬→ソーダへと視点が移りますので、ご注意を。

 時は遡り、ダンジョンマスターがエンカを首領とした盗賊の襲撃を受けている頃。異世界『イーヴァンプール』のアムン王国に勇者として召喚された学生の一人――――木野友馬はアムン王国の東部に位置する『オルガーメリク』という街に着ていた。


「まさか、異世界の夜行列車があるなんてなー。あっちの世界でも昔のドラマでしか見なかったからすっげえ興奮したぜ。おかげで眠れなかったけど」


 大きな欠伸をしながら友馬は長時間列車に乗って固くなった腰を伸ばす。


(それにしても、爺ちゃんの懐中時計を売ったのは失敗だったかなー。あれ、三年前のお正月に借りパクしたやつだから爺ちゃん忘れていると思うんだけど、さすがに売っちゃヤバいかな。いや、軍資金は必要だよな! そこは断固譲れない問題だよな!

 ……異世界召喚を旅の土産として持っていけば許してくれるかなー)


 懐中時計は異世界こちらにはない鉱物で作られており、その希少性から王国の骨董屋らしき店でかなり高値を付けられた。およそ三か月は持つだろう価格で売ることで彼は旅たちの軍資金とした。


 余談ではあるが、友馬のお爺さんは彼が懐中時計を借りパクしていることを黙認しており、友馬の彼女を紹介されたときに盛大に暴露してやろと計画している。


 そんなことも知らず、駅のホームで一人紛糾している友馬の後ろから青銅色の鎧姿の人が近づく。


「どうしんたんだい? 何か困りごとかい」

「見ての通りやっちまったことに後悔をしているんです。ああ、後が怖い。ま! 仕方がないからいんだけど」

 

 友馬は一人自己解決する。その一見爽やかな様子に男性は朗らかな声で「そうかい。怪我があるかと思ったが、心配する必要はないようだね」と安心する。


「いや、変な気を負わせてすいません。なにぶん思春期なもので。

 それはそうと、お兄さんは、肩とか凝らなかった? 俺はこの通りガタガタだよ」

「こういう仕事だからね、僕は大丈夫だよ!」

「いやいや、どんな仕事やねん!」


 鎧を装着して仕事する車掌さんなんてどこまで戦闘意欲に溢れているの? その意味合いを込めて友馬は車掌さんに突っ込みをするも、鎧のあまりの強度に右手が痺れてしまう。


「うおおおおおお……」

「だ、大丈夫?」

「お、おう。ノープログレム……」

「のーぷろぐれむ? それはどういう意味なの?」


 問われた少年は一度首を傾げたが、何かを納得したように頷き、車掌さんに説明を始めた。


「何も問題はないよっていう意味さ。俺の故郷じゃ他国文化も積極的に取り入れてきたから、偶にどこの国の言葉か判らない言葉もあったし、祭りごとだって本来のものとはかなり変わってきているな」

「どうしてどこの国の言葉か判らない言葉があったり、祭事が本来のものとは変わっていたりするの?」

「他国の良いところを取り入れているからな。国や国民もそこまで忠実に再現するつもりもないし、要はみんなで騒いだり飲んだりする機会ができればいいんだよ。プロポーズ――恋人に思いを伝えるきっかけにもなるしな」

「へえ~。そういう国もあるんだね」


 深く感心したように吐く車掌の声に、友馬は自国も他の国々から見れば変わっているのかもなと思った。人より少し自己主張が強い傾向にある彼は、世界が自分中心に回っているまではいかないにしても、ある程度の常識人でいるつもりでいた。


 しかし、初めて親しくなった異世界人の言葉に自己疑問を抱いた。異世界で常識が通じないのは必然なところが大きいが、それでも無自覚に自ら視界を狭めていたのではないかという考えが芽生えた。


(……やっぱ、城から出て正解だったな! ゲームや漫画みたいな異世界とは思っていたけど、文明レベルは予想していたよりも高そうだ。このままちょっと観光でもしてみようかな)


 友馬は車掌さんからこの街の名物や安ホテルなどの情報を聞き、街の探索を始めた。『オルガーメリク』はアムン王国を中心とする6都市のなかで最も水に恵まれた都市であり、水産物に力を入れている街だ。


「うまっ! 何これ!?」


 友馬は車掌さんからオススメされたレストランの魚料理に舌鼓していた。一匹まるごと皿に載せられた焦げ目が付くまで焼いたフグのような魚の身を切れば、熱湯のような肉汁がこれでもかと溢れ、海と思しき潮の湯気が友馬の食欲を刺激する。その味は沸騰した海流エキスを思わせる匂いに負けない弾力とフルーティーなインパクトだった。


「シェフさん、この料理かなりおいしいよ! 魚なのにどうして果物の味がするの!?」

「はい。この料理(ハルワメジュレ)に使われておりますメジュッレソには餌としてキャットネという果物の皮が与えられております。普段はあまりの酸っぱさに捨ててしまう皮なのですが、メジュッレッソに与え焦げ目がつくまで焼くことで酸味が抑えられ旨みが凝縮されます。先ほど湯気となった水分もキャットネの皮のものであります」

「道理でいい匂いがすると思った」

 

 それらしいセリフと言ったが、異世界の知識を持たない友馬にはシェフの説明の半分も理解できない友馬は、今食べている魚がメジュレッソという名前であることしか判らなかった。

 問題となるその魚の餌として使われたキャットネだが、ネーミング的に人参と似ている果物なのだろうと彼は結論付けた。


 もちろん人参でもなければ人参の親戚でもない。


 キャットネとは食虫植物であり、その皮は外敵から身を守るために弾力性を作る多量の水分と強い酸味を持っている。そのことを知る由もない友馬は幸せそうに食事をしながら感激を言葉にしている。


 ◇ ◇ ◇


「いやー、うまかった! まさに絶品!」


 食事を終えた友馬はその足でとりあえずの拠点となるホテルを探し始める。車掌さんとの話の記憶や、すれ違う人々から話を頼りに歩くも中々つかない。


「あれ~、おかしいな。途中まではうまくいったと思ったのに」


友馬が不思議そうに頭を捻りながら、来た道と先の道を見る。このまま先へ行っても住宅街に続きそうでホテルがあるとは思えない。だが、その見解も彼の常識の知識である。もしかしたら住宅街に隣接するのかもしれない。


「一度、来た道に戻るか」


 来た道を戻ろうと足を進めると、全身を覆い隠す黒いローブを被った人が友馬の目に映った。

 黒いローブの人は立ち止まり、


「勇者様、どうか城までお戻りください。パリス王女もお待ちです」

「あれ? 王女様の使いの人」

「そうです」


 黒いローブの人は黒く覆われた手を差し述べる。


「パリス王女はあなたがこちらを配慮している気持ちが痛いほど伝わった。だとしてもあなた方を危険な目に合わせるわけにはいかない。こちらの世界の異変はこちらが解決しなければならないと言っています。さあ、私とともに城までお戻りください」


 手を伸ばす黒いローブの人を友馬はじー、と疑わしそうに見る。


「疑うのも無理はありません。このローブは日射から守るものです」

「いや、身長低くない?」


 黒いローブの人は友馬よりも背が低く、友馬の目にはハロウィンやお芝居を楽しむ小学生にしか見えなかった。


(いくら異世界でも、普通はこちらの身長に合わせた人を送るでしょう。王女様もクラスメイトから話も聞いていることだし、低身長の真っ黒お化けが登場するわけないか)


「そういう種族ですので」

「うん、判った。じゃあ、僕も急いでいるから」


 そう言って友馬は黒いローブの人を素通りし、ホテルを探し始める。


「待ってください! あなたは私たちの世界のために戦うなど、王女パリスは望んでなど――「うん、判ったから。あんまり変な遊びをしないで早く帰るんだよ」――はいっ!?」


 後ろを向き、硬直した黒いローブの人に友馬は元気な声で言う。


「子どもはもっと体を動かす遊びをしたほうがいいよー」


 友馬の目には黒いローブの人はお化けの恰好をして思わせぶりなことを言って遊ぶ子どもにしか映らなかった。自分の髪が異世界では注目を集めることを車内で知っており、そのときも子どもが声をかけてきた。


 友馬はその類だと考え、同時に黒いローブの人も友馬の目に自分がどのように映っているのか判った。黒いローブの人からすれば彼は異世界人であり、こちらの常識に疎いことは知っていたが、それを踏まえても癇に障った。


「……いいでしょう。それでは遊んでもらいましょうか」


 ピー、と甲高い音を鳴らす笛の音が響き、その音に友馬も「なんだ?」と不思議そうに鳴らした当人を見る。


 変化は突然だった。建物の物陰や屋上から黒いローブの集団が次々を出現し、群衆となって友馬目掛けて走ってくるではないか。その光景を見れば、お化けから人に質の悪いいたずらを仕掛ける妖怪へと格上げされるだろう。


 仕掛けられた友馬は驚愕の顔をしながら道を駆ける。前にも黒いローブが複数迫ってきたが、後ろに逃げる道はないので、頭上を越えたり体を捻ったりと上手く捌いて道を進む。


「おいおいおい、俺と遊ぶのかよ」


 集団鬼ごっこの逃げ役となった友馬は戦力に不公平だなと思うも、年上の実力を示すためだと笑いながら彼らの相手を務めることにした。


 まだ異世界イーヴァンプールに召喚され二日。常識すら知らない彼の目には、これ以上の景色が広がらないのも無理はない。



 ◇ ◇ ◇



 人の私室プライベートルームだというのに、妄想やら濡れ衣やら清純やらで騒々しくなり、今やっと落ち着き始めた。脳が正常な働きを取り戻しつつあるマスターは、「そういえば、エンカは?」と今更ながら尋ねた。


 俺が返答する前に、どこからか呻き声が聞こえてくる。


「んん? なに、この声。どこから聞こえてくるの?」

「…ここだよ。私はここ」


 ベッドから見て背になっている黄緑色のソファで横になっているエンカは具合が悪そうにして、手を伸ばし横に振ることで存在をアピールしていた。


「エンカもここにいたの? ソファに隠れていて全然気が付かなかったわ。…って、ちょっとどうしたの、青い顔して。あんたも余りの熱さにやられちゃったの? 砂漠の盗賊のくせに弱っちいわね。よく今まで盗賊ができたものよ」

「お、お前のせいだろう…(後、女たらしクソ野郎のせいだ)」


 出会ったときの盗賊のリーダーらしき覇気の欠片もない。どうやら、先ほどの騒ぎの際に起きたようだが、事態が収まるまで狸寝入りをしたいたようだ。身に覚えのない異名ニックネームで呼ばれるのは心外だと言うのに、早速使いおって。


 ……俺も何か考えてみよう。


 思案しているなか、エンカはベルが置いていったグラスの水を一口飲み、這いずるようにしてソファの背から顔を出し、マスターを睨む。 


「うっ…。悪かったわよ、あたしもやけになりすぎたわ。そこは素直に謝りましょう。でもね、あんたも最初から、この砂漠に魔物を召喚できるような素材がないことを言ってくれれば、あたしだって怒らなかったし、あんたがこうして倒れることもなかったわよ」

「…誰も素材がないなんて言っていないだろう。ただ、お前たちの言う砂漠がどうにも都合がいい解釈で凝り固められらものだったから苦言を指しただけだ。

 実際、竜骨の骨やポポレヤ文明の呪術具などがあるが、それら全ては砂の下に眠っている。高い魔力の元である魔素を含んだオアシスに咲く花なども魔道具の素材として重宝されているが、そもそもオアシスは見つけることさえ困難だし、あったとしても国の管轄だ。盗賊はもちろん、身分を証明できるものがないお前たちも水を手に入れるだけでも難しいだろう」


 う~ん、とマスターは渋い顔で埋没した記憶を掘り起こすことに専念する。数秒でぱっと顔が明るくなり「あーそういえば」と口で漏らす。


「思い出した、思い出した。あんた『ファンタジー』とか言ってあたしのことをバカにしていたわね。いいじゃない、あたしにとってはまさにファンタジーなんだから」


 人に注意されたことをすぐ忘れ下等に限って己の誹謗中傷を覚えている。マスターもその部類の人間のようだ。

 エンカも俺と近しいことを思ったのか、はたまたマスターの勘違い振り呆れたのか、深いため息を吐く。彼女も本調子ならば、ここで怒ったり小ばかにしたりしていただろう。生憎、リバース間一髪ゲームで楽しんだばかり。 


 一時の休息を得たとはいえ、調子が悪いのは言わずもがな。人が良いのだろう、エンカは覇気のない声で親切に説明してくれた。


「この世界はお前が思うファンタジーな世界ではないと言ったまでだ。そもそも、お前は異世界とファンタジーを同じ意味で捉えている節がある。お前たちの世界について簡潔に説明してもらった私でさえ、その認識は間違いだと気づくよ」

「エンカ、貴様の言った通りだ。マスターは少々、というか、かなり短絡的なところがある。そこを持ち前の前向きさと豪快さでカバーしてきたが、さすがに世界と設定の違いぐらいは分かって貰いたいものだ」

「どう違うのよ」


 気まずそうに、だけれども嚙みつきそうな勢いで俺に尋ねる。

 間違えては、マスターの怒りが再燃するだろうが、もちろんそのようなヘマはしない。なにせ、基本常識だからな。


「世界というのは、そのままの意味だ。いい側面も悪い側面もグレーでよく判らない側面も丸っとくるんだものが世界だ。設定とは、物語が進行するうえで主人公や世界観の背景となるもので、物語を魅力的にするために後付けされたものだ。

 この二つの違いは、卵が先か鶏が先かの違いだが、人が手を加える前か後ではかなりの違いが生まれる。それこそ、まさに異世界だといえるだろう」


 我ながら上手く説明できたと思うのだが、マスターは不思議そうな顔をしている。


「……つまり、この世界はファンタジーといっても少しダークが入っているということだ」

「なるほど、ダークファンタジーと来たのね。あたしがダンジョンマスターとして召喚されてしまったのも、これで頷けるわ」


 正当な評価に基づく結果だ。世界は彼女を勇者と認定するほど窮地に陥ってはいないらしい。なぜか、奇跡的な何かに救われた気がするのだが気のせいだろうか。


 今なら宇宙宝くじを買って一等を当てられそうな気がする。


 だが、本人がこの異世界が甘い(ファンタジー)だけではなく苦味(ダークサイド)もあることと理解しただけ前進としよう。これでマスターも少しは危機管理が持てるだろう。


 無駄な労力を果たすはめになった肩透かし感が否めない俺とマスターの会話に何かを感じたのか、エンカが疑問を口にする。


「お前らの事情を聞いたときは、ソーダよりもナキの方がその手のことに詳しいと思ってたんだが、どうやら違うらしいな」

「マスターはUUOでは序章プロローグやストーリー内の会話などスキップする癖がある。あの調子では、イベントクエストを消化しているときも、何のイベントをしているのか本人も判っていないときもあっただろう」


 UUOの世界感が余りに広く深いところ、そしてイベントクエスト一つでも綿密でスペクタクルなストーリーが創られていることもその要因だろう。そして、そのイベントクエストは二週間の期間限定が多い。プレイヤーの多くはその『期間限定』という言葉には弱いらしく、マスターも期間限定の特別武装やアイテムなどを手に入れることに燃えていた。


 多くのプレイヤーは、ストーリーを読まず、とりあえずイベントクエストをクリアして、追加で登場するレアな武装やアイテム報酬がある追加クエストを軒並み遂行する。落ち着いた頃にストーリーを読もうとしていただろう。

 

 だが、多くのプレイヤーは読む前に次のイベントクエストが始まるので、結局ストーリーは見ずに貯めこんでしまう。そして、ストーリーを読まずまた貯めこむ。


 こうしてイベントクエストの幕間ストーリーは死蔵されていくのだ。


「それは楽しいのか?」

「俺にも判らんが、熱中していることだけは確かだ。そこに意味を求めることは無粋だと考えるようにしている」

「…熱中というよりも中毒じゃないのか、それ。自分でも無駄だと思っているけど、なんだかやってしまうような。義務感かなんだか知らないけど、ストレスが溜まっちゃお終いだね。」


 言うな、エンカ。現実リアル楽しいことは決して楽なことではないのだ。苦労して手に入れるものこそ価値が高いことがある。

 ……俺はそう思うようにしている。でなければ、数多の星で体験してきた阿鼻叫喚の地獄が泡のように弾けて虚無になりそうで怖いのだ。


「大丈夫かい、目が泳いでいるよ」


 彼女は何を言っているのだろうか。この俺は地獄のようなギャラクシートラベルツワーに参加し生き残って猛者だぞ。精神力に至っては、もはや一惑星を担う神をも超えている。


「…足も震えていないかい?」


 ……だが、エンカの心配を考慮する意味でも悪い想像は止めておこう。人間の中には嘘をついていも表情に出てしまう者もいるらしいからな。

 無論、俺は違うが。


「そういえば、エンカよ。貴様はマスターにこの世界のダークサイドを語るとき、この砂漠に国があるとと言っていたな」


 砂漠だから人なぞ住めぬと思っていたが、まさか国があるとは。

 エンカは俺の言葉に「ダークサイドじゃなく、常識を言ったんだよ」と口を開く。


「ここから20テル離れたところにある獣口4千人の小国だよ。国と名乗ってはいるが、元は戦争で敗戦した貴族たちが逃げた先の村や集落を乗っ取って国王を名乗っているだけさ」


 20テルやら獣口と聞きなれない言葉がエンカの口から聞こえた。テルというのは何かを距離や長さを測るとき使う単位ということは判るが、獣口とはどういう意味だ?


「獣口って何よ?」


 マスターも俺と同じ疑問を口に出す。エンカは頭を捻りながら、


「獣口っていうのは、獣人、エルフ、土弄理つちいじり、ヒトケモノ、カイオニア、人間といった国や町に住む人型の生物のだいたいの数のことだよ。私も全種族を網羅しているわけじゃないけど、多いのがこの6種だね。

 ……種族のことも説明しないといけなさそうだね」


 マスターの疑問を浮かべる顔にエンカは「まあ、いいか!」と明るく答えた。こちらの事情を知っているとはいえ、優しい人に出会ったものだ。


 盗賊でなければ人格者なのだが。


「獣人ていうのは知識を持った動物と思って構わない。とはいえ、礼儀を持って接しなければならないよ。あいつら獣人の雄は見下されるのが最も嫌っている気がある。きっと良いお嫁さんをゲットするために毛並みや牙の大きさでアプローチする文化から来ているものだろうね」

「そこは動物と変らないのね」

「理性より本能に従う系だからね。人間にも似たような奴もいるけど、戦闘狂ばっかりさ」


 マスターの言葉に頷き、エルフの説明に入る。


「次にエルフだ。エルフっていうのは、深い森の中で集落を創る種族だ。中にはエルフの上位互換であるハイエルフもいて、そいつはエルフのための王国を建立しているという噂がある。あと、寿命がやたら長いのが特徴だな。ほぼ不死と言われている。

 ただ、その生活と不死性から根暗種族(ボッチ―)と揶揄されている。…リッチーとボッチがかかっているわけね」


 エンカは恥ずかしそうに言った。どこの誰が考えたのか知らないが酷いネーミングセンスだ、参考にしよう。

 それにしても、思ったよりもエルフの評価は低いようだ。UUOでは神秘性のある種族として様々なイベントに登場していたが、オヤジギャグにまで下落するとは。


「あたしの知っているエルフとはちょっと違うかも。ねえ、そのエルフって美形だったり耳が長かったりする?」

 

 親近感シンパシーからか、ボッチで引きこもりのマスターはエルフのことが気になったようだ。

 

「ああ。人間よりも耳は少し長いし美形寄りも多い。でも、それ以上にあいつらは頭が悪いんだ。魔法や植物に関しては滅法強いんだが、外の常識に関してはヒヨッコのままさ。学習能力がないというよりも、魔法による遺伝子レベルで集落の常識を植え付けられている弊害だろうね。だから、他種族と恋してもバカが露呈してすぐに別れるっていうケースが多い。

 魔法っていうのは無意識に発動している場合もあるから、ほんと怖いものだね」


 ギャップショックのことか。今思えばイベントのエルフも所作の一つ一つが神々しかったが、少し爺臭い言い回しが多かったな。訊いたマスターも苦い顔を示す。


「土弄理は洞穴や洞口、土の下に空間を造って住処を形成する種族だ。人間よりも背が低く小柄だが、手先が器用で想像力も豊かなものだから、色々なものを作る。茶色の肌が特徴なんだが、あいつらは日光が苦手で、外に出るときは日射を防ぐ黒いローブを着ている。絵本に出てきそうな、いかにも魔術師の恰好をしている奴らが実は土弄理っていうのも珍しくないね」


 俺はドワーフのような種族なのかと思ったが、物づくりに先天していることは共通しているらしいが、相違点が以外と多い。マスターも予想が外れたらしく「ヤバい宗教みたいですね」と驚いている。


「今はまだマシさ。昔なんか動物の骨や皮を使った服を着用していたみたいだし。昔の名残でアンデッドモンスターとビーストをかけてアンビーと呼ばれているが、当の土弄理たちは可愛い名称だと喜んでいるそうだ。自らの種族名を土弄理からアンビーに変えた集落もいるらしいね」

「……そうね。確かに可愛いくなくないわね」


 頷きながらマスターは同意する。しかし、名前の由来と名称にギャップがあるような気がするのだが、そこはギャップ萌えなのか。


「ヒトケモノはご種族の中で最も義理や信仰心、戦士としての矜持や格を大切にしている種族だね。外見は人間と近しいところがあるけど、その心情によって一人一人異なるらしい。なんでも、ヒトケモノ特融の力『エイチ』の影響らしく、その者にふさわしい力と姿を授けるらしいよ」


 今までの二種族と比べ随分と殊勝な種族が出てきたのもだ。てっきりどいつもこいつも一癖ある種族ばかりだと思っていたが。


「ケモノという言葉が入っている割には、なんとも誇り高き種族らしいではないか。人間よりも人間が出来ている」


 俺の言葉にマスターも頷く。しかし、エンカは苦笑いをしながら「確かにあいつらは人間が求めるべき理想像の体現者だと述べる人もいる」と続ける。


「けど、あいつらは自らを成果・勲章を個人として誇ることがあっても種族として誇ることはなかった。種族として清廉すぎるが故に、その行いは誇りではなく驕りだと考え、自らを貶め恥じる傲慢な行いだと考えた。過剰すぎる評価は自らを堕落させる引き金になりかねないことを知っていたんだろうね。

 ヒトケモノっていう種族名もそれが原因で自ら名乗るようになったと言われている。まあ、周囲の評価は以前高くて、群なす人でありながら個というケモノと貫く種族だと褒め称える人も少なくないよ」


 エンカの説明にマスターは顔を布団に埋めるばかりだ。人として最底辺に君臨するうえに称号まで与えられたマスターだ。ヒトケモノの清廉さに相当答える何かがあったのだろう。


「ヒトケモノの『エイチ』という力はなんだ? 魔法ではないのか?」

「ヒトケモノの中には魔法を得意とする奴もいるらしいけど、どうも毛色が違うらしいんだ。独創的というか奔放的というか、それも『エイチ』が関係しているらしい。

 それで、その『エイチ』なんだけど、色々な解釈があるらしいね。歴史家の多くが叡智の意味で受け取っているらしいけど、どうなんだか。ヒトケモノ本人に聞いても各々の意見しか返ってこないしね。ただ、魔法とかじゃないことは確かだよ」


 悶えるマスターを他所に話は続いていく。


「青き海と鉄の恩恵を受けた青銅人、カイオニア。青銅のような体をしていて武術を得意としている。あいつらは6種族の中でもダントツに人離れしているね。まさに、意思の宿った甲冑騎士そのものだ。見た目は怖いかもしれないけど、人に優しい気のいい種族さ。

 恰好だけに、甲冑を着ている人間と見間違えたりする人も昔はけっこういただろうね」


 エンカは笑いながらカイオニアについて話す。


「今はそうでもないのか?」

「青銅色の甲冑がカイオニアだと周知されているからね。あと、話せば一発で判るよ。肩ぐるしい騎士と違って、話しやすい奴らさ。ホント、見た目の硬さと中身の柔らかさが全然違うね」


 カイオニアという種族が好きなのか、エンカはべた褒めしているな。

 マスターは「青銅色の甲冑人間、……カッコいい!」と目を輝かせている。


「最後に人間だが。……これは説明するまでもないよね」

「そうね……」


 俺は人間なのかいまいち微妙な判定だが、人間ついては理解しているつもりだ。当の人間であるマスターはエンカに同意を口にしているものの、同じ人間として少し気になるようだ。


「まあ、ここまで来たのだ。最後まで話してみるのだ。もしかすると、認識に違いがあるかもしれん」

「……そうだね、判ったよ

 この世界の人間は他のご種族のように先天的に何かを得意としているわけでも苦手としているわけでもない、特徴がないのが特徴の種族だね。ただ生まれや成長過程によっては稀有な力を持つ人間も生まれることが多く、最も伸びしろが高い種族だと言われているよ」


 エンカの言葉にマスターが質問する。


「生まれって言うのは?」

「偶に人の十倍を魔力量を持ったり、天性の才能を持っていたり、そういう人が他の種族よりも多く発見されているんだ。まあ、他の種族から見たら、元々がひ弱だから少し強いだけで盛り上がっているだけなんだろうけどね」


 この異世界の人間はひ弱なものだと俺は思ったが、それは早計だった。

 エンカは異世界の人間いついてこう締めくくったからだ。


「それでも、偶に化け物レベルの鬼才が出てくるから他種族も人間を侮らない。過去の戦争歴で痛いほど辛苦を舐めてきたからね」


 ――――それこそ、1000倍の魔力保有者とかね。

1月22日の東京の雪が凄かったですね。ニュースでも話題となりました。来ますね、寒波。

また、雪かきイベントが始まります。軽く運動するつもりで頑張りましょう。

次話ですが、なるだけ早く投稿するつもりです。

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