02 残高2pt
修正しました。
文章に穴や脈絡がつながっていないところがありましたが、これで大丈夫です!!
ストレッチを行い、気合を入れるために両の頬に力強く。
少女の目には希望というには生温い、打破と定義するに相応しい目をしている。
体全身、バネをイメージし少女は腹の底から声を挙げる。
「タンケラ・トンタカ・ナンターラー!」
マスターこと姫路ナキの謎の叫び声がダンジョンの奥室であるダンジョンマスターの部屋に響く。そのおかしな挙動にダンジョンの心臓である紫色の直径4メートルのダンジョンコアはもちろん微動だにしない。
その後、似たような言葉を叫びながら、体を柔軟に動かす。彼女は日本人の学生だと聞いていたが、その奇行は、熱帯林に住まう民族の舞踊のようだった。
「どうした。狂ったか」
「狂ってないわい! ダンジョンマスターらしく魔物を召喚しようとしただけよ!」
居た堪れない空気に俺はダンジョンマスターこと姫路ナキに声をかけてしまう。赤い顔で即座に返答する彼女に俺は呆れた顔を隠せない。
「何よ、その顔!」
「この現状に嘆いているのだ」
何故、マスターが己の所有物であるダンジョンコアに拝んでいるのか。
異世界に召喚されたその日、俺とマスターは話し合いの結果、今日一日は休むことにした。なんでも、マスターは三徹らしく、このままでは睡眠不足で倒れてしまうという。
そして翌日。俺が起床時刻にマスターの私室を訪れたことが事の始まりだ。その部屋はパソコンやフィギュア、ポスターといった俗物に塗れた部屋だった。元の世界での彼女の怠惰な私生活が目に見える。
どこから持ってきたのか、日本製の布団にぐっすり寝ていたマスターを叩き起こし、私室をどのようにして魔改造したのか詰問した。
肉体も精神もモヤシである彼女を問い詰めるには時間がかからなかった。
ダンジョンマスターは生まれたとき、1000pt与えられる。そのポイントを使いダンジョン構築や魔物を召喚し、冒険者を出迎えるのだが、このマスターはそのポイントをまず、自分の私室の復活に費やしたのだ。
「このポンコツマスターが! 俺がちょっと外の様子を見に行く合間に、ポイントを使い切るなど! 残り、2ptだぞ、黒パン一つも買えんわ!」
「はああー! 何を取っても憩いの場を取るに決まっているでしょう。ただでさえ、異世界に敵役として召喚されて荒んだ環境に陥ったのに、この可哀想な私に精神の安らぎさえ許されないの! この鬼畜!」
「鬼畜で結構! ポンコツよりまだマシだ。大体、お前は危機感が足りないのだ。異世界において人類の敵であり世界の害悪が、まさかの散財! 世界を救う勇者に討伐依頼出したくなるわ!」
「ハアアアアアアーーーーー! 討伐って、あたし魔物判定かい!」
「魔物よりも質が悪いだろうが!」
いかん、コイツのバカさ加減に乗せられてしまった。一度冷静にせねば。
俺は息を大きく吐き頭を落ち着かせる。
「いや、謝ろう。魔物に不敬だった。喜べ、お前は世界に波風立たぬ、ただのクソニートだ」
「クソって言われて喜ぶ人いると思って!」
ニートは否定しないのだな。
「はいはい、判りましたよ。超判りました。今すぐポイントを貯めればいいんでしょう! それで! ポイントってどう貯めるの?」
「ダンジョンに入る冒険者を討伐すれば、その難易度に応じたポイントが入る」
「討伐する魔物がいないのにできるわけないじゃない! なんのための魔物召喚なの!」
「だ・か・ら! お前がそのポイントを使い切ったのだ! さっさとクーリング・オフをしろ。今ならまだ間に合うはずだ」
ダメなダンジョンマスターにも救済措置があるのだから、良い世の中になったものだ。
散々言ってしまったが、人とは失敗を重ねて成長していく。そう思えば、この失敗はまだ取り返しが効くのだから、運が良かったほうなのだろう。
しかし、このマスターは俺の安直な考えの斜め上を通過していった。
「嫌よ」
「……なんだと?」
一瞬耳を疑ったが、マスターが真剣な目で見つめる。
「嫌よ。一度失敗したからといってクーリング・オフに頼ることはしないわ。それが、あたしのオタク道なの。
例え、間違いだったとしても一度手に取ってしまったあたしは愛を与えてしまうの。愛の詰まったそれは、パチモンだろうと光輝く愛の結晶。苦くも笑いのタネとなるかけがえのない、大切な思い出の一つの形なの。
それを手放すなんて、愚行も極まる行いよ!」
……何かを熱弁しているらしいが、内容が全く頭に入ってこない。ハテ、頭が旧式の電子プラグを長時間使ってしまった末路のように、ショートでもしまったのだろうか。
馬鹿と会話しておかしくなったのではないかと、俺が呆然としている間、マスターの暴走主義は止まることを知らず、そのまま走行スピードを上げていった。
「大丈夫、安心して! 魔物を召喚するにはポイント制とは別に素材召喚がある。それを使えばポイントなしで魔物を召喚することができるわ!」
どうしてそんなことを知っているのだ。
いや、ダンジョンマスターとして必要な知識をメニューから閲覧できることは知っているが。どうして、それを知っているのに、ポイントをほぼ消費する事態に陥ったのだ。そして、何を根拠に安心しろと言っているのだ。
これまでの顛末で、一体なにを? まさか、この上の大惨事があるというのか!?
などなど、俺は言葉に出てしまいそうな口を半ば強引に抑えた。
冷静に、冷静に。そうだ、ポジティブにいこう。
疑問と不安が尽きないのだが、せっかくダンジョンマスターとして積極的に行動を始めようとしているのだ。ここで変に止めては無粋だろう。
事故する前に暴走を止めればいい。そう自分に言い聞かせて、俺はマスターの意向を尊重することにした。
「さて、行こうぜ。……ごめん、名前なんだっけ?」
「名前などない、NPCだからな。」
「あ、そっか。でも、それだと不便でしょ。主に呼ぶ側が」
マスターは頭を悩ますようにして、「そうだ!」と何かを閃いたように言う。
「そーだ、でどうでしょう」
「何がだ?」
また、とち狂ったの手はなかろうな、と俺が訝しげに見ていると、マスターが笑って否定する。
「操舵手だから『ソーダ』。これがバッチリ! うん、決まりね!」
「安易だが……。まあ、変に難しい名前よりもマシか」
てっきり、厨二臭く長ったらしい名前だと思っていたので、むしろ安心した方だ。
後日、ソーダという炭酸ジュースと名前が丸被りなことに気が付き、それがきっかけで大事件の引き金となるのだが、それはまたの話し。
◇ ◇ ◇
俺とマスターは魔物を召喚するための素材を探すため、一度ダンジョンから外へと出た。外は相変わらす太陽がギラギラとしており、砂漠の熱を高めている。ジリジリとする熱さは正直辛い。
「暑いわねー。どうしてこんな辺鄙なところで召喚されたのかしら」
「知らんが、マスターにとっては良かったのではないか。下手に都市部に近いところでは、すぐに冒険者に見つかってしまうだろうな」
「それでも、この暑さはニートには辛いわ」
マスターは汗を流しながら愚痴を溢す。ダンジョンは異空間の一種であるため、外の環境を影響を一切受けない。ダンジョン内で暮らす分には砂漠という立地条件は良かったかもしれないが、外で活動するとなると話が違う。
容赦の知らない太陽光と、それに加熱された空気という劣悪な環境は人の体に堪える。特に、小さな部屋で一日を過ごすニートには辛いものだろう。
「それで? 魔物の召喚用の素材って、どんなやつなの?」
マスターが手を団扇のように顔を仰ぎながら疑問を吐く。
「マンドレイクとか魔怪獣の心臓だと思うのだが?」
「どれも薬用のアイテムじゃない。それもUUOの。この世界でもゲームの常識が通じるの?」
「UUO? ……ああ、<ユニバース・ウルトラ・オンライン>の頭文字を取ったものか。現実世界でそう言われていたのか」
俺は自らが住まう世界を<ユニバース・ウルトラ・オンライン>と呼ばれていることをプレイヤーたちの会話から聞いたことがあったが、UUOを呼ばれていることは知らなかった。改めてマスターと俺の住む世界が違うと認識した気がした。
しかし、マスターの次の発言により、センチメンタルに陥った俺の心情が一気に吹き飛んだ
「違うわよ。ただ、あたしがそう読むことにしただけよ。現実じゃ似たような名前のMMOばかりあって、安易な略称じゃどのゲームか判らないものだったわ。でも、<ユニバース・ウルトラ・オンライン>て一々言うのも面倒だし、あんたに伝わるならUUOでいいかなって」
テキトーか。
俺は無言のまま、マスターの顔面を足蹴にした。「ぐはっ」と面白いように仰け反っていくマスターを侮蔑して鼻で笑う。
ふん、無様だ。昔ながらのギャグ漫画にありそうな倒れ方だけは褒めといてやろう。
「危ないぞ、マスター!」
「あんたが一番危ないわ! なに唐突に蹴り飛ばすの、地面が砂で良かったもののコンクリだったら顔面強打なんだからね!」
当然の如く怒る。だが、俺も言いたいことがあるが、それをコイツに言ってもどうしようもない。というか、勝手に俺が怒り出したようなもので悪いのは俺なのだが、素直に怒られたくもない。
「何を言っている。今俺がマスターの顔面を蹴り飛ばさなければ、通りすがりの盗賊一味の魔術的攻撃が直撃して死んでいたぞ」
「嘘つけ! 山や森ならともかく、こんな砂漠に盗賊どことか人さえいるか!」
チュドン!
横垂直に走ったプラズマテェックな何かは、マスターの言葉を否定するが如く、爆撃は轟音を響かせ大きな砂丘の一つを吹き飛ばした。
ザーと砂が流れていく音ともに、サーと冷や汗が出ている気がする。
マスターが何かに気が付いたのか、顔を青くして何かを言っている。しかし、相当テンパっているのか、声が聞こえない。
俺はマスターにもう一度言葉を促しながら、口の動きに注視する。
ゴ・メ・ン・フ・ラ・グ・タ・テ・タ。
要約――――ごめん、フラグ立てた。
プレイヤーたちの会話を何度か盗み聞きしていた俺には、その言葉を意味するのは容易だった。
『ヒャッハーー! あそこに良いカモがいるぜーー!』
『いいとこのお坊ちゃんとお嬢ちゃんだ! せいぜい楽しませてもらおうぜー!』
砂上を駆けるスケボーを巧みに操る謎のゴーグル集団が世紀末の言葉をあげながら、近未来的な光線銃を放ってくる。彼らは強い日光を遮るためなのか、厚い皮で造られた服で体をすっぽりと覆い隠しており、その風貌・振舞いは、まさに砂漠の盗賊だ。
「なになに、どこからどこから?」
「あの方角からだ。数は8人のようだ」
「ちっさ! あの点みたいなの良く見えるね。あ、操舵手の能力のおかげね」
スキル『星夜目』。宇宙空間という漆黒の世界から目的地である星を見つけるスキル。このスキルは視力上昇の『鷹の目』と猫の視力の得る『夜目』の二つの特性を持ったスキルであるため、盗賊たちの口の動きまで読むことができた。
「ソーダが遠視できることは判るけど、あいつらはどうして?」
少々激しいバックサウンドのなか、マスターは俺に質問する。
「いくら遠くとはいえ、何もない砂漠に動くものがあれば一目で分かるだろう。それに、あいつらのゴーグルには望遠鏡のような役割を果たしているのかもしれない。先ほどの的中率から俺のスキルの方が上だと思うが、距離を詰められれば当たるだろうな」
奴隷にするため、あえて当てないようにしているという考え方もできるのだが、口にはしなかった。このニートが社畜も真っ青な奴隷になるかもしれないと言われて、テンパることは目に見えているからだ。
現実感がないのか、どこかのんびりしたマスターの顔を一目みる。
「無理だな」
「…………?」
脈絡のない言葉にマスターは首を傾げる。
徐々に距離も近くなり、比例するように射撃命中率も上がる。こちらに向ける光線銃の銃口の光が強まっていく。どうやら、エネルギーの充電が終わったようだ。
俺はマスターの襟を掴み、近くの砂丘の影に隠れる。
「うきゃ!」
マスターの小さな悲鳴は光線銃の着弾音により、かき消された。壁になっていた砂丘も吹き飛んでしまい、今は爆風による砂塵のおかげで姿を隠せているが、いずれ盗賊どもから姿を晒してしまう。
スキルの恩恵により、盗賊の光線銃に光が集束するのが見える。もう一度、光線銃が光を放てば身を隠せる遮蔽物がなくては直撃するかもしれない。
爆風による砂塵が舞っている間に、俺はその場の離脱を図る。砂が目と口に入ったようで「ぶわああああああー!」と苦しみながら、俺に水を差す。
「なになに! どうするの?」
「マスター、これから砂丘のなかに潜伏する」
「え。闘わないの?」
マスターは意外そうに呟く。何かを期待していたらしいが、悠長な人である。いや、大物といったほうがいいのかもしれないと、忘れていたポジティブ思考でマスターの疑問に答える。
「ひよっこダンジョンマスターとその宇宙船のない操舵手が闘えるわけないだろう。そもそも、この世界がどのような方式で成り立っているかも判らない。魔法さえ存在していないかもしれない」
「いやいやいや! あいつらのあれ、魔法じゃないの!?」
「うむ。一切の魔力を感じない。もしかしたら、科学的なものかもしれんな」
俺の言葉にマスターは「魔法ないの!?」と驚きの声を挙げる。
「どういうことよ! 魔法のない異世界なんて、異世界じゃないわ!」
「どこまで異世界に期待しているのだ、貴様は! 偏見も甚だしいわ!」
「夢ぐらい見させてよ! まだプロローグなのよ、物語の序盤で夢を壊すなんてむごすぎるわ! 生殺しよ、殺生よ! 極刑獄門レベルよ!」
「ええい、うっとおしい! 服掴まんと早よ隠れんかあー!!!」
走りながら質の悪いクレーマーを砂丘目掛けて投げ飛ばす。その勢いは素晴らしく、時速50メートルという低空飛行のまま砂丘へと埋没する。
「なるほど。どうやら、ステータスはUUOのデータをそのまま反映さてれいるようだ」
手の感触を確かめながら呟く。先ほどもスキルを発動することができたし、意外とこの異世界でもUUOの力が通じるのではないか。俺はスキル『隠遁』を発動させ、背景に溶け込む。
スキル『隠遁』は主に忍者が暗殺や潜入の際に使うスキルなのだが、操舵手である俺は宇宙空間において生体型惑星へ着陸するために身に付けたスキルである。イソギンチャクと酷似した性質を持つ惑星に第三者が着陸するためには、この系統のスキルは必須である。
僅かに響ていたスケボーの駆動音が徐々に大きくなっている。スキル『星夜目』を使わなくても彼らが近づいていることがはっきり判る。
「念のためだ。俺も隠れるか」
俺は砂丘の影で盗賊の動向を伺くことにする。
さて、どう動くのだろう。
「おい、出てきたらどうだい!」
盗賊のうち4人がスケボーから降りる。少女だろうか、その中で背の低い盗賊が男とは思えぬ高い声で叫ぶ。しかし、誰も答えない。俺はスキル『隠遁』と使っているし、マスターは砂丘の中に潜伏している。見つけようにも手がかりがない。
盗賊たちが俺たちを見つけるのを諦めて、どこかへ消えるのがベスト。異世界のルールも法則も判らない現状、異界人との接触は避けた方が良い。せめて、ダンジョンマスターが自らの能力を把握して欲しいのだが。
そんな俺の淡い願望はすぐに打ち壊される。
少女は沈黙の回答に舌打ちをし、「おい、あの砂丘を吹き飛ばせ」と他の盗賊に命令を出す。盗賊たちの中で一番若いと思っていたが、意外にもあの少女が盗賊のリーダー格のようだ。
命令を受けた三人の盗賊は砂丘を囲み光線銃を放射する。三方向からの爆撃に砂丘は一瞬で吹き飛ぶ。勢いのある爆風が起こるが、盗賊たちは慣れているのか怯みもしない。少女も微動だにせず、砂塵の奥を注視している。
「ドサッ!」と砂塵が舞う中、空から黒い物体が落ちていった。落下音からかなりの重量であることが判る。地面が砂でなければ落下物は大ダメージだろう。
「エンカ。こいつ、気絶してるぜ」
盗賊の一人が黒い物体を拾い上げ、少女へ見せる。黒い物体は人間のようで、開けた口から砂を吐き出す姿はなんともみっともない。
というか、マスターだ。
過度な接触どころか、これでは人質ではないか。助ける方の身にもなって欲しい。
……助けないとダメなのだろうか。
俺が少し邪な考えをしているなか、エンカと呼ばれた金髪の少女はゴーグルを外し、マスターの瞼に指をつけ、瞳孔を確認する。どこか呆れた様子で、後方のスケボーに乗ったままの盗賊に言う。
「……返事が出来ないわけだ。おい、もう一人いただろう。そいつはどこだい?」
「探してんだが、さっきから見つからねえんだ。発見した時には確かに二人いたんだが。ひょっとして、そのガキは召喚者じゃねえのか」
「そうかしれないね。だが、後でそいつが召喚者じゃなかったら儲けそこないだ。念のため、もうしばらく探そう。その間にこの娘も起きるでしょ」
エンカの言葉に盗賊たちが動き出す。ゴーグルをつけた男達が様々な方向へ顔を向ける様は、大自然の惑星へ奪略行為を行う闇ギルドを連想させる。
(どういう仕組みは知らないが、奴らのゴーグルは俺を探知することはできないようだ)
ならば奇襲に失敗することもないな。奴らがわざと演技している可能性なくはないが、それよりも先にマスターが目を覚まし俺のスキルをバラしてしまう危険性が高い。あの女は拷問器具を見た瞬間に容易くゲロる(警察の言葉で罪を認め全てを話すという意味)ほどメンタルが弱い。ひょっとしたら空腹の末、食いもの一つで釣られるかもしれない。
(未知の兵器を持っている以上、反撃を撃たせるわけにはいかない。仕留めるのならば、一瞬だな)
幸い、スキル『隠遁』はこちらから攻撃に移るまでは解除されない。俺はスキル『異次元浅瀬海』を発動の準備をしながら、射程距離を取る。
ガシャン!!
およそ射程距離まで到着したことを目測で確認し、スキル『異次元浅瀬海』の発動により、砂から水色の輝きを放つ四十メートルほどの巨大砲台が数台顕わとなった。
「なんだい!? あれは!」
「おい、今変な駆動音が――――」
ガコンと砲弾が装填し、すぐさまに火を噴いた。
盗賊たちの驚きの声は砲台が放つ砲撃によりかき消される。ズドンと腹の底から響いてくるような重みのある発射音は、その威力ももちろん光線銃の比ではない。上部に巻き上げられる爆発はさながら炎の竜巻。鮮やかな黄色とオレンジ色のコントラストは砂漠の空に色映えた。
スキル『異次元浅瀬海』。惑星の海や湖、またマグマの中まで探索するため中型・小型の船を異次元から取り出すことができる。このスキルの使い勝手の良いところは船の一部分を異次元から取り出し遠隔操作できることだ。これにより、船の砲台やキャノン砲、レーザー放射台などを至近距離で敵へぶち込むことができる。
あの盗賊たちのように。
「……対宇宙怪獣用の砲台を使ったのは間違いだったな」
だが、それは理論上の話しであり、あまりに近距離であるとその爆発に巻き込まれる危険性がある。そのため、武器によって一定以上の距離を取らなければならない。
巻き上げられる黒い点を遠くから眺めながら、俺は異世界での初めての戦いを勝利に納められたことに安堵した。
PS
ダンジョンマスターは死んでいないんので安心してください。