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面倒な娘

「だいぶ時間がかかっちゃったな」



 あれからしばらく空を飛び回り、次なる依頼のターゲットである『サンドリザード』を見つけては狩るを繰り返していたんだけど思いのほか手間取ってしまった。


 目標であるサンドリザードは土の中に潜って獲物に近づき襲い掛かるトカゲ型の魔物だ。

 獲物を狩る以外に地面の外に顔を出すことは無いため見つけるのは極めて困難。


 俺の場合は魔力探知である程度の場所は把握できたからある意味では楽だったんだけど、先のリーフウルフみたいに群れで行動しないからな。


 一匹ずつ倒していかなければならない羽目になったよ。



「流石にここら一帯を消し飛ばすわけにもいかなかったからな。本当に面倒な相手だなっと」



 掛け声と共に狩ったばかりのサンドリザードを担ぐ。

 リーフウルフと一緒に運ばなければならないからちょっと動きづらいが、まぁ問題は無いだろう。


 ちなみに他の個体は全部消し炭だ。

 残すだけ無駄だからな。



「さてと、もう良い時間だし一度ギルドに戻るか。残りの『ダブルヘッドグリフォン』は午後からということで」



 太陽がちょうど真上で輝く時間帯。

 正午を迎えた俺のお腹は、空きもしないのに鳴っている。


 これも人間として再び人間社会で行き始めたが故のことなんだろうな。

 正直、空腹よりも懐かしさを感じる。



「え~と、ヴォルトゥマは向こうの方角だったよな」



 微かに感じるアガレスの魔力を頼りに、俺は翼を生やして空を飛ぶ。


 本当のところは死骸なんか確保せずに口だけの説明で済ませたいところだが、やっぱり魔物に対しての恐怖を持ってるぶん安心させる要素が必要なんだ。


 だからこその証拠品である死骸。

 凄く腕が疲れてくるが、この際だから我慢しよう。


 そんな風に二つの動かなくなった元生き物を手にヴォルトゥマ近くの平原まで戻って来た俺。

 あとは徒歩でも行ける距離だからと地面に降り立ち、二つの魔物を肩に担いだ状態で街に入ろうとしたんだが



「すまない、ちょっと止まってもらえるか?」


「ん? アンタは昨日の門番さんじゃないか。俺に何か用か?」



 俺の前に立ちふさがったのは、昨日も同じように俺とアガレスの行く手を阻んだ門番。

 今回の場合は素性も知れてるから視線も柔らかいものではあるが、表情は苦笑だ。



「君は確かギルドの冒険者になったんだよな?」


「あぁ。今回は魔物討伐で外に行っててさ。コレが討伐した魔物の証拠」


「見ればわかる」



 額に手を添えて深いため息を吐いた門番は、「ちょっと待ってろ」と短く告げてその場を離れた。

 そして、小走りに戻って来た彼が手にしていたのは巨大な袋。



「何だ、ソレ?」


「その証拠品なんだが、この袋に入れて持ち入れてもらえないだろうか。何かと目立つだろうし、街の住民に恐怖を与えるのも悪いんでな」


「あぁ、そうか。ごめん、配慮が足らなかったよ」



 俺としては魔物なんて見慣れた化け物ではあるけれど、人間からすれば珍しいものであると同時に恐怖の対象でもあるんだ。


 たとえ死んでいたとしても視界に入れるのは不快感を覚えさせてしまうだけだろう。

 そうじゃ無いにしても、これらは死骸だ。


 子供達の視界に入れていいものではない。



「分かってくれたなら助かる」



 受け取った袋に二つの死骸を詰めて、俺は今度こそ街の中に入って行った。


 今日も平和な街の中を大きな袋を担いでギルドまで歩いて行く。


 途中、何度か行きかう無邪気な子供達に「その袋の中身って何?」と可愛らしく質問されたけど、正直に答えるわけにもいかず苦笑して内緒とこたえることしか出来なかった。


 子供達は全員眉をひそめて不満げな表情を浮かべていたけど、これも君達の為なんだ。

 許してくれよ。


 そんな子供達の接触を受けながらもギルドにたどり着いた俺の目に入ったのは、たくさんの冒険者らしき人達の姿。



「朝とは違って結構人が来てるな。二日酔いじゃ無かったのか?」



 だけど、冒険者の中には腹を押さえて気持ち悪そうにしている人もいる。

 きっと、昨日の酒が腹にきてるんだろうな。


 もうしばらく続くと思うが、我慢して仕事に精をだしてほしいものだよ。



「おっ、ちょうどいいところに! おいっ!」


「ん?」



 ギルドの中を見回していたそんな時、俺に近づいてくる人影があった。

 上半身裸なのは相変わらずで、昨日とは違って背中には武器を背負っていない屈強な身体つきの漢。


 見た目のわりには結構フレンドリーなオジサン。

 彼も二日酔いに見舞われているのか顔が真っ青ではあるけど、必死に笑みを作ってやって来てるよ。



「何だよオジサン。随分と気分悪そうな顔してるぞ?」


「昨日飲み過ぎたんでな。ちょっとばかり気分が悪ぃんだ」


「はは、まぁ気をつけろよ」



 近づいてくるなり二人して談笑する。

 昨日の歓迎会のような飲み会である程度は仲良くなったつもりだからな。


 相手も気さくな感じで話していても悪い気分じゃないみたいだし問題ない。



「——それで、俺に何か用か?」


「あぁそうだ。お前朝一番にこのギルドに来て依頼を三つ受けたんだってな? ソレの中に『ダブルヘッドグリフォン』の依頼があっただろ」


「あぁ、これだろ?」



 俺は懐から完遂していない依頼書を取り出す。


 それを目にしたオジサンはため息を吐いて苦笑すると



「悪いが、この依頼は難易度が高いからよ。銅色の冒険者を一人で行かせるわけにはいかないようになってんだ」


「えっ? だけど、受付の娘は受注してくれたぞ?」


「すまねぇな。アイツは最近ここで働き始めた新米受付嬢なんだ。普段であるなら分かるはずなんだが、何しろ朝っぱらだったからな。見逃しちまったんだろ」



 人が生きるか死ぬか左右する依頼を、寝起きだからって見逃す事ってあるんだろうか。

 まぁ、このオジサンには世話になったしとやかく言うつもりは無いけどさ。



「まぁ、そういうことなら分かったよ。つまり、もう一人誰かを誘えば良いわけだな?」


「そういうことになるな。すまん、家の受付嬢が……」


「気にすること無いよ。誰にだって失敗はあるさ」



 俺は気にしていないとばかりに告げてみれば、本当に済まないって再度頭を下げてから去っていくオジサン。

 そして、今朝の受付嬢の所に向かうと、何かしら告げてギルドの奥に姿を消していった。


 昨日の飲み会の時とは違って威厳たっぷりなその姿。

 おそらくは、彼がギルドマスターなんだろう。



「しまったなぁ。名前くらい聞いておくんだった」



 ギルドで冒険者家業をするのなら、属しているギルドのマスターの名前くらいは知っておいた方が良いだろうし今度聞いてみるか。


 そんな風に今後彼に名前を聞くことを心に決めてから、俺は依頼を共に受けてくれそうな冒険者を探し始める。



「——っと言っても、暇そうで尚且つ強そうな奴なんていないな。つーか、みんなパーティー組んでるみたいだし」



 周りを見渡せば、明らかにチームを組んでますよ的な感じで仲間と談笑する方々が目に映る。


 俺としては別に仲間が多かろうが問題ないんだが、仲良く話しているところに割って入るような度胸は持ち合わせてないんだよね。



「まいったな。これじゃあ依頼に行くことも出来ないぞ」



 一人で行くのでも俺は全く構わないが、それじゃあギルドマスターや受付嬢が納得してくれないだろうしな。

 結局のところ、仲間を誰でも良いから一人見つけなければならないわけだ。


 けど、こんな状況でどうやって見つけろと言うんだろう。

 そもそも、俺のような未熟者冒険者と一緒にチーム組んでくれる奴なんていないんじゃないか?


 段々と考え方が悪い方向へと向かって行く。

 もう依頼には行けないのではないか。


 そんな風に思っていたそんな時、俺の服の裾を引っ張られる感覚を覚えた。

 疑問を覚えながら振り返ってみれば、質素な感じの鎧に身を包んだ若い女の子の姿。



「お困りのようですね」


「えっと。まぁ、困ってるは困ってるけど……君は?」



 誰かも分からない女の子に自然な感じで名前を問いかけてみる。


 すると彼女は『よくぞ聞いてくれました』とでも言いたげに自信満々な笑みを浮かべてバックステップし、顔の前に手を添えて何か変なポーズを取ると



「わたしの名はアイリス。勇者ブレイブの子孫にして聖剣ホープリオンに選ばれし者だ!」



 腰の辺りまで伸びた淡い輝きを放つ金髪をなびかせ、凄く印象的な自己紹介を披露するアイリスと言う女の子。


 彼女の鈴のように綺麗な声は聞いていて心地の良いものだけど、声が大きすぎて辺りの注目を集めた気がする。



「さて、わたしは自身の名を明かしました。それでは、次にあなたの名を伺いましょう」


「俺に名を名乗れと!?」


「当たり前でしょう。相手が名を名乗ったら名を返す。常識ではないですか」



 確かに常識ではあるけどさ、注目浴びてる中での自己紹介なんて公開処刑みたいなものじゃないか。


 別に名乗って恥ずかしい名前をしてるわけでは無いけど、仮にも俺は元魔王なんだ。

 目立つ行為は極力避けたいところなんだよ。


 なんて脳内で口に出来ない文句を並べながらも、俺はため息を吐いてアイリスを見据え



「タクマだ。昨日このギルドに入会したばかりの新米冒険者で、アイリスさんのような肩書は持ち合わせていません。以上」


「タクマさん、ですか。ふふ、中々いい名前ではありませんか。この辺りではあまり聞かない奇妙でおかしな感じではありますが、わたしは気に入りましたよ?」


「君は俺のこと馬鹿にしてるのかな?」



 一般的な日本人の名前は異世界に来ると妙な名前と言われることが多い。

 だからこそ、『聞かない名前』程度で言われるのは覚悟してたさ。


 けど、奇妙でおかしな名前とまで言われると流石に腹が立ってくるんだが。



「いえいえ、わたしはただあなたの名前が本当に気に入っただけですよ。他意はありません」


「他意しか感じられない言葉選びだったけどな」


「そう聞こえたなら謝ります。——ところで、本題に戻りますが何に困っていたのですか?」



 さらっと話を変えやがったよ、この娘。

 絡まれると本当に面倒な相手に話しかけられたんじゃないだろうな、俺って。


 まぁ、いいや。

 俺としても早く仲間を見つけて依頼に行かないといけないんだ。

 こんなところで変な娘に構ってる暇はない。



「簡単な話だ。一緒に依頼に行ってくれる仲間を探してたんだけど、他の連中はすでにパーティーを組んでる人が多くてさ。どうにか暇そうな人を探していたとこなんだ」


「なるほど。ふふっ、そういう困りごとなら簡単に解決するではありませんか」



 ニヤリと笑みを浮かべて告げるアイリス。


 この子の中では最善の策が思い浮かべられているのだろうが、俺からしたら厄介事しか生まないような気がしてならないんだけど。


 そんな俺の思いは見事的中したらしく、彼女は自らの親指を立てて自分を指し



「あなたは本当に幸運ですね。このわたし、アイリスがあなたの共をしようではありませんか!」


「パスで」


「なっ!?」



 どれだけ自分のことを過大評価しているのかは分からないが、この娘を連れてけば更なる厄介事が待っている。

 そんな気がしてならない俺は、彼女の提案を即答で却下してやった。


 だって日本でいうところの『厨二病』みたいな感じの女の子だし。


 腰にぶら下げた剣は聖剣と呼ぶにはあまりにも質素な感じで、身に纏ってる鎧も所々をカバーする程度にしかないからほとんど軽装だ。


 それにアイリスが勇者ブレイブの子孫って言うのも怪しい話だ。

 何故なら、俺が消し炭にしてやった奴だからな。



「何故ですかっ!?」


「一言でいうなら、怪しい人物だから」


「怪しい人物って、わたしの何処が怪しいというんですか」


「言動から身なりまで全部。とにかく、俺はもっと別の人を探すから、アンタは他の人を……」



 顔を背けて視線だけど彼女に向けてみれば、瞳に浮かんだ小さな雫。


 整った顔立ちをしている彼女の顔が悲しみに歪んでいき、鼻は真っ赤に染まって今にも泣きだしそうだ。



「おい、泣くほどじゃないだろ」


「な、泣いてなんか、い、いません! 今日、すでに五人にパーティー参加を拒否されたからって、わたしは泣きませんから!」


「今日一日で五人に拒否られたってなぁ。まぁ、分からなくもないけど」



 本音を口にすれば、尚更彼女の顔が悲しみに歪んでいく。


 どうやら本人は必死に堪えているようだが、実際全然感情を隠せていない。

 俺が泣かせたようで気分の悪いことこの上ないが、俺にも俺の事情ってものがある。


 彼女がいくら可哀想だからって、構ってやるわけには



「……おいおい、みんな俺の敵か?」



 目の前の少女を置いて他のメンバー探しに精を出そうとした矢先、辺りから突き刺すような視線を感じて立ち止まる。


 見れば、周りの冒険者。

 主に男から非難の視線が俺目がけて向けられていた。


 確実に俺が被害者なのに、加害者の立場として見られているこの現状。

 打開するには後ろの彼女をパーティーに加えるしかないんだろうけど、凄く気がのらない。



「良いんですか?」


「あぁ?」



 どうするべきかと悩んでいるところに、後ろから悪魔の如き静かなる少女の声が聞こえてくる。


 俺以外の耳に届かないくらいの声量で話しかけてくる声の主は当然アイリス。

 さっきまで本気で泣きそうになっていたのに、今では目元を両手で隠してウソ泣き状態だ。



「このままわたしを置いて去れば、あなたが悪者扱いされるのは確実です。それに、幼気な少女を泣かせた薄情者を仲間に迎え入れるような人もいなくなるでしょう」


「ぐっ!」


「だから、今はわたしを仲間にするのが賢明な判断なのではないでしょうか? 考えてもみてください。勇者の子孫たるわたしのような少女を仲間にすることなど今後一切ないですよ?」



 まるで、自分の長所だけをアピールしてくる面倒な受験生を相手にしてしまった面接官になった気分。


 勇者という部分を強調してくるアイリスだが、そちらが勇者の子孫なら俺はそれらを一瞬で消し飛ばせる魔王なんだけど。


 勇者程度の手練れなんて何千回も相手にしてるし、今更そんな奴が仲間になったところで少しの幸福感も感じない。



「さぁ、どうなのですか? わたしを仲間にしますか、それとも拒否して皆さんの冷たい視線を集めたいですか?」


「ぐぅ、あぁもうっ! 分かった、分かったよっ! お前を連れてってやるから、今すぐその面倒な話し方を止めろ!」


「ふふっ、ご理解いただけて結構です」



 そう言うや否や、ウソ泣きを止めて俺に対して『策成功』とでも言いたげな嫌な笑みを浮かべるアイリス。


 久しぶりに人間にしてやられた気分だが、これ以上人の視線は集めたくない。

 だから、俺は面倒臭いことこの上ないが、担いでいた袋を無言で受付嬢の所へ置き



「あのアイリスって奴を仲間に連れてくよ。これで、この依頼行けるだろ?」


「は、はい。ですが……」


「悪いけどこれから飯を食わなきゃいけないから、話は後で聞くよ。それじゃあ」



 と、短く告げて受付嬢の話を聞かずにギルドをアイリスと共に後にした。

やっとヒロインを出せたんだけど、頭が少しおかしくて面倒な娘ってこんな感じでいいんでしょうか?

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