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弟子とお仕事①

 朝の鍛錬と食事を終えて俺がすることと言えば、意外と何もない。

 だって俺はここ最近この人間界に来たばかりだし、魔王城ではただ王座に座ってやって来る勇者を返り討ちにしていただけだからな。

 掃除洗濯等の俺の世話に関しては一番信頼できるアガレスに一任してたし。


 だから、こちらの世界の家事全般もアガレスに任せることになるだろう。

 俺が台所に立てば、全ての食材が炭に変わる。

 かといって、アイリスに家事を期待しても不安しかないために任せられない。

 そこで妥協案としてのアガレスに一任と言うことなんだ。


 我ながら不甲斐ないとは思うが、人には得手不得手があるもの。

 家事が出来るアガレスは家の管理。

 そして、圧倒的な力を持つ俺はギルドに赴いて仕事を受けて、生きていくための資金を集める。

 アイリスはその手伝いくらいが妥当なんだ。


 けして、マズい料理を作ってアガレスやアイリスにその処理を手伝わせるのに気が引けるというわけでは無い。



「さてと、仕事をするぞ」


「とは言っても、何を受けるつもりなのですか? その、わたしが言うのも何ですが、わたしが一緒に居る限りはあまり危険な討伐クエストは受けるつもりは無いのでしょう?」


「いや、行くぞ? ただお前を前線に立たせず、他の場所で薬草でも摘ませとけば良いだけだし」



 確かにアイリスは仕事をするうえで足手まといだろう。

 だが、邪魔と言うほど評価が低いわけでは無い。


 彼女が今まで培ってきた薬草知識は意外と使えるものだ。

 自分が弱いことを理解しているからこそ、生きていくために採集クエストを受けてきたアイリス。

 そんな彼女の知識を使って調合した薬を売り払えば、幾らか金にはなるだろう。


 別に戦闘で傷ついた身体を癒やすための薬だけ作れれば良いというわけでも無いからな。

 このファンタジー世界にも普通に流行り病や腰痛、それこそ風邪だって存在するんだ。

 魔物と人間と姿形の違う容姿をしている種族、さらに魔法や魔力が存在しているだけでその他に違うところはあまりない。

 だからこそ、薬局みたいな感じでアイリスの長所を生かした仕事を始めても良いと思うんだよ。



「わたしの必要性が皆無じゃないですか! わたしだって活躍してみせますよ、魔法の剣さえ渡してくれれば」


「それは最悪の場合のみだ。お前を前線に出せば敵を倒してすぐに調子に乗りそうだからな。それに、夜の鍛錬もあるんだ、今回は薬草摘みに専念しろ」


「——うぅ、そもそも何でお金を手に入れる必要があるのですか? タクマさんとアガレスさんは何処かの貴族出身みたいですし、働かなくとも十分なお金はあるのでは?」



 ふと疑問に思ったようで、アイリスが問いただしてくる。


 アガレスの丁寧な口調に紳士的な態度。

 身に纏っている服はけして豪華では無いものの、黒を基調とした所謂燕尾服だ。

 俺もいくら魔界の王に君臨していたからと言って、馬鹿みたいに傍若無人な振る舞いをしていたわけでは無い。

 今後来るかどうかも分からない人間との共存のあとのことを考えて、日々を礼儀と紳士的な仕草について勉強している身だ。


 だからこそ、アイリスには何処かの爵位を受けた貴族関係の存在として見れたんだろう。

 爵位を受けた上流とはいかないものの、貴族が地位を捨てて一般的な生活を送る考えを持っているのかどうかは知らないけどな。



「確かにあるけど、金は使えば減っちまう。派手な暮らしをするつもりは無いが、ただ生活するってだけでも金は結構使うもんだ」


「なるほど、今の生活を維持するためにも働くということですね?」


「そういうことだ」



 売り払った服の装飾品で作った金と俺がギルドで稼いだ分を合わせれば、一応一か月くらいは贅沢できるくらいの金は残っている。

 節約すれば半年くらいは持つだろうが、隣のアイリスは無事じゃ済まない。


 俺とアガレスとは違って、彼女は純粋な人間だからな。

 常日頃から空気中に舞うマナという極小の魔力を吸収し栄養源としている魔族はよくても、人間であるアイリスは食事で栄養補給をしなければならない。

 それ故に、常に働き金を手に入れる必要があるんだ。

 俺にとっての暇つぶしにもなるし、一石二鳥だろう。


 そんな風に会話しながらギルドへと移動してきた俺達は、すでに来ていた他の冒険者からの挨拶に軽く会釈と挨拶で返しながら真っ直ぐにクエストボード前に向かった。

 この間みたいに変な輩に関わられたくないからな。

 早めに仕事を選んで出発したいところなんだが、どれを見ても俺が満足出来そうなものが見つからない。



「結構依頼は貼ってあるのに何をタクマさんはそんなに悩んでいるんですか?」


「あまり良いものがなくてさ」


「タクマさんなら選び放題だと思うんですけど」



 魔王の俺から言わせてもらえば、確かにここにある依頼は全て受注可能だ。

 それも、一日と掛からず終わらせられる自信がある。

 高難易度と指定され、他の物とは違って赤くて目立つ依頼書の内容だって、たかがドラゴン一匹の撃退もしくは討伐。

 数十匹の同時討伐ならまだしも、一匹じゃ話にもならないな。



「もう少し難しい仕事の方が気がのるんだけどな」


「なら、これなんかどうですか?」



 頭を悩ます俺にアイリスが見せつけて来た依頼。

 ソレはある村に最近出没するようになった魔物、『キングオーク』率いるオークの討伐だ。



「キングオーク単体でなら簡単な仕事ですが、今回はソイツが率いているオークも討伐対象です。かなり難しい仕事ですし、金貨十枚と報酬も高いですよ?」


「オークか。場所はリコット村か……近いのか?」


「ヴォルトゥマから徒歩で二時間くらいです。馬車なんかが使えれば時間短縮にもなるでしょうが村自体が山奥にありますから途中から徒歩になるでしょうね」


 でも馬車を用意するとなるとお金が必要になりますねと、アイリスは困ったようにつぶやく。

 俺にとって移動手段なんかは別にどうだっていいことではある、何故なら何処へでも向かえる翼があるからな。

 どんなに距離があろうとも、目的地に着くまでに時間は有さないだろうよ。


 だけど、ソレはあくまで俺の中の、いや魔族からした考え方だ。

 翼を生やして空を飛ぶ移動手段など、人間が考えるはずも無いんだ。

 だから移動は基本的に徒歩か馬車と言うことなんだろう。


 不憫極まりないが、ソレが人間界での常識なのだからここは素直に従うべきなんだろうか?



「なぁ、アイリス。馬車を用意してもらうとしたなら、いったいどれだけの出費だ?」


「そうですね。距離によって変わりますが……今回だと銀貨三枚程で移動は出来ると思いますけど、徒歩にしときますか?」


「移動に金を払うって言うのは癪だし、かといって時間を無駄にはしたくないからな。今回は別の方法でその村に向かうか」



 依頼を出すということはそれだけ困っているということ。

 それも、依頼書が随分と黄ばんでいることからかなり前からこの依頼はギルドに置かれていたということだろう。

 救助を要請しているのにも関わらず、その助けがこないままどれだけの時間を恐怖に怯えながら過ごしたことか。


 そんな依頼人にこれ以上恐怖や魔物に対しての憎悪を募らせるわけにはいかない。

 魔王として元部下の行いは正さなければならない、今すぐにな。



「アイリス、この依頼を受注してきてくれ。すぐに向かうぞ」


「ま、任せてください」



 アイリスはそう告げてゆっくりと受付カウンターまで移動していった。

 朝の鍛錬で身体の筋肉に多大な影響を受けてるらしく、身体をブルブルと小刻みに震わせている様は見ていて少しばかり面白い。

 それは他の冒険者も同じのようで、あちらこちらから笑い声が聞こえてきているよ。


 これは全身に力を入れるのも難しそうな彼女には、やっぱり薬草摘みに励んでもらうほうが良さそうな気がするな。

 悠長に時間を使うわけにもいかないし、アイリスへの夜の鍛錬もあるんだ。

 全てをさっさと終わらせよう。


 そんなことを考えながら依頼を受けてきたアイリスを連れて俺は外へと出ると、片腕を地面に向けて魔法を施した。

 《結界魔法》の範囲を限界まで縮めたそれは、俺の立っている地面から半径一メートルを囲うように設定。

 これで、俺がこの場からどんな行動を起こそうが問題にはならなくなるだろう。

 


「悪いがあまり時間はかけられないからな。ちょっと我慢してくれよ?」


「——へっ?」



 有無を言わせずアイリスの身体を抱きかかえると、その場から全力で飛翔。

 そして、空中で翼を生やすとそこに滞空した。

 ギルドはヴォルトゥマの中央に位置するため、ここから門まで歩くとなるとかなりのタイムロスになってしまう。

 俺としては少しの無駄も省きたいところだからな。

 この場から行かせてもらおうことにするよ。



「た、タクマさんッ! まさか、空を飛んで行くつもりですかッ!?」


「まぁな。そっちの方が早そうだし」


「で、でも、この格好は……それに、街が衝撃波で」

 

「そっちの方は問題ない。俺が飛翔したことで発生する衝撃波や土煙は結界魔法の中に押しとどめられている。だから被害は全く起きていないはずだ」



 結界を張らずに俺があの場から全力で飛び立てば、確実に地面は強靭すぎる脚力に勝てずに広範囲で陥没するだろう。

 それこそ、街全体を消すくらいの規模になるんじゃないかな。

 だからこその結界だ。


 俺のジャンプ力による衝撃を結界内に閉じ込め、被害をゼロにする。

 まぁ、結界内はとんでもないことになってるだろうし、俺がさっきまで立っていた地面は半径一メートルの範囲で亀裂が入っているか、最悪陥没していることだろう。

 赤の他人から見れば、突然人が消えて、突然つむじ風みたいな風が巻き起こり地面に穴が開く。

 ちょっとだけ恐怖を感じる構図になるはずだ。



「さてと、アイリス。リコット村はどっちの方角だ?」


「え、えっと、あっちの方角かと」


「分かった。んじゃ、思い切り飛ばすから落ちないようにしっかり掴まってろよ?」


「何処にですかッ!?」


「さぁ、自分で考えろ」



 そう口にしてみれば、アイリスは少し悩んだ結果俺の首に腕を回してくる。

 まぁ、他に安全性を考えて掴める場所なんか無いし、その方法が妥当だろうな。



「な、なんか顔が近いですね……。恥ずかしいので、こっち見ないでください」


「分かってる。まっ、安心しろ、前にも言ったが俺はお前を女として見てないから何もしないよ」



 互いの息遣いが聞こえるほどに顔が近い。

 それを意識してかアイリスが顔を真っ赤に染めて心境を暴露するが、俺は口にした通りアイリスを意識はしていない。

 だからこそ、ポーカーフェイスを維持出来るし元より手を出すことも無い。

 すでに身体を抱きかかえているというセクハラに近い行動をしているが、ソレは現場に早く行きたいからという理由があるためノーカウントだと思いたい。



「……~~ッ! 別にわたしを女として見てくれとか言いませんけど、タクマさんはもう少しデリカシーっていうものを勉強した方が良いと思います!」


「あぁ、そうか。んじゃ行くぞ」


「ちょっと、それだけですかぁぁぁあああ~~ッ!?」



 何かしら文句を口にしようとしていたアイリスだが、その全てを告げる前に俺はリコット村へと飛び立った。

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