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魔王リストラ

「俺の代わりに魔王になるだと……?」


 俺の目の前で満足げに笑みを浮かべているオーク団長。

 まぁ、名前も名乗ったしドーザは両手を広げて更に気持ちの悪い笑みを作り上げると


「だってよく見ろよ、俺の後ろをな。みんな俺に魔王の素質があるらしく薦めてきたんだぜ? 力に智謀、更には仲間からの信頼を得ている俺様が次期魔王にふさわしいとよ」


「力、智謀……ね」


 確かに仲間からの信頼はありそうだな。少なくとも、今の俺からは信頼くらいは多いだろう。


 けれど、力と智謀って言うのはどうだろうな。

 残念な話、彼くらいの魔物なら瞬殺出来る自信あるよ、俺には。


 だって、所詮はオークだからね。

 魔力も大したこと無ければ、身体も人間の数倍程度頑丈なだけだ。

 そんなの強いとは言わないよ。


 まぁ、俺のトレーニングメニューを毎日受けていたなら相応の実力者になっていただろうけどな。

 昔の部下たちはみんなソレを受けて強くなり、俺の部下として暮らしてくれていたんだから。


「貴様、魔王様に対して無礼な真似を見せただけでなく、魔王様に成り代わり魔王を名乗るなど。立場をわきまえたらどうなのだ」


「あぁ? そこの働かねぇただのバカに代わって俺がこれから魔族をより良い方向へ導こうって言うんだ。昔の考え方を貫く爺さんは黙ってな」


 隣から物凄く不気味な音が聞こえたような気がした。

 こう、切れてはいけない何かが『ブチっ』って音を立てて切れたみたいにさ。


 横目にアガレスを見てみれば、額に青筋を浮かばせて完全にご立腹状態。


 その目は血走っていて、このまま放っておけば目の前のオークそして後ろに控える他の団長たち全てを殺さない限りは止まらないんじゃないかな。


「確かにわたしは昔の考え方をする爺様だ。ソレは本当のことなのだから気にはしない。だがな、わたしではなく魔王さまを侮辱することは……許さんぞ」


「——ひっ!?」


 明らかに雰囲気の変わったアガレスに先程次期魔王になる宣言したドーザが悲鳴を上げ後ずさる。

 っていうか、ダメだろ。

 この程度で魔王が身を引いてたら。


「アガレス。そのくらいにしておけ、ドーザが可哀想だ」


「……っ、しかし」


「アガレス、俺は気にしていない。怒ってくれるのは嬉しいが、奴の言い分も正しい。俺はそう思えるんだ」


 椅子から立ち上がって怒気を隠さないアガレス肩をそっと掴んで怒りを鎮めろと促す。

 俺のために怒ってくれるのは素直に嬉しいが、怒りで我を忘れて同族を殺したんじゃ後味悪いだろう。


 そして、なにより俺の問題でアガレスに迷惑をかけるのが嫌だった。


 だからこそ、俺はアガレスに落ち着いてもらうように告げると、未だに恐怖で震えている団長達を見据えて


「お前の言い分は、次期魔王になる……だったな」


「あ、あぁ。そうだ。俺こそ、魔王に相応しいッ! 必ず魔物が地上を支配する世界を作り上げるのだッ!」


「あぁ、そう。まぁ、今のお前達魔物がそういう考えなのなら俺は別に構わない。降りてやるよ、魔王の座をな」


 俺の言葉にドーザを含めた団長たちは目を見開き、隣のアガレスは「魔王様ッ!?」と驚愕を隠し切れていない表情を浮かべていた。


 あっさり魔王の座を降りようとしてるんだからな、そりゃ驚いて当たり前だろう。


 だけど、俺自身もう魔王って言う存在でいるのに飽き飽きしている部分があるんだよな。

 数千年もの間、ずっと外の世界に出ることなくここで勇者の来る日を待ち続けるなんて辛いだけだ。


 それならいっそ魔王を辞めて外の世界に出るのも良いかもしれないんだよね。


「さて、今日からお前が魔王だ。存分にその悪逆非道な道を進むがいい」


「言われなくとも、この俺がアンタを超える魔王になってやるさッ!」


 先程まで縮こまっていた姿は何処へやら。

 高らかに宣言してふんぞり返りながら高笑いを披露するオーク団長。

 またの名を、新魔王ドーザなんだろうか。


 彼は嬉しそうに高笑いを続けていたが、すぐに視線を俺に戻してそのブクブクと太った気持ちの悪いゴーヤのような指先を俺に向けると


「さぁ、元魔王殿。その席を空けてもらおうか。そこは新魔王である俺こそ座るに相応しい!」


「あ~、はいはい。今避けるからよっと」


 俺は王座の前から退くと、アガレスの手を引いて歩き出した。

 そして、奴らの横を悠然と通りずぎて行く。


 団長たちの真横を通り過ぎる瞬間、アガレスには恐怖の眼差しを、俺には見下すような視線を向けてくる。

 はは。本当に凄く馬鹿にされてるみたいだな。


 勇者は俺が倒したというのに、俺に対しての敬意がまるで感じられない。


「魔王様。この無礼者ども、わたしが全て消し炭に変えて差し上げましょうか?」


「いや良いよ。別に俺が手を下すまでもないかもしれないし」


「……勇者のことを言ってるのですか? しかし、勇者は魔王さまが先程人間界に返されたのでは……」


「おう。返したよ。それはもう丁寧にな」


 確か人間界の王都であるキングスタスって街の前に送ったはずだからな。

 今頃は二人とも無事を喜んでいるか、俺を倒せなかったことを泣いて悔しがっているかのどちらかだろうよ。

 まぁ、興味ないけど。


「ですが、それでは奴らに期待は出来ないのでは? 人間界へ送られたのなら、再びこの城へ来るのは二年ほどの期間がかかりますし。そうなると……」


「あぁ、分かってるよ」


 俺は笑みをこぼしてアガレスの手を引くのを辞めると、振り返り団長方。そして、新たに魔王の座に君臨したドーザを見据える。


 そして、思い切り笑みを浮かべながら右腕を上げてその中に黒い禍々しい炎を出現させて


「あぁそうだ、一つ言っておきたいことがある。これから俺の本拠地は人間界になるだろう」


 思い切り魔力を高めて放出させながらの告白。

 巨大すぎる魔力は大地すらも揺らし、殺気を籠めた視線は目の前に立って俺を見下していた魔物共から笑みを奪い去った。


 瞳には涙を大量に浮かべ、身体からは滝のような汗を垂れ流しにする気品の欠片も感じられない姿。


 恐怖のあまり腰を抜かしている者もいるが、全員に共通しているものがあるのなら失禁してるってことかな。


「だから、この際だから言っておく。貴様ら……俺のテリトリーに一歩でも足を踏み入れてみろ。全員跡形もなく消し去ってやるからな」


 『俺が本気になればお前等なんて一瞬で終わる』それを一番分かりやすい形で告げた俺は魔力を抑えて歩き出す。


 手の中に出した黒い炎は消すのが面倒だから、団長たちの足元に投げておいた。


 瞬間小さな爆発音を立てて炎をまき散らす禍々しい黒い煙と化したけど、ここはもう俺の城じゃないからな。

 後片付けは奴らに任せよう。


 すると、俺の隣に誰かが並ぶ。と言っても、アガレスしかいないんだけどな。

 俺の分かりやすい脅しに満足したのか、いつもの笑みを浮かべたアガレスは


「魔王様も少しは気にしていたようではないですか」


「あそこまでコケにされたらな。いくら温厚で心の広い魔王様でも我慢は出来ないのさ。だから、お灸をすえるのと、警告の意味も込めてな」


 あの様子なら人間界に攻め込んでくることは無くなるだろうな。

 だって、これからその場所には俺という厄介極まりない爆弾が住み始めるのだから。


「さて、楽しみになって来たぞ。人間界、俺の知ってる頃からどのくらい変わったか見せてもらおうじゃないか!」


 腕を振り合げて先程とは違って晴れやかな気分で叫ぶ。


 まだ着いてもいないのにワクワクドキドキが止まらない。

 早く行きたい衝動を抑えながら、俺は赤い絨毯のひかれた廊下を隣にアガレスを連れて悠然と歩いて行くのだった。

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