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元勇者パーティとの遭遇

 俺を親の仇でも見るかのように睨みつける女騎士は、おそらくはアイリスと同年代くらいの美少女だった。


 身長も女にしては高いらしく俺と同じ程度。

 薔薇のように赤い髪の毛を肩の辺りまで伸ばしているショートヘアーで、瞳は同じく赤いがルビーのような美しさを感じるもの。


 中性的な顔立ちとは言っても顔は整っている方で、スタイルも良いのは着こんだ鎧の上からも確認できた。


 そんな彼女だが、もうすでに先程までの戦いで体力魔力共に消費しているというのにもかかわらず、俺に対して槍を向けて来ていた。

 とは言っても、持ち上げる力すらほとんどないようで中途半端な高さに維持することしか出来ていないけど。



「いつから起きていた?」


「貴様がわたし達を眠らそうと催眠魔法を使った時からだ。余程力を見られたくなかったようだが、残念ながらわたしは催眠魔法に耐性があるんだ。先の貴様の力は全て見させてもらったぞ」



 観念しろとばかりに槍先を俺に向けてくる女騎士だが、力が限界に達しそうなんだろう。

 槍を持つ腕はすでにブルブルと震えている状態だ。


 今この場でやり合えば確実に勝つのは俺。

 たとえ奴が全快していたとしても、魔王である俺との差は埋められないほどにあるから負けることはない。


 それを彼女も知っているはずなのにも関わらず、彼女は槍を持ってを下げようとはしなかった。

 凄い根性とでも褒めたほうが良いのかもしれないな。



「そうか。それで、お前が一部始終を見ていたからって何になるんだ? まさか、キングスタスを守った俺を殺すつもりじゃないだろうな?」


「ふっ。確かに王都に迫り来る魔族を消したことは国を守ったも同然。普通ならば爵位を国王から授かっても良いほどの功績だ」


「なら、何故そんな俺に槍を向けてるんだ?」



 国を守って彼女の命も救ったんだ。

 むしろ泣いてお礼を言われても良いくらいのことをしただろう。

 だが、彼女の瞳から感じる殺意は本物だ。とてもじゃないが、命の恩人に向けるものではない。


 その事に疑問を覚えて俺が短く質問してみれば、彼女は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて



「貴様、魔王だろ?」


「——ッ!?」



 遠回しに言うでもなく直球に俺の正体を暴露してくる女騎士。

 俺の戦いぶりを見て何かしら確信に至る何かを見つけたんだろうが、ただの騎士如きに魔王だと分かるような所は無かったはずだ。

 あっても、強い魔導士程度と思えるくらいだろう。


 ならば何故目の前の女は俺が魔王だと気づいたのか。

 そんなことを考えつつバレないように腕に視線を向けてみても、魔族状態の時みたいに黒い体毛が生えているわけでもない。


 おそらくは背中にも翼は生やしていないはずだ

 そうなると、ますます分からなくなるもんだな。



「その様子だと、図星のようだな。”あの時”と会った状態が妙に人間らしいから最初は気づかなかったが、貴様の使ったあの禍々しい魔法を見て確信したぞ」



 未だに自分が有利に立ってるとでも言わんばかりの笑みを浮かべて勝ち誇る女騎士だが、残念ながら現状況を深く考えなくとも状況は彼女の方が不利だ。

 すでに身体は疲労と無数に出来た傷の痛みでボロボロ。


 そんな状態で俺というラスボスに出会ったんだ。

 勝ち目がないのは分かり切っているというのに笑みを浮かべる意味が分からない。


 理解できることがあるとするなら、彼女は俺という存在と初対面では無いということだろうな。

 多分、勇者と共に魔王を討伐するべく魔王城に攻め込んできたパーティの一員か何か。


 俺の記憶には彼女のような人物は残ってないから然程強くは無いと思うが、人間界の中では最強を争う一角だろう。

 雰囲気がどこぞの自称勇者の末裔とは違うからな。


 対峙しているだけで肌を焼くようなピリピリとした殺気を確かに感じるんだ。

 それは多少戦場で腕を磨いたからと言って簡単に放てるものではない。



「それで、俺が魔王だと分かったからどうだと言うんだ? まさかとは思うが、その状態で俺と戦うつもりなんじゃないだろうな?」


「そのまさかだ! わたしは二年前に貴様に敗れてからこれまで血の滲むような鍛錬を積んできたんだ。その力で今日こそお前を倒してやる!」



 それまでの疲労は何処へやら。

 腕の震えが止まったかと思うと、女騎士はとても先程まで戦い続けていたとは思えないほどの突きを放ってきた。


 まさに神速とでも現した方が良いのか。

 空気を切り裂き向かって来る槍先は、的確に左胸辺りである心臓部を狙ってきている。

 まともに受ければ俺とは言えど無事では済まないのではないか。


 まぁ、当たればの話なんだが。



「残念だな。今のお前じゃ俺に傷を負わせることすら難しいぞ」


「——なっ!?」



 俺は淡々と告げて槍先を素手で掴むと、ドアノブを引くような感覚で槍を引っ張った。

 とは言っても、勢いと力加減が全く違うからな。

 すでに戦う力すらまともに無い彼女の手の中から簡単に槍はすっぽ抜けて、俺の手の中に納まったよ。



「お前の槍さばきは凄まじいものだ、それは認めてやる。だがな、俺を倒したいんだったら今の傷だらけのお前には不可能だ。やるなら万全の状態になってから出直してこい」



 俺は奪い取った槍を足元に突き立てると、もう用は無いとばかりに翼を生やして空へと飛び立った。

 すでに意識のあるのは彼女だけというのは把握しているのだから今更隠す必要は無いだろう。


 ただ、俺の素性を知ってしまったからには彼女には口止めをする必要がありそうだ。

 深く考える必要もなくその考えに至った俺は、憎々し気に俺を見上げる女騎士に片手を向けると



「悪いが、お前には呪いをかけさせてもらうぞ」


「何っ!?」


「心配するな。俺のことを口外出来ないようにするだけだ」



 何か文句を口にしそうな彼女に問答無用で俺は呪いをかける。

 手のひらから発射された音速の光線は、彼女の身体に当たるとはじけ飛び無数の光となって身体に吸収された。


 俺の秘密を暴露しようとすれば死ぬといった残忍な方法はとりたくないから、口にしようとすれば身体全体に激痛が走る程度の呪い。


 別に彼女の命を奪うという方法でも良かったんだが、元勇者のパーティとなるとどうしても期待してしまうんだよ。

 もしかしたら、今後強くなって俺を楽しませてくれる存在になってくれるんじゃないかとな。



「き、貴様ッ!」


「お前が俺のことを暴露しようとすれば、お前自身に痛みとなって呪いの効果が表れるだろう。ソレが嫌なら俺のことは今後一生口外しないか——俺を殺しにやって来るんだな」



 言いたいことだけ告げて、俺は今度こそ空の彼方に飛んでいく。

 アイリスの時同様後ろの女騎士が叫んでいたような気がするが、だからと言って反応するつもりも無いから無視だ。


 それに彼女は今後人間界という場所に断定するわけじゃ無いが、俺を探しに来るだろう。

 文句はその時に聞いてやれば良いだけのことだ。



「まっ、俺を見つけられたらの話か」



 不可能だと思えることに挑戦するかどうか分からないが、今後の彼女には苦労が絶えないだろうなと苦笑して俺はヴォルトゥマ目指して飛んでいくのだった。



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