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槍使いシオン

今回は少し短めです

 大国エレウェン。

 その王都であるキングスタスは、建国してからおそらくは初めてであろう滅亡の危機という状態に瀕していた。


 それは突然の出来事だった。

 人々が一仕事を終えて帰宅し、各々食事や寝床の用意に精を出す時間帯に魔族と呼ばれる化け物の侵攻を受けたのである。


 人間世界の中央に位置するエレウェン国は魔物の出現というどの国も抱えている問題を省けば、基本的に平和な国だ。

 他の国との関係向上にも積極的で、人間界を象徴とする大国と言えるだろう。


 それ故に狙われた。

 今まさに王都を奪い取らんと侵攻してきている魔族達を見据えて、王都を守護する騎士の一人であるシオンは片手にある愛用の槍を握りしめる力を強めた。


 五年間使用してきたその槍は彼女の手によく馴染み、振るわれるたびに襲い掛かってくる魔族の命を刈り取る。

 しかし、いくら敵を殲滅しようとその数が目に見えて減ることはない。

 まるで、無限に湧き出る敵を相手に無駄な体力を使っている気分だと、シオンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。



「おのれッ、ワラワラと目障りな!」



 口にするだけ無駄な言葉を吐き捨てつつ、彼女は向かってくる魔族に向けて槍を振るう。

 侵攻して来ている魔族はオークやゴブリンといった比較的脳みその小さい連中であったのが幸いし、無計画に突っ込んでくるばかりだから倒すのは簡単だ。


 槍を適当に振るおうが奴らから当たりに来てくれるとさえ言えるだろう。



「ハァ、ハァ、クソッ! おいッ、応援はまだか!?」


「アイシス王国に救援を求めてはいるのですが、突然の自体に対応が追いつかないとのことです!」


「ヴェルトン王国も同じく準備に追われており、到着するまでには最低でも五時間はかかるとのこと!」


「増援は期待できないということか」



 魔族を切り捨てつつ伝令の言葉に耳を傾けたシオンの表情が苦しげなものに変化した。

 現在のこちらの戦力は二千人であり、非番の者も無理矢理連れてきたとしても大した数にはならない。


 対して相手の戦力は未知数だ。

 元々何処から現れているよかすら把握できない上に、倒しても倒しても減らない戦力。

 このまま消耗戦に持ち込めば確実にこちらご敗北することだろう。



「シオン様ッ! どうなされるのですか!?」


「どうするも何もない、我らがやらねば誰がやるというのだ!? 勇者は魔王との戦いに敗れてから廃人。仲間の魔法使いも同じく戦えない状態だ。その上増援も期待出来ぬというのなら、やるしかないだろ!」



 シオンは圧倒的な戦力差に崩れ落ち始める仲間達を鼓舞して士気を高めようと試みるが、勝ち目のない戦いを強いられてると悟り始めた部下や仲間に彼女の声は届かない。


 敵を切りながら視線を後ろに向けてみれば、最初に比べて数が減っているのも確認出来る。

 殺されたのか、それとも逃げてしまったのか。


 その答えはシオンにも分からないが、着実に近づいて来る敗北の二文字が彼女の心に焦りを生み始めた。



「魔王自ら積極的に攻めて来なかったのは、我らの油断を買う為だったのか!」



 数千年間ともいう長い年月の中、人間から魔界に攻め込むことはあっても魔王が人間界に降りて来るということは無かった。

 その理由は、わざわざ降りて来なくともそのうち部下が人間を殲滅するだとか、殺す価値もないと勝手に解釈されているのだという考えもあった。


 しかし、もしも人間達が油断する隙を作り出すための計画だったのなら。

 考えたくもないが、魔王の真意がそうなのであれば見事に人間は魔王の手のひらの上で踊らされていたわけだ。


 その事実が、シオンの額に青筋を作り出してしまう。



「皆の者、諦めるな! まだ勝機はある、目の前の敵を押し返し反撃のチャンスを待つのだ!」



 どんなに絶望的な状況だろうが、味方の鼓舞を続け自ら押し寄せてくる魔族の軍団を切り捨てていくシオン。

 しかし、彼女とて人間だ。


 味方を気にしつつ槍を振るうとなればそのストレスも疲労も凄まじいものになるだろう。



「ハァ、ハァ……ば、化け物共め」



 槍を振るい始めてもう一時間は経っただろう。

 どのくらいの敵を殺したのかは分からない。

 だが、辺りを見渡してみればもう足場すら見つからないのではないかとさえ思えるほどの魔族の死体が転がっていた。


 しかし、それでも奴らを殲滅するにはいたらなかったらしく、シオンの見据える先にはまだ数百程の魔族の姿が確認出来る。

 奴らはもはや動ける状態ではないシオンを見つけ、ただてさえ気持ちの悪い顔をさらに酷いものへと変えた。



「わたしの命もここまでと言うことか」



 槍を地面に突き立てて目の前を見据えるシオン。

 覚悟なんてものは全く出来ていないが、もはや歩く力すら残っていない身体ではどうする事も出来ない。


 一巻の終わり。

 それを悟ったシオンは一矢報いるつもりで最後の力を振り絞り、槍を構えようとしたのだが



「なっ!?」



 彼女のその動作は突然目の前に現れた黒い存在によって阻まれた。


 現れたというよりも、落ちてきたという方が正しい存在の正体は男。

 それもシオンとさほど変わらない歳の男の子だ。


 黒い短髪に同じく黒い瞳。

 平均的な身長に少し筋肉質な所謂細マッチョと言える体格の持ち主は、ツリ目に近い瞳で目の前に迫る魔族達を冷ややかに見つめていた。

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