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次期魔王宣言

 俺は数千年前までは、小池拓馬(こいけたくま)と言う名の日本人だった。

 職業、家族構成、年齢と色々ともう覚えていないけど、自分の名前までは憶えているから確かだろう。


 そんな俺はどういうわけだか命を落として、俗にいう転生とやらを体験したらしく生まれ変わった俺は人間を辞めていました。


 身の丈二メートルはある巨体に、背中にはコウモリの翼みたいなものを生やし、頭には角。鋭くとがってしまった八重歯は口を動かすたびに唇に食いこんで痛い。


 そんな人間とはかけ離れた存在、魔族に俺は転生。


 しかも、随分と俺を転生させた存在は太っ腹らしく、不老不死の魔力無限大。まさに、高スペックすぎる身体を俺に託してくれていたらしい。


 おかげで俺はなんの苦労も無く成り上がり、齢11歳にして魔王の座に君臨しましたとさ。


「あれから……何年経ったかな。流石にこんなにも長生きしてると、色々と憂鬱になるんだけど」


 最初の内は俺も魔王に君臨したんだから人間との和平を試みて、『キャーッ! 魔王様素敵ーッ!』とかって言われたいなとか思ってましたよ。


 けれど、その頃の人間はまだ魔法はおろか機械文明すら進んでいない、日本でいうところの縄文時代くらいの分明だったもんだからあえなく断念。


 それからも何度か文明開化が始まるごとに人間との接触を試みたものの、俺みたいな怪物を目の当たりにした人間達は勝手に侵略者と決めつけてきたんだよね。


 おかげで俺は見事に悪逆非道な魔王様のレッテルを張られてしまい、それから数千年間人間と交友関係を結ぶこと無く命を狙われる立場となりましたとさ。


「さっきの二人も俺の命を狙う勇者達ご一行ですか。何度も勇者を送り込んでは失敗しているのに、よくもまぁ飽きないもんだな」


 初めて勇者がこの城を訪れて俺に向かって死の宣告を告げてきた時は驚きを隠せないでいたけど、こう百年に一度のペースで現れると流石に慣れてくるものだ。


 まるで予行演習でもしたかのような台詞を吐いて、こちらの言い分も聞かずに襲い掛かってくる勇者ご一行。


 初めて来た彼らがあまりにもリア充すぎて、イラっとした俺が一行を消し炭にしたことも人間が俺達魔族を怖がる理由にもなってるのかもしれない。


 だって仕方ないだろ。


 初めての勇者さんは隣にお国のお姫様。反対には幼馴染らしき魔法使いみたいな恰好をした美少女を連れていたんだから。


 転生したての非リア充であった俺には怒りを買う要素満天すぎたんだ。

 俺は悪くない。


「——魔王様。終わりましたか?」


「ん? あぁ、アガレスか。無論、俺の手にかかれば勇者なんて簡単に片づけられる。何の問題も無い」


 部屋への入り口である巨大な扉を押して入って来た白髪の老人に、俺は当然だとばかりに胸を張って答える。


 そんな俺の態度に彼は物腰の柔らかな優しい微笑みを浮かべると、一礼して近づいて来ながら


「実に二百年と五十年ぶりの勇者でしたな。城にて待機させておりました魔物を一網打尽にしながら突き進んで来たかの者の実力も、前の者とは比べ物になりませんでした」


「確かに彼らは強かったよ、最近の勇者にしてはな。ちょっと毛が生えた程度だけど」


 勇者に対しての評価にしては随分と過小評価すぎるのかもしれないけど、実際そうなのだから仕方ない。


 俺の命を狙って何人もの勇者がここを訪れては消し炭になったんだ。


 その中には俺の身体に少しだけだけど傷を付けられるものもいたし、それこそ最初の勇者なんかは俺に対して致命傷を与えるほど手強かったよ。


 まるで人間の中の化け物みたいな奴と比べたら、剣を振り回すだけで何も出来なかった彼の評価はその程度で十分だと思う。


「それは手痛い評価ですな。我らの戦力である魔物を数千と倒した勇者が毛の生えた程度とは」


「戦力であるって、俺のトレーニングメニュー一つすらまともにせず好き勝手に生きてる連中だろ? あんなの俺の部下でもなければ、守るべき民ですらない」


「これはまた厳しい評価ですな」


 そう言って苦笑するアガレスだが、彼も俺と同じく評価なんだろう。


 目が笑っているようで少しも笑ってない。相当ご立腹のようだ。


「当たり前だ。俺の命令無視して人里を襲ったり、女さらったり無茶苦茶だからな。しかも、全て俺の命令でやってる事って人間界ではなってるし」


「それでしたら、今からでも魔王様のお力を皆に示すべきなのでは無いでしょうか? そうすれば、彼らも少しは自重するかもしれません」


「いや、元はと言えば俺の命令で始めた事だからな。まぁそうじゃないにしても奴らは俺の言葉に耳を傾ける事は無いだろ。俺って今の世代には引き篭もり魔王って呼ばれてるわけだし」


 人里である程度は自重するにしても、勇者をおびき寄せる為に暴れろって命令したのは他でも無い俺だ。


 だって、そうでもしないと人間は俺達の存在を忘れてしまうし。何より勇者が来ないから俺が暇だ。


 だから多少の期間を空けて暴れるように命令したんだが、時代が変わるごとに奴らも俺の命令なんて忘れたらしい。

 好き勝手に暴れては人様に迷惑をかけるただの化け物になったみたいだ。


「だからもうアイツらに関わるのはやめようと思ってるんだよ。俺の言う事聞かない馬鹿は勇者にあっさり殺されてしまえば良い」


「ですが、それでは魔王としての威厳が」


「正直俺は威厳なんていらないよ。数千年も生きてたらな。今の俺にはお前のように忠実で頼りになり、大切だと思える部下……いや、家族がいれば十分だ」


「そう言われましたら、わたしは何も言い返せませんな」


 アガレスは苦笑してお辞儀を返すと、もう何も言わないとばかりに俺の真横まで移動してきて止まった。


 別に変な意味はない。ただ、ここがアガレスの立ち位置なんだ。

 

 俺と共に日がな一日ずっとそばにいる。

 勇者が来たら別だが、これがアガレスの一日なんだよ。


「ところで、今回の勇者も人里へ返されたのですか?」


「うん? まぁな。アイツらは馬鹿やってる魔物を駆除してくれたし、俺の暇つぶしにもなってくれたんだ。命まで奪う必要ないだろ」


 初めの頃こそリア充ばかりがやって来るから消し炭にはしてたけど、今の俺はそんなことしない。

 むしろ、二人の門出を祝福したいくらいだ。


 もう数千年も生きてたら精神的には老人だし。

 愛し合う二人に対して横槍どころか死の槍ぶつけても可哀想かなって思い始めたからこその、生きたまま人里へ返す行為。


 いったい二人が戻った先に何が待っているのかは到底理解できそうにも無いが、今までの経験から察するに修羅場が待ってることだろうな。


「毎度丁寧に生きたまま返してるんだからいい加減魔王は善良な奴って理解してくれれば良いんだけどな」


「難しいでしょうな。何故なら、魔物が好き勝手に暴れておりますから」


「それをどうにかしないと友好関係は結べない……か。分かってるんだけど、アイツらの相手するのは面倒だしな」


 強いとかじゃなく、本当に面倒なだけだ。

 先祖代々俺に仕えている魔物だが、日に日にその忠実さが消えてるんだ。


 まぁ、俺がアイツらの相手をしなくなったのも理由の一つだろうけど。


「いざとなったら、また勇者にでも倒してもらってお灸をそえればいいさ」


「それでは人間に対しての恐怖と殺意しか生まれないと思うのですが」


「はは。やっぱり、人の上に立つって本当に面倒だな……。っと、誰か来たみたいだな」


 アガレスと雑談を交わしていると、ふと感じた扉の外からの気配。


 随分と余裕のない、そして清楚さの欠片も感じられない荒々しいこの気配はおそらくオークかゴブリンか。

 数も結構いるみたいだけどおそらくはそこいらの団長か何かだろう。


「魔王様に対して何か用でもあるのでしょうか?」


「おおかた勇者によって生まれた被害の説明と、俺に対しての怒りをぶつけに来たんじゃないのか? 俺って基本的にこの椅子に座ったまま動かないし」


 魔王というのは常に物語の最終ボスとして佇むもの。

 むやみやたらに人里へ赴き悪逆非道な行いを自ら行うものではないと俺は思ってるんだ。


 だから、この椅子で常に勇者の来る日を待つ日々を過ごしてるんだが、それは魔物からすれば引きこもりのニートにしか思えないらしい。


 被害が出るたびに俺に対して報告をしては、勇者が来る前に倒してくれって勝手な言い分をぶつけてくる団長たちの怒り狂う顔を何度見たことか。


 そんなことを考えている間にも気配はこの部屋に近づいて来て扉の前で止まると、荒々しく扉を開け放った。


「魔王ッ! アンタに話がある!」


「どうしたんだ? え~と、オークの団長。勇者の件に関しての報告なら別に構わないぞ。俺が倒してやったし」


 ブクブクと太った緑の化け物は俺に対して敬意を払うつもりなんて微塵もないらしく、様付けすることなく俺を呼ぶ。

 まぁ、だからって俺は簡単に相手を殺したりはしないけどな。


 俺って数千年も生きてる魔王様だし、寛大な心で大目にみてやるさ。

 ちなみに名前は本当に分からないので団長と呼ばせてもらおう。


「それについては感謝する。だが、アンタが勇者を倒せるほどの力を持っているのなら、何故被害が出る前に奴を倒してくれなかった!?」


「そりゃ、お前らが勝手に人里を襲った結果の勇者訪問だからな。何故俺がお前らの尻拭いのようなことをしないといけないんだ?」


「アンタは魔王だ。魔王なら魔王らしく俺達のボスとして俺達の住みやすい環境を作ることこそが使命だろうが!」


 オーク団長の言葉に後ろに立つその他の魔物達が一斉に頷く。


 魔物達が住みやすい環境を作ることが魔王の使命ってな。

 俺はただ人間と共存したいがためにあの手この手と尽力したが無理で、諦めただけなんだけどな。


 そりゃ最初は俺の部下だから守ってやったこともあった。

 でもそれは随分昔……それこそアガレスがまだ生まれたての子供くらいの頃の話だ。


 みんな俺に対して忠実だったし、何より一緒にいて楽しかった。

 だからこそ守ってやっていたんだが、ソレがどうなったら自分達を養ってくれみたいなことになるんだろう。


「お前、魔王様に対してその口の利き方はなんだ? ただでさえそんな殺伐とした雰囲気を出しているんだ、反乱分子として対処されてもおかしくないぞ?」


 無礼にも程があると今にも食ってかかりそうなアガレス。


 だが、そんな彼の雰囲気に気付いていないのか、それとも気付いてはいるが相手にする必要は無いとでも思っているのか。

 オーク団長は鼻で笑うと


「反乱分子、大いに結構。もうアンタの時代は終わったんだよ。これからはこの俺、ドーザ様が魔王として君臨する!」



 現魔王である俺を指さして、宣戦布告を告げてきた。

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