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仲間に迎える条件

 アイリスの装備選びは思いのほか早く終わった。


 彼女が俺と同じくあまり派手な鎧が好みじゃ無かったことと、助言を求めるアイリスの問いに適当に相槌を打ってたことがその結果に繋がったんだろう。


 勇者ブレイブの末裔を自称するくらいだ。

 服のチョイスもまた勇者みたく派手な物を選ぶと思っていたんだが、以外にも彼女が選んだのは銀色の甲冑。


 流石に全身覆い隠すような物は選べなかったらしく、首から下までを全身覆う鎧。

 しかし、見た目のわりには軽い素材で出来ているらしく、派手な戦闘でも身軽な動きが可能らしい。


 金髪美少女に銀の鎧は似合うとは素直に思う。


 だけど、口にすれば確実に調子に乗ると考えた俺は、あえてそのことを口にすることなくアイリスの鎧選びを見守ることにしたのだった。


 そんな出来事があった後、俺達は街の中心街まで昼食を済ませるために移動した。


 お昼時だからか、人が大勢行き来する中心街はなんとも言えない圧迫感を感じる。

 俺ってつい最近までは魔王城の、それも俺とアガレス以外誰もいない部屋でずっと椅子に座ってる生活を送って来たからな。


 慣れない環境で疲れてしまってるんだろう。



「ふぅ、申しわけありませんでした。せっかくタクマさんも買い物の途中だったのに」


「心底そう思っているのなら、俺に対してご飯を奢ってくれってあからさまな態度を見せるのはやめろ」



 そんな状態でもなんとか食事処と座れるスペースを確保した俺は、少しの罪悪感も感じていないであろうアイリスに文句を口にした。


 何が申し訳ありませんでしただ。

 本当に申し訳ないと思っているのであれば、俺が買い物の途中であることを察して声をかけないのが常識だろ。


 たとえ声をかけるとしても、時間を掛け過ぎて迷惑をかけられないからと早々に話を切り上げるべきだ。


 自分がまだ鎧を選んでいる途中だからと、必死に拒む相手を無理矢理買い物に付き合わせるなんて言語道断。


 俺より魔王っぽい性格してるんじゃないか、コイツ。



「そんなに怒らないでください。わたし達、パーティじゃないですか」


「さっきも言ったが、何故俺達がパーティ何だよ。ダブルヘッドグリフォン討伐する前に言っただろ、お前とは今回限りだってな」



 元々コイツが無理矢理着いてくると言い出し、結果的には一緒に仕事をしただけ。

 そこからチームを組むほど仲を深めたわけでも無いのだから、当然パーティも組んでるはずがない。


 もしかしたら、強引に言葉を並べて俺の記憶を改変してパーティを組んだ間柄にでもしようとしているのだろうか。


 だとしたら、本当に面倒な奴だぞ。



「確かにそうですけど、わたしは思うんです。タクマさんとわたし、結構良いチームだと」


「そう思ってるのはお前だけだ。——っていうか、何でお前は俺と一緒にチームを組みたがるんだよ」


「タクマさんは強いですから、戦い方の参考になると思うんです。まぁ、今のままでも十分に強いとは自負しているのですが」


「じゃあ一人で頑張れよ」



 自分で自分が強いと思っているのなら、わざわざ俺のような素性も知れない男の傍にいる必要もないだろ。



「ふっ、強い者は強い者と一緒に困難を乗り越え、切磋琢磨していくことが必要だと思うのです。だからこそ、わたしはあなたのような強者が現れるのを——」


「本当のことを言ってみろ」


「——タクマさんの傍にいれば楽してお金が稼げますし、なにより安全かと思いましたので」


「正直に白状すれば良いと思ってるのなら大間違いだぞ」



 もう少し遠回しに表現してくるかと思ったら、直球で答えてきやがったよこの自称勇者の末裔。


 確かに元魔王の俺と一緒に行動を共にすれば、楽して金は稼げるだろうしこの上なく安全だろう。

 だが、そういう考え方は勇者の末裔としてどうなんだろうな。



「とにかく、俺はお前と今後一切一緒に仕事をするつもりは無い。分かったら今すぐここから消えろ」


「それは出来ませんよ。タクマさんはわたしからすれば運命の人なのです。あなたがわたしを一緒に連れてってくれると言ってくれるまで、ストーカーの如く付きまといますから」



 「今後、枕を高くして眠れるとは思わないでください」と指をウネウネと動かしながら、アイリスは告げた。


 おそらくコイツのことだ。

 承諾するまでついて行くというのは、本当のことだろう。


 だって目に光が無いからな。

 まるで、切羽詰まった奴が一筋の希望の光を見つけて、ソレにすがってるような感じだし。



「はぁ、分かった。お前と一緒に仕事をしてやってもいい」


「ッ! ほ、本当ですか!?」


「ただし条件がある」



 喜びを隠すことなく笑みを浮かべて、身を乗り出してくるアイリスに人差し指を立てて告げる。


 俺は元とは言っても魔王。

 無条件で相手の願いを聞き入れるほど甘い性格はしていないつもりだ。


 それに俺だけが戦い、コイツは安全地帯で楽してるなんて許せないしな。

 勇者の末裔ならそれ相応の意志を見せてほしい。


 だからこそ、俺は生唾を飲み込む彼女に条件を下した。



「これから三日以内に、スライムウルフを討伐してみせろ」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 アイリスに対して仲間に迎え入れる条件を下し食事を済ませたところで、俺達はヴォルトゥマから少し離れた平原まで足を運んだ。


 理由は勿論、アイリスの覚悟を見極めるため。



「あの、本当にやらないとダメなんですか?」


「当たり前だろ。俺の仲間になるくらいなら、魔物の一匹や二匹簡単に討伐できるほどの力を持っていてもらわないと困るんだよ」



 始める前から弱腰なアイリスに、俺は呆れ半分怒り半分にそう告げる。


 コイツの場合、無条件で仲間に入れたら確実に先程言っていたように楽するだけのぐうたら勇者になり果てるだろう。

 ソレが、俺にはたまらなく許せなかった。


 おそらくは何も手を下さず放置した結果、人間界を無断で襲い女をさらったり食料や金銀財宝を奪うという悪逆非道な行いをした元部下の存在が大きいからだろう。


 アイツらは俺の生み出した汚点。

 そう思える存在だからな。


 今度部下を持つ立場となったなら、最初の頃と同じように強くたくましく育て上げて誰にも負けない戦士にする。


 魔王城を飛び出た時に密かに決意していたことだ。

 それを人間に対して行うことになるとは正直思わなかったがな。



「あ、あのせめて、期限を一週間くらいに……」


「するわけないだろ。それとも何か? 勇者の末裔って言うのは、こんなことも出来ない弱い奴なのか?」


「ぐっ!」



 アイリスがスライムウルフを倒せないほど弱いのは、先のギルドでの騒ぎで知っている。

 だからこそ、俺は奴を倒すということを条件にしたんだ。


 俺だって鬼じゃない。

 最初からダブルヘッドグリフォンくらいの化け物を相手に勝てなんて無茶は言わないさ。


 ただ、コイツの本気が知りたいだけなのだ。


 もしもアイリスが金だけに興味があるアウテマ同様の『楽して暮らそう』という性格の持ち主なのならば、俺は速攻でコイツとの縁を切るだろう。


 最初から頑張るつもりのない奴は、どれだけ言っても変わらないからな。


 だが、コイツが他の勇者同様に血反吐を吐いてでも強くなりたい。

 そして、最終的には俺『魔王』を倒すことを志しているのであれば、力を貸してやらないことも無いさ。


 要は、アイリスの頑張り次第ということだ。



「条件は一切変えない。スライムウルフを最低でも三匹倒せるようになってみろ。それくらい出来ないのであれば、俺はお前を簡単に切り捨てるからな」


「くっ、わたしは勇者ブレイブの末裔なのです。この程度の相手に……苦戦なんて」



 ブツブツと自分に言い聞かせるように何かを口にしているアイリス。


 腰にぶら下がった聖剣とは思えない質素な剣の柄を握る手が震えているのがここからでも確認できた。

 恐怖故なのか、それとも武者震いって奴なのか。


 まぁ、確実に前者なのだろうが、俺は同情なんてしない。


 コレはアイツが自分で戦い認めてもらうと決めたことだ。

 ここで甘やかしてはつけあがる。


 もう二度と同じ過ちは繰り返したくないんだよ。



「来るぞッ! 構えろッ!」


「ッ!」



 恐怖で足がすくもうが、腰がぬけようが魔物は待ってくれない。


 まるで、予定されたシナリオ通りとばかりに草むらから飛び出してきたのは、二匹ほどのスライムウルフだった。

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