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パーティ勧誘

 アイリスの薬を手に塗ることで終わった口論の後、俺達は依頼達成を報告するべくヴォルトゥマの街まで戻って来ていた。


 ダブルヘッドグリフォンを討伐するのに時間はかからなかっただが、平原からの行き来と口論で時間を結構消費してしまったからな。


 空はすっかり茜色だ。



「なぁ、これ本当に効果あるんだろうな? さっきから塗ってるところが熱いしジンジンするしで全く治ってる気がしないんだが?」


「心配しないでください。さっきも言ったではないですか、効果は実証済みだと!」



 そう言って俺の隣を歩くアイリス。

 彼女は何の問題も無いとばかりに笑みを浮かべているが、実際問題状態が悪化してる気しかしないからな。


 薬草を塗りつぶし、自家製の聖水とか言う胡散臭いものと一緒に塗られたもの。


 出来ることなら今すぐにでも取り除きたいところだが、アイリスも厚意でやってくれてるからそれを無下には出来ないでいたんだ。


 まぁ、彼女と別れたらすぐに取り除くつもりだけど。



「それにしても、タクマさんがあそこまで強いとは正直思っていませんでした。装備も軽装ですし、武器となりそうなものすら持ってないので採集クエストだけに精を出す方だと思っていましたから」


「だから言ったろ、俺は強いって」



 人に褒められるのは素直に嬉しいが、アイリスの場合は何か別の意図がありそうな気がしてならない。


 本当に短い付き合いではあるが、彼女と一緒にいると面倒事ばかりが起きそうな気がすると身体の全神経が警告しているんだ。


 俺が魔王だということもあるが、勇者関係のことが絡むと間違いなく厄介なことばかりが起きてる。

 そう考えてみれば、もしかしたら本当に彼女は勇者の末裔なのかもしれないな。



「それにしても、良かったですね。ダブルヘッドグリフォンの頭が一つ残っていて」


「まぁ何かしら部位で奴だと分かるように加減はしたつもりだったからな」



 ダブルヘッドグリフォンの討伐完了を報告するためにはやっぱりその証が必要になる。

 それを踏まえて《ヘルザフレイム》の火力を多少だが加減し、奴の身体が残るように調節はしたつもりだったんだ。


 結果、俺の思惑通り奴の身体は何とか依頼対象だと分かる程度には原型をとどめていたんだが



「けれど、この頭は見せられませんね。タクマさんの腕以上に焼け爛れて、子供達には見せられない状態になってますから」


「下手すりゃ大人でも吐き気を覚える見た目をしてるからな。門番に袋もらっておいて正解だった」



 頭の大きさと所々に残った奴だと思える面影があるだけ大丈夫だとは思えるが、こんなものを担いで歩いていたら確実に騎士の迷惑になるだろう。


 そうでなくとも、気持ちの悪い化け物の頭を生で担いで歩く度胸は無いから結局は袋を使っていただろうけど。



「あっ、見えてきましたよ」


「そうだな」



 やっと厄介な娘とおさらば出来る。

 これからは面倒な依頼は極力避けて、一人で行けるクエストを選んでいこうかな。


 そんなことを考えつつ目の前を見てみれば、数時間ぶりに足を運ぶことになるギルド。


 もう時間帯的には夕方だというのに冒険者の出入りは健在らしく、酒場にも似た騒がしさで絶賛営業中だ。



「全く。ギルドマスターは何をやってんだろうな。ここまで騒がしいと近所の人達の迷惑だろうに」


「ソレに関しては問題ないみたいですよ? この近辺に住む人は大体が冒険者を生業とした方だとか、酒が飲みたい人達ばかりだそうですから。むしろ、騒がしさを求めてるくらいだそうです」


「なるほどな。まぁ、困ってないなら別に良いんだけど」




 軽く会話を交わしながらギルドへと足を踏み入れていく。

 一応ダブルヘッドグリフォンという化け物を倒してのけたのだから、誰かしら寄ってくるのかとも思いどんなことが起ころうとも対応出来るように身構えた。


 だが、流石は冒険者達と言ったところなのか。

 俺達が帰ってきたことなんて気にも留めずに談笑してる。


 まぁ、多少時間がかかったとしてもその日のうちに帰って来たんだ。

 俺達が用意を忘れたか何かだと思って気にする必要がないとでも判断したんだろう。



「皆さん随分と普通な感じですね。せっかく化け物を仕留めた凄腕冒険者が帰ってきたというのに」


「まるで自分が凄腕とでも言いたげだが、お前は結局何もしてないじゃないか」


「何を言いますか! わたしだってタクマさんが簡単に仕留めさえしなければ戦っていました。それに、その腕の傷に薬を塗って差し上げたのはどこの誰だと思ってるのです?」


「この程度、放っておけば治るよ」



 『さぁわたしを褒めるのです』とでも言いたげに胸を張るアイリスを放って、俺は仕留めたダブルヘッドグリフォンの頭を抱えて受付カウンターまで移動する。


 後ろから俺に対しての文句を口にするアイリスの声が耳に入るが、関わりたくもないので無視。



「あっ、お帰りなさい。タクマさん。——その、もしかしてとは思うんですけど、その袋の中身は」


「あぁ。ダブルヘッドグリフォンの頭だよ。依頼達成を報告しようと思ってさ」



 近づいてきた俺に気付いた受付嬢に依頼書を提出するとともにクエスト達成を報告してみれば、苦笑してハンコを押してくれる彼女。


 その理由は一日で化け物を数百体ほど倒した俺の強さに呆れているのか、それとも依頼を大量にやらせてしまったことへの後悔なのか。


 真意は彼女にしか分からない。



「先程の袋の中身も確認させていただきましたが、依頼内容の魔物でしたので依頼達成とさせていただきます。お疲れさまでした」



 彼女は苦笑はするも報酬の入った袋を手渡してくれる。

 受け取って中身を見てみれば、金貨が五枚ほど入っているのが確認できた。



「魔物を数体倒すだけで結構な額が手に入るもんだな」


「タクマさんはそれ相応の仕事をしたということですよ。普通はあり得ませんからね、討伐依頼を三つ受けてその日のうちに完遂させて来るだなんて。それこそ、ギルドカード金の方々くらいですよ」



 みんなが大して驚きを見せない理由が分かった気がする。


 俺が今日受けた依頼。

 結構な難易度だとは思ったが、こういう依頼を受ける人間もざらにいるということなんだろう。


 もうこの世に俺の命を脅かすような人間はいないと思っていたが、そういう化け物みたいな人間が少しでも残っているのであればもう少し魔王を続けていても良かったかもしれないな。



「そうだね。君の受けた依頼。特に『ダブルヘッドグリフォン』の討伐は僕が受けるつもりだったんだけど、優秀な冒険者に先を越されてしまったみたいだ」


「ん?」



 突然聞こえた声に視線を横に逸らせてみれば、俺が何度か魔王城で目にした所謂『勇者』ちっくな姿をした男の姿。


 目立ちたがりがさらに目立とうとキラキラと輝く黄金の装飾をこれでもかとつけたような鎧を身に纏った彼。


 自らはカッコいいとでも思っているのか、流し目でこちらを見据えるその様は男の俺からしてうざいことこの上ない。



「お前は?」


「おっと、申し遅れた。僕の名はアウテマ。見ての通り冒険者だよ」



 口を開くたびに微笑みを浮かべる男。

 妙に色気を感じる視線と笑みに寒気を感じて今すぐにでも殴り飛ばしたい衝動に駆られてしまう。


 だが、ここはギルドの中だ。

 しかも、俺みたいに昨日属したばかりの人間が問題を起こすわけにもいかないから、殴り飛ばしてしまいたい衝動を必死に抑えて笑みを返す。


 多分引き攣ったものになってるとは思うが、気にしないようにしよう。



「それで、その冒険者アウテマさんが俺に何の用だ? 知っての通り、アンタが受注しようとしていた依頼は終わってしまったからな、今更何か言われてもどうしようもないぞ?」


「はは。誤解させたのであれば謝るよ。別に僕は依頼を先に達成されたことに怒りを覚えているわけでは無いのさ。ただ素直に達成おめでとうと祝福してるだけだよ」


「そりゃどうも」



 皮肉を込めた冷たい礼を返してみれば、そんなに警戒しないでも良いよとばかりにこれまた笑みを浮かべるアウテマ。


 何がそんなに面白いのか知らないが、態度を見る限りコイツも面倒な類の輩みたいだしさっさと帰った方が良さそうな気しかしない。



「そんなに冷めた態度をとらないでおくれよ。せっかく僕が君のような駆け出し冒険者に声をかけているんだからさ」


「悪いな。アンタがどれほど偉かろうが俺はアンタのことを全く知らないんだ。敬意を払うことも出来なければ、相手にする気にもならない」



 もう関わるつもりは無い。

 冷たいようだが、コイツの傍にいると何故だか苛立ちが止まらないんだ。


 顔がイケメンだからなのか。

 それともコイツの先程からの態度が気に食わないのか。


 俺にも正直分からないが、このまま近くにいればそのうち殴り飛ばしてしまう。

 だからこそ、俺はその場を立ち去ろうと踵を返したんだが



「おっと、まだ僕の話は終わってないんだ。ちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃないか」



 アウテマのそんな言葉と共に俺の行く手を阻むように現れたのは三人ほどの男女。


 一人は屈強な男で背中に巨大な剣を帯刀していて、もう一人はそれとは逆に細身の男で武器は弓。

 残りの奴は日本でいうところのギャルみたいな雰囲気を感じさせる真っ黒に焼けた肌が印象的な女。


 何かを口の中に含んでいるのか、クチャクチャと音を立てながらこちらを見据える三人の姿は凄く鬱陶しい。



「どけよ。俺はお前らに構うつもりないぞ?」


「まだアウテマさんがお前に用があんだよ。人の話は最後まで聞く、これは常識だろ」



 そう言い放つ細身の男だけでなく、他の二人お同様にいいから話を聞いていけとばかりに睨んでくる。


 面倒事は避けたいところなのに、どうして世間は俺を放っておいてくれないんだろうな。

 俺が魔王だからなのか、それとも運がないだけなのか。



「分かったよ。それで、俺に話ってのは何だ?」


「素直になってくれて嬉しいよ」


「俺も暇じゃないんだ、手短に頼むぞ」


「そうかい。なら、無駄に遠回しに話すのは止めて単刀直入に言わせてもらおう。君、僕達と一緒にパーティを組まないか?」



 奴が口にした内容、それは意外にもパーティへの勧誘だった。

長くなりそうなので、ここで別けようと思います。

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