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ダブルヘッドグリフォン討伐戦

 ダブルヘッドグリフォンの容姿を簡潔に表すとしたなら、足が四本ある鷲に頭がもう一つある化け物と言えば良いのだろうか。


 巨大な身体つきに鋭い爪を持つ足を準備運動でもするかのように開いたり閉じたりを繰り返しているし、真下に佇む俺達を見据える四つの眼は餌として認識している物体を捉えて離さない。



「気をつけろよ、アイリス。奴の爪は岩をも簡単に砕くんだからな。捕まればひとたまりもないぞ」


「それくらい分かってます。タクマさんは人の心配をするより自分の心配をしてください」



 俺の忠告に顔を奴から逸らすことなく答えるアイリス。


 自分の力量で勝てるかどうかも分からない相手と遭遇したというのになんと勇ましいことだろう。


 もしも彼女の足が尋常じゃないほど震えていなかったら、素直にそう思えていただろうな。


 強がりを口にするのは勝手だが、今のコイツの実力じゃとてもあの化け物を倒すことは出来ない。


 アイリスの戦闘する姿を見ていなくとも、彼女のこの震えあがっている状態を見れば嫌でも分かってしまう。

 どうやら、結局は俺一人で仕事を片付けなければならない様だな。



「そうか。お前は勇者の末裔だもんな、心配する必要もないか。なら奴の攻撃をまともに受けないように頑張れよ?」



 俺はそれだけ口にして、上空を漂うダブルヘッドグリフォン向けてその場から飛び上がった。


 奴の攻撃スタイルは地球に生息する鷲のソレと変わらないものだ。

 上空から狙いを定めて一気に下降し、その鋭い爪をもってして獲物を捕まえ捕食する。


 時には捕まえた獲物を上空に運んで地面に落として絶命させてから捕食するといった残忍な方法をとったりするらしいが、主に生きたまま相手を無残に食い散らかす方がお好みらしいよ。


 おそらくは今回も俺達という獲物を上空から猛スピードで襲い掛かって殺すつもりだったんだろうがそうはいかない。


 相手の土俵に立つことは嫌いじゃないが、今回ばかりは早く依頼を終わらせたいんで俺から仕掛けてみるよ。



「そ、空を飛んでる……ッ!?」



 地面を蹴りダブルヘッドグリフォンの元まで飛び上がっていく俺を見据えて、驚いたようで困惑しているようなアイリスのつぶやきが耳に入る。


 まぁ、そりゃ驚くよな。

 だって、俺の跳躍力は人間の限界を超えた代物だし。


 魔族、それも魔王である俺だからこそ可能なジャンプ力。

 化け物を相手に視線を真下に向けてみれば、口をだらしなく開けて俺を見つめる彼女の姿。



「この程度で驚くとか、やっぱり最近の人間は退化したのかな」



 あの娘の先祖とかってなってる勇者ブレイブもこのくらいは出来たはずだ。

 人間でも鍛えればそれくらいにはなるということなのだろうが、あの頃の人間は今と比べれば化け物だったということだろう。


 そんな関係のないことを考えつつ、ダブルヘッドグリフォンと同じ目線の場所まで一気に飛び上がると



「驚いている暇がったら、攻撃するなり迎撃するなりしてみせろよなっ!」



 目を見開いてこれまた驚いたように硬直していた奴の片方の頭に踵落としを浴びせる。


 割と本気で放った一撃は奴の頭にめり込んで何かが砕けたような嫌な音を響かせた。

 おそらくは頭蓋骨が粉々に砕けてしまったんだろうな。


 俺の攻撃は少しの力を加えただけで全てが致命傷となる代物だ。

 言ってしまえば、力加減によってはデコピンですら命を奪いかねないんだよね。

 

 そんな俺の割と力を籠めた攻撃は、奴の身体から翼を羽ばたかせる力さえも奪い去ったようで、空から落ちてくる隕石の如く勢いをつけて地面に落下した。



「俺相手に余裕ぶってるからそうなるんだよ。まぁ、今回は素性を隠してたから気づけなかったんだろうけどな」



 もしも俺が魔王としての姿であの化け物の前に立っていたとしたら、奴も油断することなく逃げるか命を刈り取りに来たことだろう。


 今回は運が無かったということだろうな



「——とと、ただいま」


「た、ただいまじゃありませんよっ! なんなんですか今の跳躍力は! タクマさんは人間じゃ無いんですか!?」


「俺の何処が人間じゃ無いんだよ、見ての通り人間だ」



 アイリスの傍に着地してみれば、やはりというか寄って来て今の一瞬の出来事について問いただしてくる彼女。


 興奮しているのか鼻息は荒く、一応異性だというのに迫ってくる彼女は顔が密着するほど近くに寄せていても気にならないみたいだ。


 大きな二つの碧眼からは先程までの恐怖や困惑と言った感情は無く、あるのは尊敬の眼差しと言ったキラキラと輝くものだけだ。

 余程彼女の眼には俺が英雄か何かの化身に見えたんだろうが、残念ながら俺は魔王。


 英雄でも無ければ勇者でもない。

 口に出せば問題しか生まないから話すことは無いけど。



「それよりアイリス、油断するなよ。まだ奴を俺達の土俵に引きずり落してやっただけなんだからな。まだ奴は死んでないぞ?」


「えっ? でも、さっきの見事な踵落としはあの化け物の頭を砕いていたではありませんか。流石のダブルヘッドグリフォンと言えど——」



 余裕を見せている時ほど油断ならない時は無い。

 俺がそう思った瞬間に、ソレは起こった。


 一瞬の出来事だった。

 ダブルヘッドグリフォンの落ちた場所に舞い上がっていた砂煙の中から、巨大な火の玉がこちらに向かって飛んできたのだ。



「——ッ!」



 俺はすぐさま目の前で余裕を見せて安心しきっていたアイリスの身体を片手を使って引き寄せ、残った腕で襲い掛かってきた火の玉を受けとめた。


 瞬間、腕に伝わる熱。

 まるで、アツアツに焼けた鉄板を素手で触ったような感覚を指先に感じて顔が歪むのを感じた。



「だぁっ!」



 受け止めていた火の玉を握りつぶし、奴の攻撃から我が身とアイリスの身体を守ることに成功した俺だが、尋常じゃない程の熱を帯びた球を受けた手は真っ黒に変色。


 皮も焼け爛れてみるも無残な状態だ。

 まぁ、しばらくすれば治るものだから別に構わないけれどさ。



「あ、あ、あぁ……」


「まだ奴との戦いは終わってない。頭を砕いたって言っても片方を殺っただけだ。安心するのはまだ早いんだよ」



 俺はそれだけ告げて胸の中で怯えたように震えるアイリスを解放し立たせる。

 そして、ついさっき俺の手をこんなにしやがった化け物がいるであろう砂埃の中に向けてもう片方の腕を伸ばすと



「自分が放った火球よりも熱い灼熱の炎で、地獄の苦しみを味わいながら死にやがれ。《ヘルザフレイム》」



 炎属性の最上級魔法を放った。


 瞬間、その場所に吹き荒れるのは熱風。

 今頃砂埃中では俺の使った魔法によって召喚された炎が、ダブルヘッドグリフォンの身体を容赦なく焼き払っていることだろう。


 勢いあまって骨まで焼き尽くさなければ良いんだけど。



「あの……」


「ん?」



 冒険者故の心配事を頭に浮かべていた俺に控えめな感じで話しかけてくるアイリス。

 その視線は俺の顔では無くて、先程火球を受けとめた腕に向けられていた。



「何故、わたしをかばってくれたんですか……。あなたならあんな攻撃、わたしを置いて避けることくらい出来たのに」


「んなもん、今回限りとは言っても仲間だからだ」


「明らかにわたしは邪魔者だったではありませんか! あなたはわたしに言いました、邪魔だけはするなと!」



 瞳に涙を浮かべて告げるアイリス。

 言葉の中に含められた感情は後悔だろうか。


 自分のせいで人が傷ついてしまったんだ。

 そう思ってしまうのも無理は無いことだが、俺からすれば別に大した問題ではない。


 だってすぐ治る傷だし。


 そんなことを考えていると、突然アイリスは俺の焼け爛れた腕をか細い己の手で掴んできた。



「痛ぇッ! 何すんだよッ!」


「わたしをかばったせいで出来た傷なのです。わたしが治さなくてどうするんですか!」


「治すって、お前治療魔法でも使えるのか?」


「……使うことは出来ませんが、こんなこともあろうかと薬草をたくさん持ってきてあります。心配しないでください、絶対治してみせますから!」



 そう言って腰のポーチに手を突っ込んだアイリスが取り出したもの。

 ソレは、紫色だったり真っ赤だったりと、いかにも毒薬みたいな色をしたお世辞にも傷に効果がありそうなものではなさそうな薬草。


 なんだか刺激臭もするし、確実に使ったら腕に激痛が走るのではないか。

 そう判断した俺は、すぐさま腕を掴むアイリスを離そうと試みるんだが



「暴れないでください! 絶対っ、絶対効果がありますから!」


「そんな薄気味悪い色をした薬草、使ったら腕が腐るわ!」


「効果はわたし自身で実証済みですから! わたしに全て任せてくださいぃ!」



 女の子の力とは思えない強力な握力で俺の手を離さないアイリス。

 効果自分で実証済みとか言われても、俺としては放っとけば治る傷なんだし無駄に冒険したくないんだ。


 だからこそ、俺はアイリスを拒む。

 しかし、アイリスもそんな俺にどうにか薬草を使ってほしいと言ってきかない。


 そんな押し問答が続き、結局心の折れた俺が薬草を塗ってもらうことで、この議論は終了することになった。

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