第1話 なんか俺、死んだみたいなんですが…。
俺はただの、東大目指して勉強していただけの、高校3年生だったのに−−−
『ようこそお出でなさいました、沖田悠斗様。私、女神のアリエルでございます。以後お見知りおきを』
−−−目が覚めるとそこには女神がいた。いやマジで。え、何言ってるかわからないって?俺が一番分かんねえよ馬鹿野郎。…待て待て落ち着け。少し混乱しているな、整理しよう。
『とは言いましても、貴方と私の関係などすぐに切れますが。とりあえず私の話を聞いてもらっても宜しいですか?』
まず、目の前に自称女神。いや、確かに人間っぽくない容姿をしているのは分かる。顔は文句の付け用のない程に整っていて、背中には大きな羽根が2つ付いている。背丈は俺よりも低いくらいで、女にしては高めだ。美しい金髪が首元まで伸びている。おっぱ−−−胸部が少し寂しい気もするが、それを補うほどの美貌だ。スレンダー美人のコスプレ中二病か…属性を詰め込み過ぎだろ。
次に、ここは何処だ。辺り一面真っ白で、無機質で、壁が見えないほどに広大で−−−。ふと、自分の腕時計を見てみる。だが俺の自動巻式時計は1月1日0時きっかりを指して動く気配は無かった…。
そして、何より体がとても軽いんだが…。最近はどんだけ寝ても疲れが取れなかったのに、何よこれ。アレか。勉強し過ぎてそろそろ体が壊れたか。
『未だよく働いていないその頭で良く聞きなさい。いいですか、貴方は亡くなったのです。簡潔に言うと、ここは天国の説明をさせて頂く場所でございます』
コスプレ中二病の痛い美人、見たことない場所、俺が死んだという話…。
なるほど、夢だな。あれだよ明晰夢ってやつだよ、よく知らんけど。なんか体が軽いと思ったんだ。夢から覚めたら勉強しなきゃ…。そういや昨日って勉強何やったっけ…。
『もう一度言いますよ。死んだんです、貴方。沖田悠斗。男。18歳。生年月日は地球人類歴で20xx年5月21日午前11時38分。血液型はO型。身長176cmの右利き。20xx年1月xx日7時43分、センター試験に向かう途中で交通事故に遭い、その生を全うされました。』
そうだ、そこの女神に言われて思い出した。昨日はセンター試験があったんだ。1日目の英国社を受け−−−うん?記憶が無い。俺は試験に向かった。確かに向かった。そこまでは鮮明に記憶にある。あれ、その辺りから記憶が真っ白−−−
『記憶がないのは当然です。貴方、死んだんですから』
「あれ、女神さん。俺ってもしかして死んでる?」
『はい。それにつきまして、貴方にはこれから天国の仕組みについてお話しさせて頂きます』
なるほど、道理で記憶が無い訳だ。死んでるならそれも当然である。納得納得。
「は、はぁ。とりあえず状況は把握しました。一つだけ質問があるのですが」
『はい、なんなりと』
「ここからどうにか現世へ帰れませんか?」
『致しかねます。それでは話を続けさせていただきます。地球に輪廻転生のお話がありますが、天国のシステムはアレと似たような物でございます』
へえ、魂ってマジで輪廻転生するんだ。仏教もやるじゃん。天国のシステム当ててやがる。
「なるほど。女神さん、ちょっと良いですか」
『はい、なんなりと』
「とりあえず元の世界に戻して頂けます?」
『致しかねます。話を続けます。つまり言えば、天国とは輪廻転生するまでの待機場所のようなものでございます。天国にて神様に現世での貴方の行いを判定して頂いた後、転生先を決定致します』
なるほど。要は神の審判の順番待ちなのね。
「よし、女神さん!ちょっとお願いがあるんだけど」
『致しかねます』
「ちょっと待てよ!せめて内容を聞いてくれよ!」
『致しかねます』
「どうしろってんだコンチクショウ!」
無慈悲な現実を告げられ、少し頭がクラっと−−−しなかった。死んでんだもんな。そりゃしないか。
俺の執拗な現世への未練を汲み取ってか、一つため息をつき、今度は女神が俺に質問をしてきた。
『はぁ…貴方の行いは軽く目を通したところ、良好そのものです。この調子だと次もまた人間として生まれ変われるでしょう。問題は、その未練の強さです。』
「はぁ…未練ですか」
『はい。神様の判定基準において、未練はマイナス査定の筆頭でございます。それさえ何とかされれば−−−』
「無理です」
自称女神は言葉を遮られて、ムッとした表情を返す。
『何故そこまで現世に拘るのですか?もしかしたら来世では美少女達とのハーレム生活が待ってるかもしれないのですよ?』
「…だ、騙されないぞ」
『まぁ、ゴキブリとして生まれ変わって人間に叩き潰されて死ぬ運命も無きにしもあらずではございますが』
よし、その一言で来世の誘惑は消え去った。
「…そういう事じゃなくてさ。なに、その、やり切れない想いとか、そういうのもあるじゃない?」
俺には幼馴染がいる。ひたすら俺のことを応援してくれていた彼女に−−−
「…俺はまだ大切な人に、何も伝えられていないんだ」
彼女は勉強ばかりしていた俺を、ひたすら応援し続けてくれた。東大目指すとか言って、親に呆れられた時も、彼女だけは笑わずに聞いてくれた。
「…だから、現世じゃないと、意味がないんだよ…」
そんな彼女に、俺は何かをしてあげられただろうか。
『−−−貴方の言いたい事は分かりました』
マジかよ女神さん!女神なのは見てくれだけの口の悪い悪魔だと思ってたよすいませんでした!
「ま、マジですk−−−」
『でーーーすーーーがーーー、』
おや、なんか悪い予感。
『規律上そう簡単にはいかないのでございます』
「そ、そこをなんとk−−−」
『そーーーこーーーでーーー、』
その女神はちょっと勿体ぶってから、キュートな笑顔でこう言うのだ。
『ちょっとお使いを頼まれてもらっても、よろしいですかぁ〜?』
…ほう。お使い、とな。
「と、言いますと?」
『いやぁ〜、実を言いますと、女神の仕事量ってマジ日本の中小企業並に多いのですよぉ〜』
なるほど、それは多いな。土日出勤か。女神も楽じゃないんだな。どうも胡散臭い気がするが。
『そこでそこで〜。どうでも良すぎて手を着けるのも面倒なオシゴト、ひと〜つだけ、頼まれて頂けますかぁ〜?』
「ねぇ、仮に断ったりしたらどうなるのそれは?」
『いえ、どうにもなりませんよ?』
「あー、良かった。それじゃあ悪いんだけど−−−」
『私が神様に直談判してゴキブリとしての来世が貴方を待ち受けることになるだけでございます』
目がマジだった。
「…冗談だよ。そもそも断る気なんて無いしな」
『私は断ってもらっても一向に構いませんよ?』
「はいはい。それで、どんなお使いなの?」
頼む、日本のお役所仕事並に楽な仕事であってくれ…!
『この手紙に書いておきますので』
「勿体ぶんなよ!!」
もう十分引いただろ!
『いえ、説明すると長くなりますし、何より私が面倒くさいのでございます』
「分かりました。この事を神様に言いつけておけばいいんですね?」
『どうやって貴方が神様とお話をされるつもりなのでしょうか…』
マジなツッコミが来た。冗談なのであくして下さい。
『まぁ、”向こう”に着けば分かることです。もしお使いを終えることが出来れば、私自ら神様に掛け合って差しあげましょう。ではでは〜♪』
そして視界が暗転した。
「−−−あれ、また俺気を失って…」
目が覚めると、そこは真っ白な先ほどの場所ではなかった。目の前に広がるのは一面の大草原だった。…何故に草むらに落としたあのクソ女神は。
ふと、空からヒラヒラと白い封筒が落ちてくる。取ってよく見ると、中には手紙が入っているようだった。
「あぁ、そういやあのクソ女神のお使いする事になったんだっけ…」
寝起きの弱い頭で先程のやり取りを思い出す。あぁ、そうか。俺ってさっきまで死んでたのか。
苛立って、少し封筒を強引に開ける。その書き出しには−−−
『貴方には、魔王を倒して頂きます』
本当に、俺はただの、東大を目指して勉強していただけの、高校3年生だったのに。
もう、どうしてこんな事に−−−
ちょっと長め、だったかな?
受験勉強の逃避で書き始めました。
基本ファンタジーやアクションよりギャグ濃い目のつもりです。
恐らく亀更新なので、その辺よろしくお願いいたします…。
ではでは〜♪