表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rose Red ~赤薔薇の瞳~  作者: 蒼川 沙夜
課外授業編
7/20

第6話「旅のはじまり」

翌朝、メルは黒いジャケットにミニスカート、黒いロングブーツ、そしてつばの広い黒い帽子という出で立ちで校門前にいた。必要最低限の荷物と、右手には杖を持っている。

杖は、片翼を模した形をしており、その翼の中心には赤くて丸い珠が嵌っている。先端は刺されたら痛そうなほど尖っていたが、ゴムか何かで先は保護されていた。


校門前には、すでにクロトがいた。

クロトは袖なしの白いパーカーにジーンズと茶色のワークブーツという出で立ちだ。

メルより重そうな荷物をいくつか抱えている。

それは、学園で支給されるテントなどの備品類で、原則としてそういう備品は守護者の方に持たされることになっている。

よって、メルの荷物は自分で必要なものだけで十分だ。いつでも両手が使いやすいよう、ピンクの可愛らしいリュックサックを背負っている。


「待った?」

恋人に向けるような台詞だなと思いつつも、メルはそう声をかけた。

「そうでもない」

クロトは素っ気なく返した。メルは、本当にこの先この人と一緒で大丈夫なんだろうかと早速不安に駆られる。

とりあえず、この先を上手くやっていくにはクロトともう少し仲良くなることは必要だ。

何より、悪魔との戦闘で支障が出るかもしれない。

(そうだ、これからは外…悪魔に襲われるかもしれないんだ…)

言い知れない不安がメルの心を覆う。


ところで、この世界でいう「悪魔」という存在についてだが、実のところ詳しいことはよくわかっていない。

ある時突然人間社会の中に現れ、人々に取り憑いてはその精神・魂を喰い殺し、便宜上そう呼ばれるようになった。

一説としては、ここではない別の世界からやって来た侵略者ではないかと囁かれている。

実際に悪魔は神出鬼没で、常に人々の生活を脅かしている。

悪魔は特徴として、負の波動を好む。

悪魔は人間の魂の負の感情を好み、取り憑いて負の波動を増長させ、魂を喰らうのだ。

対して魔祓い師から発せられる聖なる力を忌み嫌う。魔祓い師が持つ聖なる波動は悪魔を浄化する力があり、悪魔に対する唯一の対抗手段なのだ。

そのため、魔祓い師は優先的に悪魔に狙われる。

それを守るために守護者がいるのだが…


(ホント、大丈夫かなぁ…)

メルの不安を感じているのかいないのか、クロトはさっさと校門をくぐって先に行ってしまう。

「あ、待ってよ~」

「遅い」

早速カチンと来たメルだが、ここはぐっと抑える。

「ちょっと一旦止まって。あなたに渡さなきゃいけないものがあるの」

それを聞くと、クロトは立ち止まった。

「何?」

「はい、これ指に嵌めて」

メルが渡したのは指輪だ。真っ赤な赤い石が嵌めこまれている。同じものがメルの右手薬指にも嵌まっている。

「誓約の指輪? そっか、まだ貰ってなかったな」

クロトは素直に受け取る。どの指に嵌めようかと指輪を色んな指に付けたり外したりしている。

構わずメルは誓約の指輪に関して説明を始める。

「効果は知ってると思うけど、一応言っておくわ。その指輪を嵌めていれば、もし私があなたの傍を離れていてもその指輪が感知してくれる。逆も然り。ただし、危険が迫ってるときにしか反応してくれないのが不便なところなんだけど」

「基本だな」

クロトはため息をついた。そんなことは言われなくてもわかってると言いたげに。

メルはムッとしながらも続きを話す。

「それでここからが重要なんだけど、この指輪、魔祓い師の能力の特性によって追加効果があるのよ…」

クロトは初めて興味を示した。

「どんな?」

「んっと…簡単に言うと、魔祓い師にはいくつか傾向というか…タイプがあるのよ。代表的なのは"攻撃タイプ"・"補助タイプ"・"守護タイプ"。タイプによって得意な術に偏りが出てくるわね。例えば、守護タイプの魔祓い師の力が篭った指輪には、守護者が危機に陥った時に自動で結界を張ってくれたりとか」

「便利だな」

「でも、常時発動するわけじゃない。ランダムよ。こればっかりは運が作用する」

「なるほど」

「そして私のタイプは…」

メルは視線を泳がせるが、意を決して言う。

「わからない」

「は?」

さすがにクロトはこの一言に目を丸くする。

「そのぅ…測定不能って出ちゃってね…。結局何が言いたかったかって言うと、その指輪の効力は未知数ですってこと」

何でもかんでも使う術が暴発しまくるメルには、タイプの測定が出来なかったようだ。

それを聞いたクロトは盛大にため息をついた。

「もう色々諦めてるよ…」

クロトは右手で頭を掻いた。どうやら指輪は右の中指に嵌めることにしたらしい。

「そ、そういうわけだから、何が起きてもいいように覚悟しててね! クロ!」

クロトはぴたりと動きを止めた。

「…今なんつった?」

「"何が起きても…"」

「その後!」

「ああ、"クロ"?」

メルは無邪気に笑う。

「友達にまだ守護者の人と打ち解けられないからどうしようって相談したら、あだ名とか愛称でも決めれば?って言われたから…」

どうやらリーザに掻い摘んでクロトとの仲を相談したらそうアドバイスを受けたらしい。

「だからってなんでそんな猫みたいな呼び方になるんだよ!!」

メルなりに精いっぱい考えた呼び方だったのだが、どうやらクロトはお気に召さないらしい。

しかし、顔を真っ赤にして「普通に呼べ!!」と怒るクロトの反応がメルには何故だか面白く思えてきた。

「呼び方は変えません♪ これから"クロ"って呼ぶから、あなたは"あんた"とか"お前"じゃなくてちゃんと"メル"って呼ぶこと! これはマスター命令です♪」

さすがに仮とはいえ、命令されてしまったクロトは口を(つぐ)むしかなかった。

守護者にとってマスターである魔祓い師の言うことは絶対。

命令されてしまえば、それに逆らってはいけないと教えられている。ただし、魔祓い師側も不用意に命令するのは禁止されている。

「卑怯だぞ!!」

クロトは抗議する。

「これは私たちの親睦を深めるために必要なことです。仮とはいえ、ある程度の信頼関係がないと悪魔との戦闘に陥った場合、不利な状況に立たされると考えられます。よって、これは必要な命令です」

クロトはぐっと言葉に詰まる。

確かにメルの言うとおり、今の自分たちの関係だと悪魔との戦闘では必ず不利になることはクロトも想定していた。

だから、メルとある程度の信頼関係を築かなくてはならない。

「だからって…」

「そういうわけで、早速イルティアムに行くわよ、クロ!」

もう何を言っても聞いてくれそうにない。

むしろその呼び方に慣れてしまいそうだ。

クロトは肩を落としながら、意気揚々と前を歩くメルの後を追った。



イルティアムとは、小さな山の頂上に建つ学園から一番近い街の名前である。

時折長期休暇があると、家に帰って家族と過ごす学生とそうじゃない学生に分かれる。

その居残り組の学生たちの休暇中の楽しみとなるのが、この街での買い物だったりする。

普段必要な物資は学園で注文して手に入れられるが、このときだけは普段出来ないショッピングなどをこの街で過ごすことが出来る。


学園からやって来たメル達は、まず3時間かけてこの街に辿りついた。普段運動をすることのないメルには少々きつい道のりだが、クロトは余裕そうである。

「とりあえず宿を取ってくるから待ってろ」

と言い残し、今クロトは宿のカウンターで手続きしている。

メルはその入り口でクロトが戻るのを待っていた。

やがてクロトは戻って来た。

「二階だ」

クロトに連れられ、指定された部屋へ行く。

着くと、メルはきょとんとした。

「一部屋だけ?」

少し言いづらそうにクロトは説明する。

「ちょうど個室が一杯だったらしくて。ここしか取れなかったんだ。」

ドアを開けると、ベッドが二つあった。

「…じゃ、仕方ないわね」

メルはあっさり受け入れた。クロトは驚く。

「嫌がんないの?」

「ここで我儘言っても仕方ないじゃない。この街に宿は一つだけなんだし。それとも、あなた私のこと襲う気なの?」

「滅相もない」

全力で首を振る。

「でしょ? 別に同じベッドで寝るわけじゃないんだからいいじゃない」

と言って、メルはさっさと自分のベッドを決めてその上にダイブする。

(…肝が据わったお姫様だなぁ)

クロトはそんな風に感心(?)しながら、ドアを閉めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ