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Rose Red ~赤薔薇の瞳~  作者: 蒼川 沙夜
課外授業編
5/20

第4話「運命のいたずら」

翌日、メルはまたしても校長室に呼びだされていた。

パートナー申請期限前日である。

結局、メルは自力でパートナーを見つけることが出来なかった。兄のほくそ笑む姿が容易に想像できる。


「はぁ。仕方ないわよね」

意を決し、メルは校長室のドアを叩く。

「どーぞー」

中から間延びした声が聞こえる。

メルは扉を開け、素早く中に入り閉めた。

「……」

「ふっふっふ~♪」

思った通り、フレドは上機嫌だ。

「どうだい? メル。パートナーは見つかったかな~?」

「分かってて聞いてるならタチが悪いわね。兄様なんて大っ嫌い」

兄に一番効果があるワードをためらいなくメルは吐き捨てる。予想通り、フレドは急にしんなりする。

「だ、大っ嫌いって…大っ嫌いって…!! わかったよ、悪かったよ、ごめんよメルぅぅぅ…っ! もう嬉しそうな顔なんてしないからぁぁぁぁぁぁっ」

本気で落胆している。

「分かったなら早く用件済まして」

メルは呆れながら先を促した。

「うん…セシリア、渡して」

「はい」

隣で控えていたセシリアが、メルに資料を渡す。

「それがこれから君のパートナーになる守護者(ガーディアン)の情報」

資料に目を通した途端、メルは血相を変える。

「こ、これは…!!」

「進路変更届けを出そうとしてたけどなんとか阻止したんだよ~。ありがたく思ってよね~。でも、まさか彼がまだ残ってるとは僕も思ってなかったんだけどね~」

フレドは一人で勝手にあれこれ語る。メルは驚愕し、何も知らない兄を呪いたくなった。


そこに書かれた名は…"クロト=ランティアス"


途端に、メルの中で昨日の出来事が思い出された。

何故、よりによって昨日大ゲンカした相手と兄の策略でパートナーを組まなきゃならないのか。

いや、それよりもだ。

どうしてこんな大事なことを兄に決められなきゃいけないのかという怒りが再燃しはじめていた。

こんな最悪な人選になるくらいなら、進路変更届けでも出した方がマシだ。自分の実力は担任なら知っているし、仕方ないとなんとか取り計らってくれるはずだ。そうだ、最初からそうすればよかった。

どうして今年17歳になるというのに兄に何でもかんでも決められなきゃならないのか。メルの怒りは最高潮に達しようとしていた。それが単なる逆ギレだとわかっていてもだ。



そして話は冒頭に戻る。



この日、クロトは運が悪かったのかもしれない。

昨日、結局パートナーを見つけられず、諦めて進路変更届けを出そうとしたところ、守護者科総合責任者・セシリア=グーセンバルグは受理してくれなかった。

『クロト君、校長から直々にあなたとパートナーを組んでもらいたい魔祓い師科の生徒がいるそうです。明日、校長室に来てください』

『え、でも届を…』

『その届は受理いたしません。とにかく明日、校長室に来るように』

このように押し切られてしまったのだ。


仕方なく、クロトは校長室に向かった。

校長室は魔祓い師科にある。本音を言うと行きづらい。

「なんで校長に無理やり組まされなきゃならないんだよ…」

いくらなんでも、自分には抗議する権利がある。

はっきり言ってやろうとクロトは校長室の前で気合いを入れ、ノックをしようとした。

すると、思いがけないワードが幾つか扉の向こうから漏れ聞こえてきたのである。

声は三人。内二人は校長と副校長のものだろう。あと一人は少女の声だ。しかも聞き覚えがある。

(この声、昨日の…)

クロトは、昨日喧嘩したローズピンクの髪をした女生徒のことを思い出す。

(な、なんであいつが…!!)

それで様子をみようとして扉に耳を押しつけていたのがいけなかった。クロトの耳には、「兄様」とか「おにいちゃん」とか、「メル様」というワードが聞こえた。

(メル様?)

しばらく聞いていると、それは「メルティア様」に変化した。

(え!? メルティア様!?)


この国の姫であるメルティア=アールシェイドとは、とにかく謎な存在だ。

幼い時からあまり公の場に現れることはなく、本当に存在するのかさえ疑われたこともあった。

ただ、時折式典などに参加する姿が見受けられ、存在することだけは実証されている。(だが、未だに一部の人の間では、あれは影武者で姫がいると思わせているだけだという説を唱える者もいるらしい)

そして姫は常に顔を隠し、声を発することもせず、短い時間だけしか国民の前に姿を現そうとしない。


そんなわけで、この国の者でちゃんとメルティア姫という人物を知っているのはごく僅かで身近な人間だけ。クロトが入学した時も、姫の入学が囁かれたことがあったが、その噂は時間とともに消えていった。

その国一番の都市伝説の名前が何故ここで?

いや、わからなくもない。

メルティア姫はフレディオ校長の妹だ。二人が今ここで会っているのなら別におかしいことはないだろう。その現場に、自分が今居合わせているだけだ。

ただ、おかしいのは声は三人分で、三人とも一度聞いたことのある声だということ。ということは、つまり…?

クロトの中である結論が出ようとした頃、扉は唐突に勢いよく開けられた。中にいる人物はクロトの想像通りで、昨日であったばかりの少女はクロトを見るなり気を失った。



五分後。

「あー、うんー、えっとー、とりあえずみんな落ち着いたかなぁ?」

しんと静まり返った校長室で、フレドが最初に口を開いた。

メルはセシリアにもたれながら、まだ顔を青くしてる。そのセシリアはメルの背を優しくさすっていた。

クロトは二人の向かいに座り、二人の様子を眺めている。フレドはクロトの方を向く。

「まだメルの方は良くなさそうだから、先に僕らの関係を説明しよう」

「…是非、お願いします」

大体の想像はついていたが、クロトは本人たちの口から語られるのをずっと待っていた。フレドは言う。

「まぁ、もうわかると思うけど、そこにいる女生徒・メル=リーマスは僕の妹、正真正銘メルティア=アールシェイドその人なのですっ」

クロトはため息をつく。

「な、なんで名前を変えてまで…?」

「う~ん、その辺は複雑な乙女ゴコロってやつ? メルの方がそう希望したから、僕らはそれを受理しただけ。聞きたいなら後で本人に聞くといい。時間はたっぷりあるんだし」

なんだか含みのある言い方だ。クロトは首を傾げる。

「それからクロト君、この事は他言無用にね」

「…はぁ」

そんなこと言いふらしたところでクロトには何のメリットもない。デマだと鼻で笑われるのがオチに決まっている。

しかし、クロトは校長の次の言葉に凍りつく。

「もし、君のせいでメルの正体がバレそうになったりしたら退学処分も辞さないつもりだからそのつもりでね☆」

「…………………はぁ!?」

クロトは思わず校長の方に身を乗り出す。

「な、なんでそんな話になるんですか!!」

「当然だろー。我々最大の秘密を君は知ってしまったわけだし。それに、これからメルと旅に出てもらうんだからそれくらいの危機感は持ってもらわないと」

「………………………………はぁぁぁっっ!!!!?」

クロトはさらに驚く。

(この人今何つった!!)

「メルの方にはもう話したけどね、これから君たち二人には課外授業が終わるまでの間、パートナー組んでもらうよ。これもう決定事項だから」

クロトは顔を青くし、ソファに身を沈める。

メルの方をちらりと見る。まだ気分は落ち着いてなさそうだ。

(ああ…俺も気分悪くなってきた…)

クロトは頭の奥の方で鈍い痛みを感じ始めていた。

構わずフレドは続ける。

「君を呼びだしたのもその話についてだけだったんだけどね~。まさか秘密がばれちゃうとは思ってなかったなぁ。途中でメルがエキサイトしちゃうから」

そこでメルは兄をキッと睨みつける。

フレドはその迫力に一瞬気圧されるが、さらに続ける。

「こうなったのも仕方ない。むしろ都合がいいかもしれない。というわけで、クロト君」

ここでフレドはクロトの方へ顔を寄せ、低い声で言う。

「君はただのメルのボディガードだ。退学が嫌だったらしっかりメルを守りたまえ。もちろん拒否は受け付けない」

「そ、そんなぁ…」

「それから」

フレドは先ほどから浮かべていた笑顔から急に真顔になった。

「万が一にも、僕の可愛い妹に手を出したりしたら…わかるよね?」

「………!!」

(この人勝手だーーーーーーーーー!!)

クロトは思わず立ち上がった。声を荒げていい放つ。

「だ、誰が! こんなちんちくりん!!」


「「ちんちくりん!!?」」


フレドとメルの声が重なった。

「あんたに言われなくても手なんて出すか!! 俺もう戻ります!! 失礼しましたっ」

クロトは大股で校長室を出ていった。

出る時に扉をかなり乱暴に閉めていくものだから、ピシャンという音が室内に響く。

一気に室内は静かになった。

「………」

「怒らせてどうするんですか」

責めるようなセシリアの一言。

「う~ん…、まぁ仕方ないかな。それにしてもちんちくりんはないだろう。こんなにかわいいのに…」

フレドはデレッとした顔でメルを見るが…

「全部兄様のせいよ」

「えぇっ」

「同意します」

「セシリアまでっ」

二人の冷たい視線がフレドを貫く。

「大体人選がひどいのよ」

メルはぽつりと呟く。それをフレドは聞き逃さず、首を傾げる。

「どうして?」

問われたメルは、渋々昨日の話をした。



「あっはっはっはっは!!」

話を終えると、フレドは爆笑した。

「ひっどーい!!」

メルは顔を赤くして抗議する。

「ご、ごめんごめん! でもそっか、なら、尚のこと彼で良かったかもしれない」

フレドは笑いながらもそんなことを言う。

「はぁ!?」

メルは予想通りの反応を返す。

フレドは理由を述べる。

「だってそうだろ? 彼は守護者としてはトップクラスの成績を持っている。これに不満を持つ人はいない。加えて、僕らの秘密を知ったいわば共犯者。釘も刺しておいたから、君のことはきっと最優先で守るよ。彼、基本的に真面目だから」

「それはわかったけど、私と彼が仲が悪いのがどこがいいのよ」

「パートナーを組むとカップルが出来やすいだろ? お兄ちゃん、まだメルには早いと思うんだよね。というか僕が認めた奴じゃなきゃ許さない」

メルとセシリアは顔を見合わせ、肩を落とす。そんな理由か。

ここでフレドがメルの恋人の条件はどうだとか、そもそも恋人なんていらないんじゃないかとか、好き勝手話し始める。

「メルさん、もう時間も遅いですし寮に戻られては? このままここにいると帰るタイミングを失います」

セシリアの一言にメルは頷く。スイッチが入ると兄はもう止まらない。

「…失礼します」

メルはセシリアの好意に甘えてそそくさと退室した。


メルがいなくなった後、二人はこんな会話をした。

「くっくっく…とりあえずこれで丸く収まったね!」

フレドは上機嫌だ。

「ご自分の思い通りに事が進んでさぞご機嫌でしょうね」

「その棘のある言い方はなんだよー」

頬を膨らまして抗議の目を向けるフレドに、セシリアは不敵な笑みを返す。

「私はそう簡単に行かないと思いますけどね」

「何が?」

「あなたは二人の不仲を利用して組ませたでしょう?」

そう、フレドはあらかじめメルとクロトの昨日の出来事を知っていた。(セシリアを密偵として一日メルの行動を見張っていたのだ。)

その上で二人を組ませたのである。

「そう簡単にあなたの思い通りにはならないと思います」

「…何それ?」

「女の勘です」

セシリアは意味ありげな言葉を残して一度校長室を出ていった。残されたフレドはセシリアの言葉の意味を考えていた。

「まさか、あの二人が恋愛関係に発展するとでも? 無いと思うけどなぁ…」

一人残された校長室で、フレドは呟いた。

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