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Rose Red ~赤薔薇の瞳~  作者: 蒼川 沙夜
課外授業編
3/20

第2話 「守護者(ガーディアン)」

同日、守護者ガーディアン科。


守護者科にはいくつもの訓練施設があり、その中の一つにドーム型の広域訓練施設がある。そこでは守護者ガーディアン候補生の生徒達が日々技を磨き、鍛錬に励む姿が見られる。

今日はそこで模擬試合が開かれていた。内容は武器使用不可での組み手。

現在、施設の中心では二人の男子生徒と審判役の講師がおり、残りの生徒達は通路脇や吹き抜けの二階部分から観戦している。

勝負はつこうとしていた。

二人の生徒の内、茶髪の男子生徒は黒髪の男子生徒の猛攻に防戦一方。やがて隙をつかれ、思い切り背中から叩きつけられる…。


「――――止め!!」


講師の口から試合終了を促す言葉が告げられる。

二人は指定位置に戻り、互いにお辞儀をすると、素早く試合場を後にする。


黒髪の少年は会場を出て、すぐに二階にある更衣室に向かおうとする。


すると…

「クロト!」

少年は振り返る。そこには親友の姿があった。

「ロン」

「おつかれ!」

彼は屈託のない笑みを少年に向けながら水筒を手渡す。

「お、サンキュー」

「いんや。…それにしても、綺麗に決まったなー」

「見てたのか」

「そりゃな。みんな見るだろ、お前の試合だったら。さっきだって、魔祓い師科の女子がわんさかいて、キャーキャー言ってたぞ」

「げ、まだいんのかよ…。もうほとんど課外行ってんだろ?」

「そうみたいだけど、行かない子たちばっかなんじゃない?」

「…」

「それだけじゃなくて、やっぱ見るだろ? 学年序列第一位トップ様の試合」

親友・ロンはわざと嫌味っぽく聞こえるように言った。

少年は顔をしかめる。

「別に…いつものことじゃん」

「そうだけど、やっぱお前の時だけギャラリーが多いんだよ。なんもなくても」

少年は大きくため息をついた。


この少年、名をクロト=ランティアスという。


この守護者ガーディアン科では、実力主義で主に実技訓練の結果で成績が決定する。

それを「序列」と称してわかりやすく成績表示をする。

それから、先ほどのように実践訓練が多く取り入れられるため、競争も激しい。普段から生徒達は上の順位を目指そうと鍛錬に勤しむ。

ちなみにクロトの序列は一位。

これは学年ごとで表示されるため、彼は学年で一番強いということになる。

(※序列一位になるためには、実技だけでなく座学でもそれなりの成績を取らなくてはいけない)

おまけに彼はその少し冷めたような印象のせいか、はたまたそのルックスのせいか、学年で一番モテたりする。

本人にはあまりその自覚はないのだが、それでもこのパートナー探しの期間中は嫌というほど女子に迫られ、若干女子に対して嫌悪に近い感情を持っている。


そのクロトの隣にいるのは序列第五位のロンダー=ハウマンス。愛称はロン。クロトの親友であり、ルームメイトでもある。

容姿は整っており、アイボリーの髪は少し長め。澄んだスカイブルーの瞳をしている。背はクロトより高く、長身。

(余談だがクロトは決して背が低い方ではないが、ロンと並ぶと背が低いと錯覚されやすく、それ故に少し身長のことを気にしていたりする)

彼もその人柄やルックスで女子からの人気の票を集めており、成績も優秀だ。


すると、ロンが少し話題を変えてきた。

「にしてもさー、やっぱお前すごいよ」

「何が?」

ロンの言葉にクロトは軽く首を傾げる。

「そのハンディキャップで入学以来不動の一位に君臨し続けてるってとことか」

「はあ…」


クロトには、大きな特徴がある。

彼は大きな眼帯で右目を覆っている。それをさらに隠すように前髪は右側だけ伸びきっている。

ロンが言うように、大きなハンデを背負っているが、努力と実力だけで今の地位を築き上げているのだ。


だが、学年一位にはあるメリットがある。それは…

「だって、学年一位だと一部奨学金免除じゃん」

「うわー、金のためですか…」

「うるせ。仕方ないだろ。超貧民層の出なんだから。お坊ちゃんにはわからんだろうよ」

「…返す言葉もありません」

クロトはとある事情により、奨学金制度を利用して学園に通っている。一方のロンは三大貴族に数えられる名家・ハウマンス家の三男であるため、そういった金銭面の苦労はわからないことがある。


ところで階級制度というものが大昔には制定されており、現在ではその差別化を禁止する動きが国ではなされているが、未だにそれを口にする人々が多いのが実情だ。

しかし、二人はそういった事情を超え、もう何年も友好関係を築いている。それは二人に限ったことではないけれども。


会話をしているうちに、二人は更衣室に着いた。

更衣室に入ると、二人は各自のロッカーを開け、素早く着替える。

"何事も迅速に、且つ的確に"が守護者ガーディアン科のスローガンである。

すべきことを終えると、二人は揃って寮までの道を歩き出す。

今日の授業は全て終了だ。


「そういえばさー」

ロンが口を開いた。

「お前、いい加減パートナー決まったのか?」

クロトは反応を返さなかった。

「やっぱり…」

ロンはため息をついた。

「どーすんだよ。あと三日…いや、今日終わるからあと二日しかないぞ?」

「…わかってるよ」

クロトはここ数日の出来事を思い出した。


鍛錬終了後に魔祓い師科の女子による猛烈アタックの嵐…。クロトはそれらを全て断っていた。

「顔だの何だのでオレの価値決められたくないし、あんまり不純な動機で一緒にいられるのも困るし…」

「でも、中には男子もいたじゃん。それって、能力的に認めてもらってるってことだろ?」

「そうだけど…性格が合わなそうな奴らばっかだったし…」

守護者ガーディアン側にも、マスターを決める決定権がある。魔祓い師は、守護者に認めてもらって、初めて契約をすることが出来るのだ。

「なんていうか…ちゃんと"オレ"を見てくれる人にマスターになってほしいっていうか…」

「…ま、お前の言いたいこともわかるよ。慎重にもなりたくなるわな」

「そういうお前はどうなんだよ」

クロトは反撃のつもりでそう言った。しかし…。

「あ、ごめん。そういや言ってなかったよな。俺、明日発つから」


一瞬時が止まる。


「……………………………………………は!!!!???」

「やー、悪い悪い。伝え忘れてた。ってわけで、俺この後荷造りで忙しいからさ!」

「ちょっと待て!! 聞いてないぞ!! いつの間にっ」

「ん~…最近」

「最近て、お前!! くっそー、お前もまだだと思ってたのにぃ…」

「お前と一緒にすんなよ。慎重になりすぎるのもダメだと思うぞ~。こう、ビビッときたら行かなきゃ~」

ロンの顔が途端に緩む。それに、クロトは何かを感じ取る。

「…相手、女だな」

「あ、わかる?」

「うるせ、バカ!!」


バシッ


クロトは腹いせに親友の頭を思い切りはたいてやる。

「いって~! 暴力反対!!」

「バーカバーカ!」

「ガキかよっ」

…通常、この課外授業でパートナー契約を結ぶ学生たちは、大半は男女で組むことが多い。

だから、「パートナーが出来た」はイコール「彼女(彼氏)が出来た」と同義であるのが学生達の暗黙のルールとなっている。

「はっ、精々女にウツツを抜かすがいいさ、この裏切り者!!」

捨て台詞を吐くと、クロトはロンを置いて先に行ってしまった。

「あ、クロト待てよ!」

その後をロンは追うのであった。



数分後。

ロンをまいたクロトは、木の上にいた。

寮は小さな林の中のようなところに建っていて、その中の一画の木に登り、物思いにふけっているのである。

(あ~…ロンも明日行っちゃうのかぁ…)

ロンにはああ言ったが、本当はクロトも内心焦っている。

選り好みしている場合ではないことも分かっている。

(それでも…ちゃんと自分に合ったマスター探したいんだよなぁ…)

一生を決めるかもしれないパートナー選び。

クロトは不純な気持ちでそれに臨みたくはなかった。

(何より、オレは立派な守護者ガーディアンになって"あの人"に恩返ししたいんだ…。こんなことで立ち止まってるわけにはいかない)

クロトには守護者ガーディアンになりたい理由がある。そのためには、まずマスターを得なければ。

(…とにかく、明日まで待ってみてダメだったら…)

魔祓い師科にも守護者ガーディアン科にも、こういうときの救済措置として進路変更の措置が取れる。

パートナーを得られなかった学生は、これを利用して別途科目を学び、卒業することが出来る。別に学生の内からパートナーを無理に得なくても、卒業後の進路でどうとでもなるのである。

(※ただし、魔祓い師科に至ってはクラスによってパートナー制度を義務付けられ、条件に満たない学生は落第することもあるのが守護者ガーディアン科との違いだ)


(…っし!さっきはぞんざいにしちまったけど、明日のロンの出発はちゃんと見送ってやるかな…)

クロトは高い木の上から軽々と飛び降りると、自室に向けて颯爽と行ってしまった。


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