プロローグ
「無理!! やっぱ納得いかない!!」
少女の悲鳴にも似た、甲高い声が部屋中に響く。
「お、落ち着くんだメル……」
そう言った人物は、目の前の少女の気迫に圧され気味に言った。年の頃は20代半ばごろ、カナリア色の長い髪を一つに束ねている。
服は真っ白で聖職者のようだ。
女性のような顔立ちをしているが男性で、ここ「聖アールシェイド学園」の最高責任者である。
そして、目の前の少女は灰色のワンピースのような服を着ており、腹部の辺りには大きな十字が描かれている。
これはここの制服だ。
つまり彼女はここの生徒である。
少女は白と紫の縞々の柄をした丸っこい髪飾りでローズピンクの髪を二つに結っているのが特徴的で、瞳の色は男性と同じで青紫色。
現在彼女は立派な作業机に足を掛けて、男性を締め上げている。傍から見たら、少女が最高責任者…つまり校長に掴みかかっている姿は大問題だろう。
しかし、理由がある。
「落ち着けないわよ!!!」
「だから、ゆっくり、落ち着いて話を…ぐるじぃっ、める、じまっでる!! おにいぢゃんじんじゃうがら!!」
襟元を掴みかかられて喉が締まり、おまけにガックガックと揺さぶられている。
慌てて傍で控えていた人物が止めに入る。
「メル様! いえ、メルさん! 落ち着いてください!!」
歳は男性と同じくらいか。眼鏡をかけた女性だ。
ブロンドの長い髪を一つにまとめ上げている。
そして、軍服のような青い制服を身につけている。腰にはレイピア。
「離して、セシリアさん!!」
少女・メルはセシリアと呼んだ女性に瞬時に引きはがされ、その腕の中でもがく。
「だ、だめです! それ以上はフレド様の首が締まってしまいます! どうか、落ち着いてください!!」
「むきぃ~~~っ」
メルは歯を剥きだして甲高く唸る。
「そ、そんなに怒るとは思わなかったよ…」
ゲホゴホ言いながら、男性…フレドは言った。
妹に若干引き気味である。思わず後ずさる。
「怒るわよ!! なんで兄様が勝手に私のパートナーを決めるのよ!!」
メルは吠えた。
それが逆ギレだとわかっていても。
「って言っても、もうほとんど選べる人材は残ってないだろう? それに、彼に対して不満があるとは思えないけど…」
「ええ、能力的にはね!! でも、そういうんじゃないでしょ!! 一生を決めるかもしれない大事なことなのに、私に決定権はないわけ!?」
「って言ってもな~」
約束は約束だし…ぼそりと呟きながらフレドは頬をポリポリと掻く。
「フレド様、メルティア様…お願いですからもう少し声のトーンを落としてください…」
セシリアが懇願するが、二人は…特にメルの方は聞いていなかった。
「もぉぉぉ!!! 兄様のバカバカバカッ」
少女がそう言った瞬間だった。
セシリアがハッと短く息を飲む。
鋭い視線で扉を睨むと、
「誰!?」
誰かの気配を感じ取り、息もつかせぬ速さで扉を開け放った。
風が吹き抜けたかのように、一瞬の出来事だった。
開け放たれた扉の先にいたのはメルと同い年くらいの少年で、ここの制服を着ている。
背中には大剣、右目には黒い大きな眼帯をつけている。
その少年が、唖然とした表情でそこにいるメンツを見た。
「…“にいさま”…? …“メルティア様”…!?」
少年は真っ青な顔をしながら、消え入りそうな声で呟いた。
今、彼はとんでもない事実を知ってしまったのだ。
残りの三人も彼の一言で真っ青になっている。
知られてはならない事実を知られてしまったからだ。
メル=リーマス、聖アールシェイド学園魔祓い師科6年生。
本名はメルティア=アールシェイド。兄はフレディオ=アールシェイド。ここの校長である。
二人はこの国の法王の子で、メルはその素性を隠しながら学校に通っている。
これからメルと、その素性を知ってしまったこの少年との物語が始まる。
まだプロローグですが、ご閲覧ありがとうございます。
あらすじにも記入がありますが、こちらの作品は自作HPで掲載していたものをリメイクしております。
これからどんどん物語が動いていく予定ですので、どうぞ暖かく見守って頂けると幸いです。
ちなみに、いずれ甘甘展開にしていく予定ですので、乞うご期待(笑)