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シーソー  作者: 本快
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第1話

  何で…泣いてるの…

 何で…ここに来たの…

 何で私は…ここにいるんだろう…


 あの日の少し前から、色々な街で特定の場所が爆破されてるって、よくニュ-スで言っていた。

 それは全て外国の軍事基地だった場所。

 40年前の戦争時に上陸軍により建てられた敵国の駐屯基地、その場所だという。

主力軍隊を壊滅されても負けを認めず戦い続けた東部の島国。

勝利を信じて戦い。犠牲をいとわず戦い。その犠牲に報いるために戦い。

負けを認められず。身を砕き骨が粉になっても敵に一矢報いるためだけに続けられた戦争。

その結果がこの各地に建てられた無数の外国軍基地。この年それを狙った爆破事件が各地で多発し、ようやく決まりつつあった、外国基地の縮小プランがどうなるのか、連日のようにテレビで言っていたのを覚えている。

 あの頃まだ子供だった僕にはよく分からない話で、どうせ壊すなら爆破されてもいいじゃないか、などと思っていた。

「テロって奴かしらこれって…恐いわね…」

「この近くにはなかったわよね。基地跡なんて」

「あの近所の公園ってそう何でしょ。昔は基地だったって」

「でも、もうあそこは随分前に公園になってるから…」

「そうよねぇ。いくらなんでもやらないわよねぇ」

 テロ…不発弾…旧国軍…色々な言葉が飛び交ってはいたが、まだ小学生だった僕には分かるはずのない話で…でも、近所のおばさんのその言葉は何故か耳に残っていた。

 あの近所の公園ってそう何でしょ。昔は基地だったって

「公園って…ここだよな…あっ…」

 あぁ、そうだ。公園の横に立て札があったんだ。僕はそれを読んだんだった。

「えっと…何て読むんだ…国軍…基地跡地…16丁目18番…?」

 へぇ、本当にそうなんだ。

 僕の知る限りその場所はずっと公園で、そこが公園以外の何かであるなんて想像すら出来なくて、ただ漠然と「そうなんだ」と思っただけで僕は、時間がない事を思い出し学校へと急いだ。

 キ-ン コ-ン カ-ン コ-ン

 小学校のよく鳴り響く終業ベルの音を覚えている、きっとこれがなるのを待っていたんだろう。

 ベルが鳴りやむとしばらくして校門から次々と子供が出てくる。僕も学校を出ていくのは早かった。

午後の時間が楽しみだった。

いや単純に勉強が嫌いな、普通の子供だったんだと思う。

僕は堀川 春という名で当時ここに通う六年生だった。

確かこの頃は背が低くて、少し長くなりたれてきたスポ-ツ刈りの髪をたらして、あぁこの頃から垂れ目だった。

「じゃあな堀川」

「あぁ」

 この曲がり角で友達と別れ、ここからは一人で公園の前を通り家に帰るのがいつもの下校路。

「ねぇ?」

 そうだ友達と別れてすぐの場所、ここでアイツと出会ったんだ。

「ねぇ…聞きたいの」

「何、オレに言ってんの?」

 背後から声をかけて来て僕は自分に言ってるのかと半信半疑で問い返したんだ。

 回りには人はいなかったけど、聞いた事のない声だっただけに僕は自然とそうしていた。

「何か?」

 少しぶっきらぼうだったかな…色々な噂を聞いて子供心にも警戒していたのかもしれない。

まぁ、相手を見たらそんならそんな心吹っ飛んだけど…

「さっき呼んだよな」

 僕より頭一つ小さいくらいの背で白いワンピ-スを着て、とても長い黒髪を腰までたらした少女、振り返ってこっちから声をかけても一言も返してくれないから少し焦った。

これで何も言わなければ背を向けて立ち去ろうと思った時だ、少女が声を発したのは…

「…16丁目18番って知ってる…?」

「えっ」

 普段なら聞かれても分からないその数字だが僕は朝の立て札を思い出していた…

「それって…あそこだよな…」

「知ってるのっ!」

 急に詰め寄って来た少女に僕は少し気押されて、続く彼女の言葉に頷いて肯定してしまった。

「知ってる…と思う…」

「じゃあ案内して」

「あっ、あぁ」

 僕はあの時「何でオレがっ」って思った。でもOKしてしまった後だったし、後をついてこられても困るからって理由で仕方なく案内した。

まっ、結局は自分の家の隣で、どうあっても通る場所だったっていうのが大きかったのだが。

「公園?」

「あぁ、ここだよ16丁目18番…って」

「そんな…」

 少女はそう小さくつぶやいて公園の前で動かなくなった。僕の声も聞こえない程に、ただ目の前の公園に見入っていた。

その公園はマンションが一つ建つ位の敷地がある大きなもの、とても人気の場所で晴れた日の昼には子供の遊ぶ姿が絶えることはない。そんな場所だった。

「じゃあオレは帰るぞ」

 まったくの無言で、何のリアクションも返さない少女をおいて僕は、公園の隣の自分の家へ入っていった。

 そう、その日はソレで少女とは二度と会わず。でも、昨日のあの事はずっと気になっていたんだ。

 公園の前に置いてきてしまったあの子の事を…だからなのだろう。あくる日はいつもより早く目を覚ました。

 僕が知るかぎりあの子は、あの日別れた時と同じ場所、公園のフェンスの前でよく立っていたな。

「何やってんだ?」

 次の日、学校に行くべく家を出た僕は、公園の前で足を止めた。そこにいたのは昨日の姿のままのあの子だった。

「おいっ!何か言えよっ」

 僕の問いにも無言で公園への視線もそらさず、ただそこに立ち尽くしている。

「おいっ!お前ランドセルも背負ってねぇじゃねぇか!学校に行かねぇつもりか?」

 それでも返って来る言葉はない。

「あれ?お前…」

(昨日と同じ服?まさかコイツ帰ってないのか?)

「お前いつからここに……」

「……楽しそう…」

「はっ?」

 僕の言いかけた言葉は、少女の不可解な言葉により止められた。

「……皆…楽しそうだった…」

 まだ誰もいない朝の公園を見て、小さな声であの子が言った。

あれは、多分自分に言いきかせるために…だったんだと思う。

「何だよ遊びたいんなら遊べばいいじゃねぇか」

 などと言っても返りはやっぱり無言。

「変な奴、あっオレもう遅刻しそうだから行くぞっ」

 やっぱり無言。

「くそ、やっぱ変な奴だ」

 悪態をあえて口に出しても、帰ってくる言葉はない。

「はぁ、じゃあな」

 また何を言っても無反応な少女を一人残し、僕はその場を後にして学校へと向かった。

 そして放課後の、いつもの帰り道。

「何だろう。何て言うのかな…」

 僕は深く悩みながら言葉を探す。

 いや、探さずともいいたい言葉は決まっていた。

「お前、暇だろ」

 学校の帰り再び公園の前で、朝と同じ場所に立つあの子と会った。

「まったく、何がしたいんだお前?」

「あっ…」

 やっと僕の言葉が届いたのか、ずっと公園を眺めていた少女がゆっくりこっちに向き直った。

幼い顔立ち、だから自分より年下だと思った。病弱とは思わないが、活発ではないのだろうと思う。喋り方、言葉数を含めて元気とはほど遠い印象だ。

だから思ったのが事情持ちだ。

「もう学校終ったぞ不良」

 こっちに向いても例の如く、やっぱり無言。コイツ喋れたよな。などと不安になる程、口数がない。

「何だよ。遊びたいなら中で遊べばいいじゃねぇか」

 これにも言葉は返ってこない。

 やはり無視か。と僕も公園に視線を向け。すると隣から聞き覚えのある小さな声が届いた。

と言っても、会ってまだ数回しか聞いてない声だったりするんだけど。

「ワタシは、入っちゃ駄目だから」

 その少女がこぼした言葉を聞いて、少なからず苛ついたんだと思う。

僕は公園の中に睨みをきかせて言った。

「何だいじめられてんのか?ふてぇ奴だ公園は皆のもんだってのに」

 が、その視線の先には、犬の散歩をするおじいさんだけしかいなかった。

少し時間が遅かったり、天気が崩れそうな空模様だとこう言うときもある。

「こっ、これは…」

 僕はその光景にとてつもないショックをうけた。

「これは少子化によるいじめの高年齢化かっ!なんてこった!」

「違うよ…」

「ま、だよな」

 推論はあっさりと否定される。で、少しホッとする。

 このボケ、スルーされる可能性は十分すぎるほどあったからだ。いや、かなりリスキーだったと言える。でも彼女はちゃんとつっこんでくれた。

で、その彼女はと言うと、隣で小さく笑っていた。

「つっこんでくれてありがとな」

「つっこ?なにそれ?」

少女は何言ってるのか分からないと言う感じで、首を傾げている。

でもさっきまでの暗い雰囲気は消えていた。

「なぁ、今は誰もいねぇみたいだぞ。それでも入らねぇのか?」

少女は首を振る。

「ここはワタシの目標で…スイッチ…でもここは絶対壊しちゃいけない場所だから」

「はぁ?何言ってんだ訳分からねぇぞそれ」

 そしてまた、公園を見つめてだんまり。

「何々だよ……よし今日は特別だ。オレが遊んでやるっ行くぞ!」

 言って彼女の手を取り公園の中へと歩きだす。が、少女は動こうとしない。

「ほらっ日が暮れちまう」

 うつむく彼女をはやすため、引く手に力を込める。

「いやぁぁぁぁっっっっっ!!」

「なっ何だよ」

 夕暮れの公園に響いたのは少女の絶叫。

 大声に驚き僕は慌てて手を話す。すると彼女はすぐにその場から離れ、金網の横でガタガタと身を振るわせていた。

「えっ…えっと…悪かったよごめん」

 何か悪い気がして恐る恐る声をかける。少女は震えたままうずくまり、振り返りもしない。

「じゃあオレ…」

 帰ると言いだそうとした時、震えていた彼女から、小さな声が漏れた。

「…ごめん」

「えっ」

「ごめんなさい・・・・・・」

 その言葉を繰り返す少女を見て、僕は頭を抱える。そして、ため息をつくと決めた。

「ついてこい他の公園を教えてやるよ」

 えっ?ともらして、不思議そうな顔で見上げる少女の手を取り、僕は歩きだした商店街を抜け細い道へ入り。ズンズンと歩く。

 今度は簡単に手を引けた。さっきのような抵抗はない。

 これは彼女が戸惑いながらも、足を進めてくれている証拠だ。

 僕は少し嬉しくなりながら、そこを目指す。

 そこは遠くない場所、子供の会しでも四、五分だろう。こじんまりとした公園の前まで僕は少女を連れてやって来たんだ。

「ここならどうだ?小さいけどよ。他の奴も来ねぇし気がねなく遊べるだろ」

「……ありがとう」

 小さくお礼を言った後、うつむいて黙る。

「う-ん、駄目かやっぱり」

 先ほどの公園と比べると遙かに小さい。

 意気揚々とつれてきたせいで、かえって落胆させてしまったのかもしれない。

そう思ったとき、少女の声が聞こえた。

「…えっ…ううん駄目じゃない。えっと…また遊べるなんて思ってなかったから…」

 それは少し、涙声の小さな声だ。

 そして顔を見せずに、彼女は一歩公園の方へ足を進める。

「公園なんて何年ぶりだろ…」

 小さな公園の入口を通った瞬間、彼女の顔が少しほころんで笑った様に思えたのを覚えている。

 それは彼女の声が、本当に嬉しそうだったからだろう。

 僕は何て言うかホッとしたと言うよりも…とても嬉しくなって、彼女の後ろ姿を見たまましばらく立ち尽くしていた。


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