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非実在青少年は異世界で死霊術師を愛でる  作者: A・F・K
長いプロローグ・城脱出編
7/54

※7 チート主人公を魅了するなら



 巨大な迷路も斯くやといった様相の本城内部をタマが駆ける。

 足取りは道順を覚えているとのことで、迷い無い。能力などの恩恵か、その矮躯から想像できないほど勁疾である。


 だがそれよりもより迷路を熟知し、身体能力に優れた者達が近づいてきているのだから、気が気ではない。


 いくらタマが『死霊術』の特殊能力を持っていて、おそらくはそれに適応するためもあって最初から質の高い魔力を大量に持っていたのだとしても、使い続ければいつかは尽きる。

 ましてやゲーム中でも後半で使うような範囲魔法をバラ撒けばすぐに尽きるのは目に見えている。

 だから同時に大量の『炎熱・爆炎5』を使ってのサロン爆破後には魔力が枯渇しかけていて、強制回復させるために危険を承知で『押し入れ』を使った。

 それは『RPGシステム』の恩恵であるレベルアップによって、ゲームステータス的には化け物じみた数値を誇る魔力量(MP)魔法力(MAT)がさらに上昇を続けている今でも変わりはない。

 そしてゲームによってはレベルアップで消費されたものが全回復するものもあるが、残念ながらこの『RPGシステム』には適応されていない。


 だからもしタマが一人で魔力が尽きることがあれば、もしそのときに『押し入れ』を使うことが出来ない状況であったなら、MATとMP以外のステータスが軒並み低い彼女は攻撃手段も自衛手段も失うことになる。

 非戦闘員ぽかったエルフ耳女性でさえ、爆破された燃え上がる瓦礫から這い出てくるレベルなのだ。

 戦闘訓練を受けたエルフ耳男性や聖隷はどれほどなのか、考えたくもない。

 ましてや首輪持ちは死を恐れないだろうから余計にだ。

 すでに本城に侵入するまでにも魔法を多用していたタマのMPは半分近い。

 少しずつだが自然回復してきているし、『押し入れ』を使えば一息に完全回復できるが、どうやら隠匿系統の効果が継続している状態では『押し入れ』は使えそうにないことが先ほどわかった。


 正直、かなり焦ってる。

 ゲームでは隠匿系統が付与されたままでもログアウトもホーム帰還も出来たのだ。

 戻ってきたときには隠密効果が切れてたが。

 どうやらなんでもかんでもゲーム的なのが優先されるわけではないらしい。


 引き籠もっていたとか言ってるけど、きっとこのタマは件の押し入れがある離れに行く際、家族になにするとか全部話していたに違いない。

 なんとなくそんな気がする。

 家族に拘っている部分が見受けられるし。確認してないけど。


(ちょい待って、五十メートル先壁際で待ち伏せ、規模十ほど――間違ったさらに二十。追ってきてるのと併せて四十くらいです)


(待ち伏せは無視。

 追ってきてる方の『炎熱・爆炎1』の起動と、各所の壁や床に『炎熱・爆炎3』ぐらいで穴あけを。

 私たちは他の静音性が高い魔法で抜けることは出来る?)


(俺みたいな幽霊壁抜けは出来ないけど、『土石・地裂』系統で爆破よりは静かに床破壊は出来ると思います)


(それをお願い。幻惑とかでデコイは可能?)


(了解。幻影見せるのは視覚系統だから多分効かないでしょう。

 でも爆炎で空けた穴に飛び込ませれば、数瞬は稼げるかもしれません)


 描画魔法実行と同時に具現化した魔力を感知したのか、待ち伏せ部隊が突撃してくる。


 当初から予想していたし、サロン爆破時のエルフ耳や聖隷の行動でその存在をほぼ確信していたが、どうやらここの住人は、そこまで正確ではないようだが離れた場所の魔力を感知する能力を持っているらしい。

 おそらくはそれを頼ってであろう、徐々にタマのところに聖隷の騎士っぽいのが集まりつつあった。

 爆破を恐れてか、エルフ耳の姿は少ない。


 そしてこの予測が正しければ、先ほどの渡り廊下で行動に移したのは正解だったと思う。

 あちらは最初からタマの魔力量の増減を感知していた可能性があるのだ。

 つまり罠の危険があった。

 杞憂だった可能性もあるけど。

 杞憂だったとしたらそのまま付いていけば楽に目的地付近にいけたかもしれないのは考えちゃいけない。

 く、首輪をちょっとでも調べられたらアウトだったし。


 ちなみにタマは魔力感知が出来ない。なんとなくこれが魔力じゃないかという感覚はあるらしいのだが、わかるのはせいぜい体内とすぐ側の魔力くらいのようだ。

 ゲームと同じ仕様であれば遠距離の魔力を感知する能力も得られるようになるだろうが、ちょっと特殊ですぐに覚えるのも難しいし、今のところそれはいいだろう。

 だから今は俺が先行して索敵だ。


 真っ先に追いかけてきていた騎士にかけていた魔法が発動したのだろう。

 まだ距離はあったが振動と爆発音がここまで響いてくる。


 そのせいでタマと骨塊にかかっていた隠匿系統補助が切れて姿が露わになるも、もうそれもあまり意味がないことだとわかっているので気にしない。

 隠匿系統が攻撃行動をとると効果切れを起こすのは多くのゲームの共通仕様だ。

 突入には役に立ったが、これ以上の隠匿は必要ない。そう判断したのだ。


 と、そこで突然タマが抱えていた死霊兵スズキの骨塊が動いた。

 タマのやや斜め下へ空間を滑るように移動した骨塊を、床面を突き抜けて現れた強烈な光が貫く。


 光が、はじけた。


 カァン、という甲高い音が近くで響き、同時に各所から聞き慣れつつある爆発音が轟く。


 光が収まる前には俺は状況を理解していた。

 幽霊のためか視覚自体が特殊なのであろう俺は光で目が眩むことがなかったのだ。

 骨塊の動きはさっき覚えさせた『防御術・身挺庇護』というスキルが発動したため。

 自身よりも防御力が低い味方を致命の一撃から庇うだけの自動技能だ。

 つまり今の一撃はタマが死んでいた一撃だということ。


 だが死霊兵を穿ったものの、そこで光が止まったことが幸いした。

 その瞬間にはタマはすでに身をよじり回避行動を取っており、直後の光の爆発の余波で吹き飛ばされはしたものの、壁に叩きつけられただけで済んでいた。

 逆に骨塊に遮られ光に曝されたタマの反対側は、石材もなにもかもが鋭利な刃物でえぐり取ったかのような穴あきチーズの様相を呈していた。


 光が飛んできた大穴とその向こう側は無視し、俺は瞬時にタマへ回復魔法の魔法陣と隠匿系統の魔法陣を複数展開する。

 キャストタイムが少ないそれは光が収まる前に発動し、彼女の姿を隠した。

 気付いたタマの口元がありがとうの形に動く。

 てかやっぱりこの娘っ子の判断能力とか身のこなしパネぇ。

 小説家とか言ってたけど、なんか違うとかいうレベルじゃねーぞ。


 跳ねるように身を起こしたタマが側に落ちていた死霊兵スズキの骨塊を拾い、走り出す。

 光でえぐられた、待ち伏せ部隊がいた方へ。

 破裂した光で味方ごと吹き飛んだのは嬉しい誤算だ。


 骨塊は先の攻撃でその半分ほどを消失しており、ステータス項目を見てもギリギリ戦闘不能になっていないだけの状態であった。

 さらにバッドステータスとして欠損の項目がついており、最大生命力(HP)が大きく減っている。

 近くに細かい骨片が落ちていたが拾ってる余裕もなく、死霊術系統専用の回復魔法『死霊術・魄解1』を使うことでHPは回復させたが、最大HPを削る今の攻撃をもう一度耐えることは不可能だろう。

 今死霊兵を消失すれば描画魔法が使えなくなる。もう盾には出来ない。


 その実、死霊兵スズキは相当な防御能力を誇っていた。

 ゲーム中におけるゴーレムなどの創造召喚物は、その術者のMATなどに比例してステータス総量が決まり、死霊兵スズキのそれはほとんどが防御に関連するものに振られていた。

 よくある壁ペット仕様というやつだ。

 ゲーム中でレベルカンストさせてもあり得ないであろう高さのMATで作られた壁ペットを貫く一撃。

 そんな攻撃が出来るとしたら――


(神子)


 そうタマから念話ログが届くと共に、隠匿を施した際に残した幻惑魔法の彼女の幻影へ、また光の矢が床面から襲いかかり貫いていった。

 幻影が霧散する。


 とっさの判断で行った賭けは勝った。

 おそらく神子であろうこの光の矢の使い手は、城の他住人同様に魔力感知できるわけではないようだ。

 聖隷はこの世界の住人で、神子は別世界の住人と見ていたのは正解か。

 そしてこの相手の神子は壁抜け系の視覚能力を持っていると思われた。

 その場でまた光が爆発しなかったことに安堵しつつ、俺はその矢が来た方向へと壁も床もすり抜けて進んだ。


 広く間取られたそこには数名のエルフ耳と聖隷達。

 そして何かを探すように視線をせわしなく動かしつつ、光る短槍を構えた金髪碧眼の美しい女。首にはタマと同じ首輪。


 弓矢じゃない。

 日本人でもない。


 どうでもいいようなそんなことを一瞬考えながら、空気中の魔力を使ってその女の周囲を固めていた聖隷やエルフ耳を囲むように魔法を複数展開する。

 魔法陣が見えることも気にせず展開したそれは最低位の水冷系攻撃魔法と、属性場作成という、一定範囲の環境を特定の属性を使いやすいものへとバランスを傾けるというものだ。

 この場合の効果は、水冷系の魔法効果増大だ。

 だが足下が凍り付くほどの冷気がわずかな間に生まれるも、すぐさまそれは魔法陣ごと聖隷やエルフ耳が魔力で打ち消したり、結界状の魔力でその場ごと封印されてしまった。

 残ったのは息が白くなる程度の気温と、少々凍り付いた床面だけ。

 魔法の発動によりタマがまた見えるようになり発見したのだろう、神子女の視線が定まる。

 短槍の穂先が動き出す。

 周囲の魔法陣も冷気も意に介さず、恐ろしいほど迅速で冷静な行動だった。

 そしてその姿のまま、神子女は止まった。


 事前に仕込んでいた隠匿魔法が再度発動し、タマがまた姿をくらます。

 タマの幻影が本体が滑り落ちていった穴とは別の穴へと降りていくも、神子女は動かない。その視線も。


 近くなってきたため把握しやすくなってきているのかもしれない。

 白い息を吐きながら近くのエルフ耳が女へとタマの位置や攻撃タイミングを逐一教えても、神子女は微動だにしない。

 何度もその移動先を教えつつ、徐々に近づいてくるタマの存在に焦った伝達係のエルフ耳が女を見た。

 見て、気付いてしまった。

 神子の女はその表皮に白い粉が吹いていた。

 毛先やあご先には極小のつらら。

 充分に冷えてこれ以上水分が結露することが無くなったのか、空気中の水分はそのままキラキラと輝きながら下へ下へと降りて、その足下を凍り付かせていた。

 すでに神子の女は体内で水冷の属性場を形成され、低位の単体水冷魔法で内側から凍り付いていた。


 そしてそこで一瞬だけ悲痛な表情を浮かべたエルフ耳男は、気付かぬ間に凍り付いていた他の者達同様、その場で氷像と化した。


 タマが氷像の側を通り過ぎ、さらに地下へと足を進める。


 ずっと爆発や火で攻撃していたため、時間稼ぎや意表を突くことも考えてやってみたのだが思った以上の効果だ。


 特に何もないところから魔力が沸き立ち爆炎が飛んでくる恐怖を植え付けた効果か、飛び回ってこの場所以外にも空気中の魔力から適当な低位魔法を展開しているのだが、おもしろいように引っかかっている。

 エルフ耳の中には自分の魔力を操られていることに気付いた者もいたが、気付いただけで対処される前には勝負がついていた。

 一定距離まで近づけば、何も解らないまま体内から魔法を使われて死ぬのだ。

 もうこの付近にはタマに近づこうとしている者はいない。


 この投げ槍神子を倒すのと同時に、他に二人の神子も潰していた。

 ここの近くで他のエルフ耳と待機していたのだ。

 何かをしてくる前に潰せたのは僥倖だ。


 どうやら神子ごとに飼い主のようなエルフ耳が決まっていて、それぞれのチームごとという様子だった。

 なぜ神子同士を協力させていなかったのかは解らない。

 あるあるでいけば、派閥争いでもしていたのかもしれない。

 同族の女殺されてただのナメプはないだろうし。


 思ったより数が少ないが、残りはおそらくは外に展開、一時集合しているのだろう。


 予想だが、彼らは現状でタマを安全に倒すには遠距離から飽和攻撃しかない、と思っているはずだ。

 もしくは一度に大量に聖隷を特攻させての自爆戦法だ。


 それは正解だ。

 そんなことをされたら、今のタマでは防ぎようがない。

 だが同時にこの先にまで無差別な火力を浸透させるわけにもいかないのだろう。ここで迎え撃ってきたのがいい証拠だ。

 この先に、俺たちが召喚されたあの場所があるからだ。

 いや、もしくは、その場所で絶対に迎え撃てる何かがあるか。


 タマが足を止める。

 最終予定位置よりいくらか手前だ。

 先行して俺が目的地周辺を確認しに行く。

 途中、通り過ぎた俺たちが召喚された場所に、如何にも武功を積んでそうなエルフ耳数名と、複数の神子や聖隷らしき者達が待機していた。


 彼らは周囲を警戒しながらも、全員がタマのいる方を見ているわけではなかった。

 そこら一帯には魔力がないため感知できないのだ。

 空気中の魔力が召喚の間に入ってきても、その端から神子の一人に吸い込まれるようにして消えていっていた。

 特殊能力だ。どうにかしてこちらの描画魔法の正体に気付き、対処法としてそこで張っているのだ。

 おそらく他のメンツは全員近接系の特殊能力持ちだ。

 なにより重要なのは、そこにいた神子や聖隷らしき者達は、首輪をしていなかったという点だろうか。

 なるほど確かにこの布陣だとこちらに勝機は薄い。


(まあそれも想定の内ってね。もうちょっと前にその布陣で来てたら危なかったですけど。

 タマさん、あと五十センチ進んで下さい。それで届きそう)


(わかった。ところでなにかあったの?)


(召喚の間に出待ち複数アリ。

 神子の中に魔力吸収による魔法無効化能力持ち発見。

 しかもエルフ耳に首輪なしで協力しているみたいです。

 他にも耳なしで首輪なし複数確認した。おそらく近接特殊持ち)


(そうか。後の対処が面倒だね。距離はこれでいい?)


(おっけ届きました。向こうから攻めてくるつもりはすぐには無いみたいだし、これやったら魔力回復もかねて『押し入れ』に引っ込んで、逃げたのを偽装しますか?)


(生じる混乱の度合い次第かな。そこに待機しているということは、おそらくこちらの能力は割れているということ。その場合長期間篭る必要になるだろうし……。

 とりあえずこの状況で後ろから飽和攻撃されては敵わない。早く済まそうか)


(もう終わりましたよ。あとは起動させるだけ。

 死霊兵への指示は、本当にタマさんがやるんですか?)


(ああ、私がやる)


 そこは、召喚の間のさらに地下にある空間だった。


 不可視の色彩と幻光に彩られて、水の入っていない巨大な球状水槽をたゆたう二つの人影は、今の俺の状況に少々の親近感を覚えさせる。


 一つは白人系の美丈夫。

 伽藍ような虚ろな瞳を腕の中の小さな影へ落とし続けている。


 一つはミイラ化した亡骸。

 艶こそないものの豊富な髪量と身にまとった衣装から、女性で且つ高貴な身分であったろうことが予想される。

 その耳は、ミイラ化した現在でも外で見た誰よりも長い。


 女性は遺骸だ。

 周囲から吸い上げたわずかな魔力が彼女から美丈夫へと流れているものの、それだけだ。


 だが美丈夫の方は違う。未だ生きている。

 生きて、その身から強大な魔力を放ち続けている。

 魔力は水槽を越え、周囲にある中央のそれより若干小さな他の水槽へと届き、中にいるまだミイラ化してない人影へ渡ると、さらに拡散、着色されて遠くどこまでも、電波のように飛んでゆく。

 飛んでいった魔力は首輪持ちへと受信されていた。

 これにより途切れることなく装備者を魅了し続けるのだろう。


 ここにいるのはおそらく、全員なんらかの魅了系特殊能力を持った神子や王族だ。


 これが魅了の首輪というご都合主義アイテムの正体であった。



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